海外出張中に労災にあったら? 労災保険適用条件と必要な手続き
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2021年に向島労働基準監督署内で発生した労働災害は741件でした。その中には、海外出張で何らかのケガをされた方もいるかもしれません。
海外出張中に事故に遭ってケガをした場合、労災保険給付を受けられるかどうかは具体的な事情によって異なります。たとえば、海外出張は給付対象ですが、海外派遣では給付されないケースがあります。また、休憩時に外出した際や帰宅後の個人的な作業中に起きたケガは労災と認められません。
今回は、海外出張中の事故についてどのような場合に労災保険給付を受給できるか、また、労災保険給付の受給までの手続きについてベリーベスト法律事務所 錦糸町オフィスの弁護士が解説します。
1、海外出張中の事故にも日本の労災保険は適用されるのか?
労働者が業務上の原因によってケガをし、または病気にかかった場合には、労働基準監督署に対して労災保険給付を請求できます。
ただし、労働者が海外出張中に事故に遭った場合には、常に労災保険給付を受給できるとは限りません。
海外出張中の事故に関して労災保険給付を受給できるか否かは、以下の3点によって判断されます。
- 海外出張と海外派遣のどちらに当たるか、
- 海外出張の場合、業務起因性と業務遂行性が認められるか否か
- 海外派遣の場合、労災保険に特別加入しているか
具体的な判断フローは、以下のとおりです。
- ① 海外出張に当たる場合
業務遂行性と業務起因性(後述)が認められれば、労災保険給付を受給できる - ② 海外派遣に当たる場合
(a)労災保険に特別加入している場合
業務遂行性と業務起因性(後述)が認められれば、労災保険給付を受給できる
(b)労災保険に特別加入していない場合
労災保険給付を受給できない
次の項目から、上記の判断フローについて具体的に解説します。
2、「海外派遣」中の事故は、原則として労災保険給付を受けられない
海外における事故が労災保険給付の対象となるか否かを判断するに当たって、1つ目のポイントとなるのが「海外出張」と「海外派遣」の区別です。
海外出張中の事故については、労災保険給付の対象となります。
これに対して海外派遣中の事故については、原則として労災保険給付の対象外です。ただし、労災保険に特別加入していれば、例外的に労災保険給付を受給できます。
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(1)海外出張と海外派遣の違い
「海外出張」と「海外派遣」の違いは、以下のとおりです。
- ① 海外出張
国内の事業場の指揮命令に従って業務に従事している場合は、海外出張に当たります。
(例)
- 日本の本社の指示を受けて、商談のため一時的に海外へ出張している場合
- ② 海外派遣
海外の事業場に所属して、その事業場の指揮命令に従って業務に従事している場合は、海外派遣に当たります。
(例)
- 現地法人の管理責任者として、長期間にわたり海外に駐在している場合
- ① 海外出張
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(2)「特別加入」をしていれば、海外派遣中の事故も労災の対象
海外派遣中の事故については、原則として労災保険給付の対象外です。ただし、労災保険に特別加入していれば、海外派遣中の事故も労災保険給付の対象となります。
特別加入を申請する海外派遣者については、派遣元の会社が特別加入の申請手続きをまとめて行います。労災保険への特別加入の有無については、海外派遣される前に必ず会社へ確認しましょう。
3、海外出張中の事故について、労災保険給付を受けられないケースの例
海外出張中の事故については、業務遂行性と業務起因性が認められる場合に労災保険給付の対象となります。
- ① 業務遂行性
事業主(会社)の支配下において、労働者のケガ・病気・障害・死亡が発生したことが必要です。 - ② 業務起因性
労働者のケガ・病気・障害・死亡が、会社の業務に起因して発生したことが必要です。
その一方で、業務遂行性・業務起因性のいずれかひとつでも認められない場合には、労災保険給付の対象外となります。業務遂行性・業務起因性が認められない場合としては、以下の例が挙げられます。
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(1)業務遂行性が認められない場合の例
海外出張中の事故が以下のような状況で発生した場合には、業務遂行性が認められず、労災保険給付の対象外となります。
(例)- 休憩時間に外出している際にケガをした場合
- 帰宅した後、家で個人的な作業をしている際にケガをした場合
- 休日に趣味活動をしている際にケガをした場合
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(2)業務起因性が認められない場合の例
海外出張中の事故について業務遂行性が認められるとしても、以下のような状況で発生した事故については業務起因性が認められず、労災保険給付の対象外となります。
(例)- 個人的な怨恨(えんこん)を理由に同僚従業員から殴られてケガをした場合
- 勤務時間中に持病の脳疾患が原因で倒れたが、業務上の強いストレスがかかったなどの事情が特に認められない場合
4、海外出張中の事故に関する労災保険給付の受給手続き
