建築物衛生法が改正|企業が留意すべきポイントやビル管法との違いを解説
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建築物衛生法は、不特定多数の人が利用することが予定されている特定建築物を安全かつ衛生的に管理することを目的として制定された法律です。
令和4年4月1日から、建築物衛生法の内容を一部見直した改正法が施行されています。具体的には、空気環境の基準や建築物衛生管理技術者の選任に関して見直しがなされました。
本コラムでは、建築物衛生法の改正内容と企業が留意すべきポイントなどについて、ベリーベスト法律事務所 錦糸町オフィスの弁護士が解説します。
1、建築物衛生法とは
まず、建築物衛生法という法律の概要を解説します。
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(1)建築物衛生法の概要
建築物衛生法の正式名称は「建築物における衛生的環境の確保に関する法律」です。
建築物衛生法の目的は、建築物における衛生的な環境確保を図り、公衆衛生を向上させることです。
経済の発展や建築技術の進歩に伴い、都市部を中心に大規模かつ高層の建築物が多く出現しています。
また、大型の建築物のなかでは多くの人が過ごしていますので、生活環境に占める建築物の室内環境も非常に重要な要素となっています。
人々の健康を保持し、推進していくためには、建築物について適切な衛生上の維持管理をする必要があることから、建築衛生法が制定されたのです。
建築物衛生法のなかでは、多くの人が利用する建築物の維持や管理について、環境衛生上必要な事項が定められています。 -
(2)建築物衛生法の規制対象となる建物
建築物衛生法では、規制対象となる建物を「特定建築物」と定め、その内容を用途および施設の規模によって、以下のように定義しています。
- ① 建築基準法で定義された建築物であること
- ② 一つの建築物において、以下の特定用途の1又は2以上で使用される建築物であること
- 興行場
- 百貨店
- 集会場
- 図書館
- 博物館
- 美術館
- 遊技場
- 店舗
- 事務所
- 学校(研修所も含む)
- 旅館
- ③ 一つの建築物において特定用途で使用される延べ面積が3000㎡以上であること(ただし、専ら学校教育法第1条に定められている学校(小学校、中学校等)については、8,000平方メートル以上であること。)
- ① 建築基準法で定義された建築物であること
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(3)建築物衛生法の規制内容
建築物衛生法では、衛生的な環境確保を図り、公衆衛生の向上を目的として、主に以下のような内容の規制を行っています。
① 特定建築物の届出
特定建築物に該当する建築物の所有または管理を開始した場合には、建築物衛生法に基づき、1か月以内に都道府県知事(保健所)に届出が必要になります。
その際には、建築物環境衛生管理技術者免状という資格を有する特定建築物衛生管理技術者を1人以上選任しなければなりません。
これらの届出は、用途や面積など届出内容に変更が生じた場合にも、その変更が生じた日から1か月以内に必要となります。
② 特定建築物の適切な維持管理
建築物衛生法では、特定建築物の適切な維持管理の観点から、以下の項目についての点検を要求しています。- 水質検査……特定建築物内で使用される給水(飲用水・雑用水)及び排水に関して定期的な水質検査が必要になります。
- 空気環境測定……空調設備を有する特定建築物では定期的な空気環境測定が必要になります。
- 衛生管理……害獣(ねずみなど)や害虫(ゴキブリ、ハエなど)の発生を予防し、駆除作業を行うことが必要です。
- 清掃……特定建築物内では日常的な清掃と6か月に1回の大掃除が必要になります。
2、改正建築物衛生法で企業が留意すべきこと
以下では、令和4年の建築津物衛生法の改正のポイントと、企業が留意すべきことを解説します。
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(1)建築物衛生法の改正のポイント
令和4年4月に行われた建築物衛生法の法改正による変更点は、以下の二点です。
① 居室における建築物衛生環境基準について
