妻にも養育費を支払う義務はあるか? 父親が親権者になったら
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墨田区錦糸町がある東京都の人口動態統計年報によると、令和元年度の東京都内の離婚件数は2万2707組であり、前年とほぼ同水準でした。子どもがいる夫婦が離婚をする場合、今の日本では親権を共有する共同親権は認められていないため、父親と母親のどちらを親権者にするかを決めなければなりません(単独親権)。
令和元年度の司法統計によると、妻側が親権を獲得する確率は9割以上となっていますが、夫が親権を獲得するケースもあります。もしも夫が親権を取得した場合には、妻に対して養育費を請求することができるのでしょうか。
今回は、父親が親権者になった場合の養育費の問題について、ベリーベスト法律事務所 錦糸町オフィスの弁護士が解説します。
1、妻にも養育費の支払い義務はあるか?
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(1)養育費の支払い義務の根拠
養育費とは、子どもが経済的・社会的に自立するまでに必要となる費用のことをいい、衣食住に必要な費用、医療費、教育費などが含まれます。
養育費を請求する根拠としては、民法877条の親子間における扶養義務が挙げられます。民法877条では、「直系血族および兄弟姉妹は、互いに扶養する義務がある」と規定しており、親子間では、自分と同程度の生活を保持する義務(生活保持義務)という重い扶養義務が課されています。
つまり、自分と同じレベルの生活を子にさせるため、子の生活レベルを自分と同等のレベルにするために、必要な費用を支払う義務があるのです。 -
(2)妻にも養育費の支払い義務はある
一般的に養育費を支払っているのが夫側であるケースが多いため、妻には養育費の支払い義務はないと誤解している方も少なくありません。しかし、養育費の支払い義務は、上記のとおり、親子間の扶養義務を根拠としていますので、夫(父親)であるか妻(母親)であるかといった事情は、養育費の支払い義務の有無には何の影響も与えません。
離婚によって夫婦の縁は切れることになりますが、親子間の縁は切れることはありません。親権を獲得することができなかったとしても、親子であるということには変わりないのです。そのため、離婚によって非監護親となった妻にも養育費の支払い義務が発生します。
2、妻より夫の方が高収入の場合
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(1)養育費の算定方法
妻よりも夫の方が高収入という場合にも妻に対して養育費を請求することができるのでしょうか。
養育費は、基本的には夫婦が話し合いによってその金額や支払い方法などを決めていくことになります。お互いが合意できるのであれば、養育費の金額をゼロにするということもできますし、相場よりも高い養育費を設定することも可能です。
しかし、夫婦の話し合いによって養育費を決めることができない場合には、家庭裁判所の調停や審判によって決めることになります。その際に利用されるのが養育費算定表というものです。これは、夫婦双方の収入と、子どもの年齢、子どもの人数を基本として、簡易迅速に養育費の金額の相場を算定することができるツールであり、裁判所の公式ホームページで公表されています。 -
(2)妻よりも夫の収入が高い場合の養育費
さらに具体的な相場をみていきましょう。たとえば、夫の年収が500万円、妻の年収が200万円として、子ども(14歳未満)が1人いる夫婦が離婚をした場合の養育費の相場はいくらになるのでしょうか。
養育費算定表を基準とすると、上記の夫婦では、1~2万円が養育費の金額の相場となります。養育費算定表を基準として養育費を算定する場合には、養育費を支払う側の収入が多くなればなるほど養育費の金額は高額になりますが、反対に、養育費を支払う側の収入が低くなれば、養育費の金額は低額になります。
したがって、上記の例のように妻の年収が夫の年収を下回っているとしても、養育費の支払い義務がなくなるわけではなく、双方の収入に応じた適切な金額を請求することが可能です。
3、養育費の取り決めには公正証書が重要
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(1)公正証書とは
養育費の取り決めをした場合には、公正証書にその旨を記載しておくことが重要です。公正証書とは、公証役場の公証人が作成する公文書のことです。
なぜ、公正証書の作成が重要なのでしょうか。養育費の決め方については法律上の制限はありませんので、口頭によって取り決める方法でも可能です。しかし、口頭によって養育費の取り決めをした場合には、後日、養育費の不払いがあった場合に、取り決めをした養育費の金額を証明することができなくなってしまいます。そのため、夫婦の話し合いによって養育費が決まった場合には、書面にその内容を残しておく必要があるのです。
