遺留分放棄とは? 被相続人の生前・相続発生後における手続きの違い
- 遺産を受け取る方
- 遺留分
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財産を残して亡くなった方を、相続における被相続人といいます。被相続人の配偶者や子どもには、遺産の最低限の取り分として遺留分が認められています(民法1042条)。
遺留分とは、「全財産を長男に相続させる」など、他の相続人にとって不利益となる内容の遺言があったとしても、相続人にある程度の財産を取得することを認める権利です。
しかし、遺産をどのように相続するかの話し合いの際に、他の相続人から「遺留分を放棄してほしい」と要求されるケースもあります。
令和元年度の司法統計によれば、墨田区錦糸町や江東区亀戸を管轄する東京家庭裁判所において、遺留分の放棄についての手続きは、157件ありました。錦糸町や亀戸でも遺留分放棄が問題になることはあるのです。
そこで今回は、遺留分の基礎的な知識から放棄の方法、注意点について、ベリーベスト法律事務所 錦糸町オフィスの弁護士が解説します。
1、遺留分(いりゅうぶん)の基礎知識
遺留分の放棄について考えるために、まず遺留分とは何か、基礎知識を解説していきます。
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(1)遺留分とは
遺留分とは、亡くなられた方の兄弟姉妹以外の法定相続人に認められている、最低限の遺産の取り分のことです。法定相続人とは、法律で定められた遺産相続の権利を有する人です(民法886条~民法890条)。
遺留分を有する人を、遺留分権利者といいます。遺留分権利者は被相続人の配偶者、子どもや孫などの直系卑属(ちょっけいひぞく)、両親や祖父母などの直系尊属(ちょっけいそんぞく)です。被相続人の兄弟姉妹は法定相続人ですが、遺留分権利者にはなりません。 -
(2)遺留分侵害額請求権とは
自分の遺留分を侵害された遺留分権利者は、侵害された分の金銭の支払いを侵害した相手に対して求める権利があります。これを遺留分侵害額請求権といいます(民法1046条)。
たとえば、父親が亡くなり、その相続人が長男と次男だけのケースにおいて、「長男に全ての遺産(1000万円)を相続させる」と父親が遺言を残したとします。この場合、次男の遺留分は、子としての法定相続分である2分の1のさらに2分の1ですので、4分の1にあたる250万円となります。次男は遺留分侵害額請求権を行使して、長男に遺留分である250万円の支払いを求めることができます。
2、遺留分を放棄できるタイミング
遺留分権利者は自分の遺留分を放棄することができます(民法1049条)。遺留分を放棄すると、遺留分権利者ではなかったことになり、遺留分を侵害されたとしても遺留分侵害額請求をする権利を失います。
遺留分を放棄するタイミングとしては、被相続人の生前に放棄するケースと、被相続人の死後に放棄するケースがあります。
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(1)被相続人の生前に遺留分を放棄するケース
被相続人の生前に遺留分を放棄するには、一定の条件を満たし、家庭裁判所の許可を得ることが必要です。
遺留分権利者にとって遺留分の放棄は、基本的にメリットのない行為です。被相続人がいつ亡くなるのかは誰にもわからず、相続財産や負債が相続の時にどうなっているのかもわからないのですから、被相続人の生前にする遺留分の放棄は、どれだけのメリットを失うのかがわからない状況で放棄することになります。
つまり、被相続人の生前にする遺留分の放棄によるデメリットは大きいことが通常であり、被相続人や他の相続人などからの不当な干渉があるおそれが強くなります。
そのため、被相続人の生前に遺留分を放棄するには、不当な干渉などによる放棄でないかをチェックして、遺留分権利者を守るべく、裁判所の許可が必要とされているのです。条件の詳細については3章で述べます。 -
(2)被相続人の死後に遺留分を放棄するケース
一方で、被相続人の死後であれば、遺留分権利者は、裁判所の許可を必要とせずに、自分の意思だけで自由に遺留分を放棄することができます。
