薬機法違反で逮捕されないために! 厳罰化の背景と逮捕要件の基礎知識
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令和3年8月1に薬機法(旧薬事法)の改正が施行されました。医薬品などの広告に携わっている方は、間違って薬機法違反で逮捕されないためにも薬機法に関する基礎知識を押さえておくことが重要です。
警察庁の犯罪統計資料によると、令和2年の犯罪のうち、薬機法違反で検挙された件数は251件でした。また、東京都を管轄する警視庁の令和元年の統計によると、薬機法違反で検挙された件数は12件(人員は23人)であり、そのうち医薬品の誇大広告で検挙されたのは1件でした。
そこで今回は、思わぬ薬機法違反で逮捕されないために、薬機法の逮捕要件の基礎的な知識について、ベリーベスト法律事務所 錦糸町オフィスの弁護士が解説します。
1、薬機法(旧薬事法)の概要
薬機法とは、正式名称を「医薬品、医療機器等の品質、有効性及び安全性の確保等に関する法律」といいます。薬機法は、医薬品などの品質と有効性および安全性を確保する目的で、医薬品などの製造、販売、流通、表示、広告などの規制をしている法律です。医薬品に携わる薬剤師などは、日常的に関わりがある法律であるといえるでしょう。また、薬機法は、医薬品以外にも化粧品も規制対象となりますので化粧品業者や化粧品の広告を扱う広告代理店なども関わりがある法律でもあります。
薬機法は、もともとは薬事法と呼ばれており、平成26年の改正で名称が変更になりました。そのため、薬機法よりも薬事法という名前でなじみがある方も多いかもしれません。
2、厳罰化する薬機法の背景
薬機法の改正によって、令和3年8月1日から虚偽・誇大広告に対して課徴金制度が導入されることになりました。このような制度を導入し、厳罰化するにいたった背景には何があるのでしょうか。
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(1)薬機法違反に対する課徴金制度の創設
改正前の薬機法においては、虚偽・誇大広告に違反したときには、個人や法人に対して200万円以下の罰金が科されることになっていました。
しかし、罰金だけでは虚偽・誇大広告への抑止効果が低いとみられてきました。また、広告代理店などによる違反行為に対しては、許可の取り消しや業務停止命令などの行政処分ができず、こちらも抑止効果がないとの指摘もありました。
そこで、2021年8月の薬機法改正によって、虚偽・誇大広告による医薬品などの販売を行った者に対して、違反行為をしていた期間の対象商品の売上金額の4.5%が課徴金として課されることになりました。課徴金は、行政罰の一種ですが、罰金よりも高額な課徴金が課されることによって、一定の抑止効果が期待されます。 -
(2)広告規制が厳罰化する背景
令和2年7月、医薬品として承認を得ていない健康食品について、身体的機能を改善する効果があるかのような広告を掲載したとして広告主、広告代理店および制作会社の役員などが薬機法違反の疑いで逮捕されました。この事件で、事業主だけでなく、広告代理店やアフィリエイト業者も逮捕される可能性が示されました。
背景には、ウェブ広告の複雑な運用が関係しているといわれています。今回の逮捕報道の原因となった広告は、いわゆるアフィリエイト広告です。アフィリエイト広告は、成果報酬型の公告であるため、委託を受けた広告代理店などは、成果を上げるために過激な広告表現を行うことがあります。
他方、事業主は、広告の依頼をしたものの、委託した業者がどのような運用をしているかまでは把握していないケースも少なくありません。このようなウェブ広告の運用実態を踏まえて、事業主だけでなく広告代理店なども摘発対象とされるようになったと考えられます。
3、薬機法の逮捕要件と罰則
薬機法の広告規制の内容や、薬機法の広告規制に違反した場合の罰則はどのようになっているのでしょうか。薬機法の逮捕要件も含めて解説します。
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(1)薬機法の広告規制の対象
一般的な広告規制として存在する景品表示法では、規制対象が「自己の供給する商品又は役務の取引」の表示をしている事業者のみです。
一方、薬機法の広告規制は、広告規制の対象者を「何人も」と規定している点がポイントです。具体的には、薬機法では事業主だけでなく広告代理店やアフィリエイト業者も規制対象になる、ということです。 -
(2)薬機法で禁止されている広告とは?