旧法では、居室における一酸化炭素の含有率の基準が「100万分の10以下」とされていましたが、改正法では、「100万分の6以下」に変更になりました。
また、旧法では、居室における低温側の基準が「17度」とされていましたが、改正法では「18度」に変更になりました。
② 建築物環境衛生の管理技術者について
改正法では、旧法で規定されていた以下の規定が削除されました。- 一つの特定建築物の管理技術者は、原則として同時に他の特定建築物の管理技術者になれないとする規定
- 二以上の特定建築物について、一定の要件を満たせば管理技術者を兼ねることができるとする規定
加えて、改正法では、管理技術者が二以上の特定建築物の管理技術者を兼ねる場合には、特定建築物所有者が以下の要件を満たすことが求められるようになりました。
- 管理技術者が二以上の特定建築物の管理技術者を兼ねることになっても、業務の遂行に支障がないこと確認する
- 選任時だけでなく、すでに選任されている管理技術者が新たに管理技術者を兼ねる場合にも同様の確認をする
- 特定建築物所有者以外に特定建築物維持管理権原者いるときは、その人の意見を聞かなければならない
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(2)改正法を踏まえて企業が留意すべきポイント
令和4年の建築物衛生法の改正は、大気中の一酸化炭素の含有率が改善されていることを受けて、居室における建築物衛生環境基準が見直されました。
対象となる特定建築物を所有または管理している企業では、空気環境の管理基準値を満たすような設定変更が必要になります。
また、近年のICTの発達により、離れていても問題なくコミュニケーションが取れるようになったことを踏まえて管理技術者選任に関する基準が見直されました。
これにより、従来の基準では管理技術者の兼任が認められなかったようなケースでも、兼任が認められるようになりました。
今後、新たに管理術者を選任する際には、兼任の可否も含めて検討する必要があります。
3、ビル管法との違い
オフィスビルを所有または管理していると「建築物衛生法」のほかに「ビル管法」という法律が出てくることがあります。
この二つは、呼び方が違うだけで、どちらも同じ法律を指しています。
このように呼び方が異なる理由は、法律の正式名称が「建築物における衛生的環境の確保に関する法律」と長いために、正式ではない略称が使用されていることにあります。
また、「ビル管理法」や「ビル衛生管理法」に「建築物衛生管理法」と呼ばれることもありますが、それらもすべて「建築物における衛生的環境の確保に関する法律」という同じ法律を指しているのです。
4、弁護士に相談したほうが良いケース
建築物衛生法が関わる企業は、法改正に迅速に対応するために、弁護士に相談することや顧問弁護士の利用を検討してください。
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(1)法改正を踏まえた体制整備をサポートしてもらえる
建築物衛生法は、時代の流れに合わせて何度か法改正が繰り返されています。
また、建築物衛生法以外にも企業の業種によってはさまざまな法律が関係してきますので、法改正に応じて適切な体制を整備する必要があるのです。
建築物衛生法やその他の関連する法律の内容は複雑であるため、関係法令を適切に解釈して理解するために、専門家である弁護士のサポートを受けることをおすすめします。 -
(2)顧問弁護士の利用により人材コストの削減が可能
法務に対応する部署としては、法務部や総務部などがありますが、これらを設置するためには、必要な人材を確保し、人材育成のために時間と費用を割かなければなりません。
顧問弁護士を利用すれば、法務部や総務部などの設置が不要となり、社内の法務関係をすべて弁護士にアウトソーシングすることができます。
5、まとめ
令和4年4月1日から、改正建築物衛生法が施行されています。
改正法では、「居室における建築物衛生環境基準」と「建築物環境衛生の管理技術者」の2点についての見直しがなされましたので、関係する企業は適切な対応を行いましょう。
企業の経営者や担当者で、建築物衛生法に関する対応にお悩みの方や、顧問弁護士の利用を検討されている方は、まずはベリーベスト法律事務所までご相談ください。
- この記事は公開日時点の法律をもとに執筆しています