被相続人が亡くなると相続が開始され、それまでよりも相続財産の予想が立てやすくなります。相続放棄という別の手続や遺産分割の話し合いで遺留分相当の相続をしないという選択もできるわけですから、遺留分権利者を守る必要性が、被相続人の生前と比べて大きく低下するため、裁判所の許可なしでも、遺留分権利者が自由に意思決定できるようにしているのです。
3、被相続人の生前に遺留分放棄するときの注意点
被相続人が生存しており、相続発生の前の段階で遺留分放棄をする場合の注意点を解説します。
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(1)生前の遺留分放棄には裁判所の許可が必要
繰り返しになりますが、被相続人の生前に遺留分を放棄するには、裁判所に申し立てをして許可を得る必要があります。許可を得られなかった場合は、申立人が望んだとしても遺留分を放棄することはできません。
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(2)生前の遺留分放棄をするための要件
生前の遺留分放棄を裁判所に認めてもらうには、以下の要件を満たす必要があります。
● 遺留分放棄が本人の自由な意思に基づくものであること
遺留分を放棄することが本人の自由な意思によるものであり、不当な干渉や圧力によるものではないことです。
たとえば、被相続人から「遺留分を放棄しないと〇〇をするぞ」と脅されてやむを得ずに放棄するような場合は、本人の自由な意思によるものとはいえないので、遺留分放棄は認められません。
● 遺留分放棄の必要性や合理性が認められること
本人の意思によるとしても、遺留分放棄をする何らかの必要性や合理性がなければ、遺留分放棄は認められません。
遺留分放棄は相続財産の取り分を失うという大きな影響がでるため、被相続人や他の相続人などからの不当な干渉があるおそれが強く存在します。このような不当な干渉をされて無理やり相続放棄をしようとする人は、遺留分放棄をする理由を十分に説明できません。ですから、裁判所は、遺留分放棄の理由をしっかりと聞いたうえで、納得できる理由が無い場合には、不当な干渉があると考えて許可をしないのです。
● 遺留分権利者に十分な代償が行われていること
遺留分放棄が本人の自由な意思であり、かつ放棄をする必要性や合理性があったとしても、それだけでは遺留分放棄はできません。
生前に遺留分放棄をするには、遺留分のかわりとして十分な代償を得ていることが必要です。十分な代償とは、生前贈与として遺留分に相当する金額の財産をもらっているなどです。 -
(3)遺留分放棄が認められなかった場合
もし、生前の遺留分放棄が裁判所に認められなかった場合は、どうすれば遺留分を放棄できるのでしょうか。
遺留分を放棄したい場合は、相続開始まで待つことが、穏便に手続きを進める手段といえるでしょう。
被相続人の死後は、裁判所の許可がなくても遺留分を放棄できるのですから、その時が来てから放棄すればよいのです。
前述のとおり、生前に遺留分を放棄するには厳しい要件を満たす必要があり、手続きをする際には、裁判所に要件を満たしていることを理解してもらう必要があります。遺留分の放棄や手続きについては、弁護士に相談したうえで慎重に検討することをおすすめします。
4、被相続人の死後に遺留分放棄するときの注意点
被相続人が亡くなってから遺留分を受け取らないと考えた場合、遺留分放棄の他にも相続放棄などの似た機能を持つ手続が存在します。そこで、主に相続放棄との違いを解説します。
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(1)死後に遺留分放棄をする方法
被相続人の死後に遺留分放棄をするには、様式などの決まりもないため、遺留分放棄の意思表示をするだけで足ります。
意思表示の方法としては、遺留分侵害額請求権を請求できる相手に対して、遺留分を放棄する旨の通知書や合意書などを作成するのが一般的です。
なお、遺留分侵害額請求権は、相続の開始と遺留分の侵害を知ってから1年が経過すると、時効によって権利が消滅します(民法1048条)。