① 虚偽・誇大広告などの禁止(薬機法66条)
薬機法で禁止されている広告は主に2つのパターンがあります。
ひとつ目は、医薬品などの名称、製造方法、効能、効果または性能に関する虚偽・誇大な記事広告をしたり、記述をしたり、流布したりすることの禁止です(薬機法66条)。
なお、「広告」の定義については、平成10年9月29日付け厚生省医薬安全局監視指導課長通知により以下の要件を満たすものとされています。
- 顧客を誘引する意図が明確であること
- 特定医薬品などの商品名が明らかにされていること
- 一般人が認知できる状態であること
これらの要件を満たすものが「広告」に該当します。
広告媒体についての限定はありませんので、ウェブ広告だけでなく個人のブログであっても上記の要件を満たすときには、規制対象となります。
② 承認前医薬品などの広告の禁止(薬機法68条)
ふたつ目は、承認または認証前の医薬品または医療機器について、その名称、製造方法、効能、効果または性能に関する広告の禁止です(薬機法68条)。
また、実際に表示内容どおりの効能、効果または性能があったとしても承認を受けていない場合には、薬機法違反となりますので注意が必要です。 -
(3)薬機法違反による逮捕要件と罰則
① 薬機法違反による逮捕要件
薬機法の広告規制に違反した場合には、事業者だけでなく広告代理店やアフィリエイト業者も逮捕される可能性があります。逮捕の要件としては、「逮捕の理由と逮捕の必要があること」です。したがって、薬機法の広告規制に違反した疑いがあり、逃亡や罪証隠滅のおそれがあるという場合には、薬機法違反で逮捕される可能性があります。
② 薬機法違反による罰則
薬機法の広告規制(薬機法66条、68条)に違反した場合の罰則としては、2年以下の懲役もしくは200万円以下の罰金、またはこれらを併科すると規定されています(薬機法85条4号、5号)。
このような刑罰以外にも薬機法の広告規制に違反した事業者に対しては、中止命令や業許可の取り消しといった行政処分が下される可能性もあります。さらに、令和3年8月1日からは、課徴金制度が創設されたため、虚偽・誇大広告を行った事業者などに高額な課徴金が課される可能性もあります。
今後、医薬品などの広告を行う場合には、薬機法に違反するかどうかを十分に検討してから行う必要があります。事業者だけでなく広告代理店でも薬機法についての正確な知識が要求されることになりますので注意しましょう。
4、薬機法で不安がある場合は弁護士に相談を
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(1)薬機法の正確な理解ができる
薬機法の理解に不安がある場合には弁護士に相談をすることをおすすめします。
薬機法のルールは、薬機法の条文だけではなく、厚生労働省などが発令する通知なども参照して、はじめて理解することができます。このような複雑な薬機法のルールを正確に把握するのは、一般の方では非常に難しく、弁護士でなければ正確な解釈ができない内容も少なくありません。
医薬品や健康食品に普段から触れている販売会社であれば、比較的理解はしやすいかもしれませんが、広告主から委託を受けた広告代理店などでは、初めて扱う分野であったりすると、どのような表現が薬機法に違反するかを正確に判断するためには、膨大な時間と労力を要することになります。このような場合には、広告表現のリーガルチェックや、代理店との契約内容の精査を弁護士に依頼することで、時間と労力を削減することができます。 -
(2)顧問弁護士を依頼することでいつでも気軽に相談ができる
疑問が生じた場合に、単発で弁護士に依頼をすることになると、まず相談先から探さなければならず時間も労力もかかってしまいます。そのようなときには、顧問弁護士の利用を検討してみるとよいでしょう。顧問弁護士であれば、会社の実情をよく理解しているため、迅速に相談することができます。
ベリーベスト法律事務所では、業種別に専門チームを設けて各業界の商慣習に対応したハイレベルなリーガルサービスを提供しています。薬機法に関する問題についてもベリーベスト法律事務所の流通専門チームがお悩みに応じて迅速に対応いたします。顧問弁護士に興味はあるがコスト面で踏み出せないという場合には、月々3980円からの「リーガルプロテクト」のサービスもございます。まずはお気軽にご相談ください。
5、まとめ
2021年8月の薬機法の改正により、広告規制として課徴金制度が創設されることになりました。新たな規制手段も加わりますので、広告の運用や検討をしている事業者や広告代理店では、より一層慎重な対応が必要になってくるでしょう。薬機法の解釈や広告表現に不安があるという場合には、ベリーベスト法律事務所 錦糸町オフィスまでお気軽にご相談ください。
- この記事は公開日時点の法律をもとに執筆しています