海外出張者が事故に遭った場合には、該当する労災保険給付を漏れなく請求しましょう。
海外出張中の事故について、労災保険給付を請求する際の手続きについて解説します。
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(1)受給できる労災保険給付の種類
海外出張中を含む労災事故については、以下の労災保険給付を請求できます。
- ① 療養(補償)給付
労災病院または労災保険指定医療機関において、ケガなどの治療を無償で受けられます。それ以外の医療機関では、治療費全額をいったん負担した後、その全額の償還を受けられます。 - ② 休業(補償)給付
労災によるケガなどの治療のために仕事を休んだ場合、休業4日目以降の収入の8割相当額が補償されます。 - ③ 遺族(補償)給付
被災労働者が死亡した場合には、遺族が生活保障として受給できます。 - ④ 葬祭料(葬祭給付)
被災労働者が死亡した場合には、葬儀費用の補填(ほてん)として受給できます。 - ⑤ 傷病(補償)給付
傷病等級第3級以上に当たるケガなどが、1年6か月以上治らない場合に受給できます。労働基準監督署長の職権で支給が開始されるため、請求不要です。 - ⑥ 障害(補償)給付
労災によるケガなどが完治せず後遺症を負った場合に、労働基準監督署が認定する障害等級に応じて受給できます。
参考:「障害等級表」(厚生労働省) - ⑦ 介護(補償)給付
労災により傷病等級1級に当たる障害が残った場合、または傷病等級2級に当たる精神神経・胸腹部臓器の障害が残って要介護となった場合には、将来にわたる介護費用の補償として受給できます。
- ① 療養(補償)給付
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(2)労災保険給付請求の請求先・必要書類
労災保険給付を請求する際には、給付の種類に対応する請求書を以下の窓口に提出する必要があります。
- ① 労災病院または労災保険指定医療機関で治療を受けた場合
療養の給付※につき、医療機関の窓口へ提出
※療養(補償)給付のひとつ - ② それ以外の労災保険給付
事業場の所在地を管轄する労働基準監督署へ提出
各種請求書の様式は、提出先の窓口で交付を受けられるほか、厚生労働省ウェブサイトからもダウンロード可能です。
請求書のほか、労災保険給付の書類に応じて、以下の書類の添付が必要です。
(a)療養の費用の支給※:治療費等の領収証
※労災病院・労災保険指定医療機関以外の医療機関で受けた治療費の償還請求。療養(補償)給付のひとつ
(b)休業(補償)給付:賃金台帳、出勤簿の写しなど
(c)障害(補償)給付:医師の後遺障害診断書など
(d)遺族(補償)給付:死亡診断書、戸籍謄本など - ① 労災病院または労災保険指定医療機関で治療を受けた場合
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(3)労災保険給付の金額・不支給決定に関する不服申立て
請求どおりに労災保険給付が支給されなかった場合や、労災の対象外として不支給決定がなされた場合には、以下の手続きによって不服申立てを行うことができます。
- ① 審査請求
労働局の労災保険審査官に対して、書面または口頭による審査請求ができます(労災保険法※第38条第1項、労働保険審査官及び労働保険審査会法第9条)。
※正式名称:労働者災害補償保険法
審査請求の期間は、原処分(不支給決定等)があったことを知った日の翌日から起算して3か月以内です(労働保険審査官及び労働保険審査会法第8条第1項)。 - ② 再審査請求
審査請求に対する決定に不服がある場合は、労働保険審査会に対して、文書により再審査請求を行うことができます(労災保険法第38条第1項、労働保険審査官及び労働保険審査会法第39条)。
再審査請求の期間は、審査請求に対する決定書の謄本が送付された日の翌日から起算して2か月以内です(同法第38条第1項)。 - ③ 取消訴訟
審査請求・再審査請求に対する決定に不服がある場合は、裁判所に取消訴訟を提起して、決定の取消しを求めることができます(行政事件訴訟法第8条)。ただし、取消訴訟は、審査請求・再審査請求に対する労働者災害補償保険審査官の決定を経た後でなければ、提起することができません(労働者災害補償保険法40条)。
- ① 審査請求
5、まとめ
海外で労働者が事故に遭った場合に、労災保険給付の対象となるかどうかはケース・バイ・ケースです。海外出張と海外派遣のどちらに当たるか、海外派遣であれば労災保険に特別加入しているか否か、さらに業務遂行性・業務起因性の要件を満たすかどうかが判断のポイントになります。
労災保険給付の支給要件や手続きが不明な場合や、請求手続きに会社が非協力的な場合には、労働基準監督署に相談しましょう。
また、労災が会社の責に帰すべき事由に起因する場合には、安全配慮義務違反や使用者責任に基づく損害賠償請求が可能です。労災保険給付ではカバーされない損害についても、会社から損害賠償を受けられる可能性があるので、弁護士への相談をおすすめします。
ベリーベスト法律事務所は、労災に関する労働者からのご相談を随時受け付けております。労災について会社に損害賠償を請求したい方は、ベリーベスト法律事務所 錦糸町オフィスにご相談ください。
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