そのため、遺留分放棄の意思表示をしなくても、上記の時効の期間が過ぎれば遺留分を放棄したのと同様の結果になります。 -
(2)相続放棄との違い
遺留分放棄に似た結果を異なる制度に、相続放棄があります。
相続放棄とは、相続人が遺産を一切相続しないことを選択する手続きです。相続放棄をした相続人は、はじめから相続人ではなかったものとして扱われます(民法939条)。
そのため、相続放棄をすると被相続人が残した相続財産は負債もふくめて一切相続しません。
一方、遺留分放棄の場合、放棄をするのは遺留分だけです。相続人としての地位は失わないので、財産は相続できますし負債は負担することになります。
5、遺産分割でトラブルになったときの対応方法
相続が開始されると、さまざまなトラブルが発生することも珍しくありません。遺留分もそのひとつです。他にも、主なトラブルとして、相続人同士で遺産を分けあう遺産分割協議がなかなか合意しないというケースがあります。そして、遺産を受けとりたくないと考えていても、他の相続人同士が争っていれば、争いに巻き込まれかねません。
遺産分割のトラブルにおける対応方法を紹介します。
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(1)遺産分割とは
遺産分割とは、遺言書などがなかった場合、被相続人の遺産をどのくらいの割合で分けるかについて相続人同士で話し合って決めることです。
遺産分割協議は、相続人全員で行うことが定められており、そのため参加を拒否する相続人がいたり、消息が不明な相続人がいたりすると協議を進めることができません。
ただし、全員が一堂に会する必要はありません。遠方に住んでいる、仕事で都合がつかないなどの場合は、電話やメールでの承諾でも合意があったとみなされます。 -
(2)遺産分割はトラブルになりやすい
被相続人が遺言をしていない場合、相続財産を誰がどの割合で受け取るかについては、相続人にそれぞれの言い分があるのが常です。
また、相続のもめ事は、けして財産の大きさに比例しません。また、不動産は均等に分けにくいため、預貯金がなく自宅だけ残された場合もトラブルになりやすいといえるでしょう。
遺産分割で揉めてしまうと、話し合いで解決するのは困難です。その場合は家庭裁判所に遺産分割調停を申し立て、調停委員を介して協議を進めることになります。 -
(3)遺産分割のトラブル解決には弁護士を
遺産分割でもめ事になりそう、もしくはトラブルになった場合は、早期に弁護士に相談することをおすすめします。相続問題は被相続人である故人をめぐって家族や親族の思いが噴出し、争いが長引くことも珍しくありません。当事者同士では感情的になってしまう場合も、弁護士が間に入ることで冷静に対応できる可能性が高くなるでしょう。
また、訴訟・調停手続きはもちろん、話し合いの段階から弁護士が立ち会うことで、法的な視点で公平な判断やアドバイスが期待できます。特に今回ご紹介した遺留分放棄や相続放棄、さらには他の方法によって、遺産分割のトラブルからご自身が外れることができます。どの手続を選択すれば希望に合致しているのかという判断をするためにも弁護士のアドバイスは有効です。
さらに、相続税が発生するケースでは、税務上の手続きや節税対策についても専門家に相談したいところです。ベリーベスト法律事務所では、実績豊富な税理士や司法書士も所属しているため、幅広い相続問題をひとつの窓口でサポートします。まずは、お気軽に問い合わせください。
6、まとめ
生前に遺留分を放棄するには、厳しい条件を満たしたうえで家庭裁判所の許可を得なければなりません。一方、被相続人の死後に遺留分を放棄するのは、相続人の自由です。
親族や家族に「遺留分を放棄しろ」といわれた、遺産分割でもめている、など相続でお困りの際は、弁護士にご相談ください。ベリーベスト法律事務所 錦糸町オフィスには、相続問題の解決実績が豊富な弁護士が在籍しています。遺産相続のトラブルでお悩みの場合は、ぜひご相談ください。ご事情を詳しくヒアリングし、相続問題の早期解決に向けて力を尽くします。
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