そして、公正証書は、当事者だけで話し合って書面化した場合のように、脅されて作成させられたなど、書面の効力を争われるリスクを低下させることができますし、家庭裁判所の調停調書や審判書同様に、すぐに強制執行に移れるようにしておくこともできるため、自主的な支払いを促す効果も高くなります。 -
(2)強制執行するメリット
① 裁判手続きを経ることなく強制執行が可能
養育費の取り決めをしても、支払義務者が養育費の支払いを怠るケースが少なくありません。その場合には、強制執行の申し立てをして、相手の財産から強制的に未払いの養育費を回収するという方法があります。
養育費の取り決めを公正証書や家庭裁判所での調停調書や審判書によらず、当事者同士が口頭で約束した場合や、文書化した場合には、強制執行するために、裁判を起こして判決を得るなどの債務名義を取得しなければなりません。離婚時に養育費の取り決めをしたにもかかわらず、あらためて民事訴訟を提起するなど、強制執行前にやらなければいけない手続きが増えてしまうのです。このような手続きをするには、当然、時間と手間がかかりますので、不利益が生じることになります。
しかし、養育費の取り決めを執行認諾文言付きの公正証書によってした場合には、それ自体が債務名義になりますので、あらためて調停や審判を申し立てる必要はありません。養育費の未払いがあった場合には、直ちに相手の財産を差し押さえて強制的に回収していくことが可能です。
② 財産開示や第三者からの情報取得手続きが可能
強制執行をするためには、申立人側で、差し押さえの対象となる財産を特定して行わなければなりません。離婚をして時間がたっていると、勤務先が変わってしまったり、預貯金口座が解約されてしまっているなどの事情から差し押さえの対象となる財産を特定することができないことがあります。
そのような場合に役に立つのが、民事執行法上の財産開示制度です。財産開示制度とは、債務者に対して強制執行の対象となる財産の情報を開示させる手続きであり、開示に応じない場合には、「6月以下の懲役または50万円以下の罰金」が科されることになります。また、債務者以外の第三者(市町村、年金機構、金融機関など)からも財産情報の開示を得ることが可能です。
このような制度を利用することによって、債務者の財産を特定して、実効性のある強制執行が可能となります。 -
(3)公正証書の費用
公正証書の費用は、養育費、財産分与、親権など記載する項目の数によって変動します。およそ3万円から8万円ほどが目安でしょう。手間と費用はかかりますが、公正証書にすることによって養育費をめぐる争いの防止や解決に役立ちますので、可能な限り作成することをおすすめします。
4、養育費や親権獲得のお悩みは弁護士へ相談を
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(1)適切な養育費の金額を導くことができる
養育費の算定表を利用することによって、養育費の相場についてのある程度の金額を知ることができますが、各家庭の個別事情については、十分に反映されていません。
そのため、適切な養育費の金額を導くためには、養育費の算定表の基礎となっている標準算定方式にしたがって計算をし直す必要があります。このような計算は非常に専門的なものになりますので、弁護士に依頼して行うのが適切です。 -
(2)親権に関する争いを有利に進めることができる
離婚時に親権について争いがある事案では、妻側が親権者として指定されるケースが多いといえます。
しかし、親権者の指定は、夫(父親)であるか妻(母親)であるかという事情から一律に決められるのではなく、子どもの福祉を考慮してどちらが親権者として適切であるかという観点から判断していくことになります。そのため、裁判官に対して、自分が親権者としてふさわしいという事情を証拠に基づいて積極的に伝えていくことで、親権を獲得できる可能性が高まるでしょう。
親権獲得のためには信頼できる弁護士の存在が重要です。弁護士に一任すれば、主張書面の作成はもちろん、証拠の収集についてのアドバイスまでサポートしてもらえるため、個人で進めるよりも有利に手続きを進めることができるでしょう。
5、まとめ
一般に夫側が養育費を支払うイメージがあるため、離婚にあたって夫側が親権を取得した場合には、妻に対して養育費の請求できるのか疑問に思う方もいらっしゃるでしょう。しかし、養育費は、子どもの健全な成長と発達にとって不可欠な費用となりますので、離婚時には、忘れずに請求するようにしましょう。
離婚にあたっては、養育費だけでなく、慰謝料、財産分与、住宅ローンの負担などさまざまな問題が生じることがあります。すべてを適切に解決していくためには、実績のある弁護士のサポートが重要となるでしょう。養育費の交渉や公正証書の作成についてお悩みの方は、離婚トラブルの解決実績が豊富なベリーベスト法律事務所 錦糸町オフィスまでお気軽にご相談ください。
- この記事は公開日時点の法律をもとに執筆しています