特定株主とは? MBOにおいてMoMが妥当と判断されうるケースと対応
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- 特定株主とは
既存株主に対して会社株式を譲渡する形でM&Aを行う場合、特定株主への利益供与にあたるかどうかが問題となります。
利益供与に該当する場合は、会社法違反により刑事罰の対象となるほか、会社や第三者に対して損害賠償責任を負う可能性がある点に注意が必要です。
本コラムでは、M&Aにおいて特定株主を優遇することの問題点などを、ベリーベスト法律事務所 錦糸町オフィスの弁護士が解説します。
1、特定株主とは? 知っておくべきM&A専門用語
M&Aにおいて特定株主を優遇すると、会社法上の問題が生じる可能性があります。
どのような問題が生じるのかについて詳しく紹介する前に、まずは、M&Aに関する基本的な用語について解説します。
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(1)特定株主とは
「特定株主」は、法人税法に「特定株主等」という用語で登場します。法人税法における「特定株主等」とは、発行済み株式総数のうち一定割合以上の株式を保有しており、税法において役員とみなされる従業員などのことです。
しかし、M&Aにおける「特定株主の優遇」が問題となる場合については、「特定株主」は法人税法上の用語とは関係がありません。
この場合は単に「特定の株主」、つまりすでに会社株式を保有する者のうち特定の人を意味します。 -
(2)MBOとTOBの違い
M&A手法の代表例として挙げられることが多いのが、「MBO(Management Buyout)」と「TOB(Take-Over Bid)」です。
MBOとは、会社の経営陣による企業買収を意味します。
経営陣は、会社の資産や将来のキャッシュフローなどを担保に融資等を受け、その資金をもって会社の全株式を買い取って非公開化(上場廃止)します。
株式公開(上場)のメリットが薄くなった会社につき、経営再建などのためにMBOが採用されるケースが多いといえます。
TOBとは、不特定多数の株主から市場外で株式を買い集める手続きです。
日本語では「株式公開買付け」といわれています。
TOBを行う者は、買い付け期間・買い取る株数・価格を公告し、自らに対して株式を売ってくれる人を広く募集します。
TOBは、上場会社の経営権獲得などを目的に用いられる手法です。
なお、買い付け後の株式等所有割合が一定水準を超える場合は、金融商品取引法によってTOBの実施が義務付けられています。 -
(3)MoMとは
MoM(Majority of Minority)とは、企業買収の是非について株主の意思表示を求める際、買収者と重要な利害関係を共通にしない株主(Minority:一般株主、少数株主)が保有する株式の過半数(Majority)の支持を得ることを求める条件です。
たとえばX社の発行済み株式のうち30%を保有している株主Aが、公開買付けによってX社株式を買い増し、経営権の獲得を目指すとします。
会社法の原則からすると、AはX社株式をあと20%超取得すれば、X社の発行済み株式のうち50%超を保有することになり、経営権を獲得できます。
しかし、MoM条件を設定する場合は、少なくともAを除く株主のうち過半数(=発行済み株式のうち35%超)が賛成しなければ、公開買い付けが不成立となって、Aによる買収は破談となるのです。
MoM条件は、公開買い付けにおける買い付け予定数の下限とするなどの方法により設定されます。
2、特定株主を優遇することには、どのような問題があるのか?
M&Aに関して特定株主を優遇すると、会社法で禁止される利益供与にあたり、刑事罰の対象となるおそれがあります。
また、取締役が利益供与によって会社や第三者に損害を与えた場合には、その損害を賠償しなければなりません。
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(1)会社法で禁止される利益供与にあたる|刑事罰の対象
株式会社は、株主等の権利の行使に関し、自らまたはその子会社の計算において、財産上の利益を供与してはならないとされています(会社法第120条第1項)。
たとえば、特定株主に会社の買収を提案するに当たって、金銭を支払うなどの利益を供与した場合は、会社法違反にあたります。
取締役などが、会社またはその子会社の計算において、特定株主に対して利益供与を行った場合は「3年以下の懲役または300万円以下の罰金」に処されます(会社法第970条第1項)。
情を知って利益供与を受け、または第三者に利益を供与させた者も同様です(同条第2項)。 -
(2)取締役が会社・第三者に対して損害賠償責任を負う
利益供与に関与した取締役は、利益供与を受けた者と連帯して、供与した利益の価額に相当する額を会社に支払う義務を負います(会社法第120条第3項・4項本文)。
ただし、自ら利益供与をした取締役を除き、その職務を行うについて注意を怠らなかったことを証明した場合は、利益の返還義務を負いません(同項但し書き)。
さらに、供与した利益の額を超えて会社に損害が生じた場合、取締役は会社に対する任務懈怠(けたい)責任を負い、会社が受けた損害を賠償しなければならないのです(会社法第423条第1項)。
加えて、利益供与によって第三者(株主や債権者など)が損害を被った場合、悪意または重大な過失がある役員等は、その損害を賠償する責任を負います(会社法第429条第1項)。
3、MoMは株主平等の原則に反しないのか?
企業買収の成否についてMoM条件を設定することは、それがなければ経営権を取得し得た買収者を不利益に取り扱うものとして株主平等の原則に反しないか、という点が問題となります。
この点については、MoMは一般株主の判断機会を確保することを目的としており、株主平等の原則の趣旨に反しないことから、条件が適切であれば問題ないと解されています。
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(1)MoMは一般株主の判断機会の確保に資する|条件が適切ならOK
MoM条件を設定しない場合、企業買収は、買収者と公開買い付け等に応じた株主の意思のみによって成立します。
これに対して、MoM条件を設定する場合、企業買収の成立には買収者以外の株主が有する議決権のうち過半数の賛成が必要です。
MoM条件を設定しない場合と設定する場合を比較すると、設定する場合のほうが、買収者が除かれるため、企業買収の成立に要する株主の賛成数は多くなります。
株主平等の原則の趣旨は、株主が株主としての資格に基づく法律関係において平等に扱われるとすることにより、出資結果の予測可能性を確保して、幅広い投資家から広く出資を募ることです。
MoM条件は、特定株主の意見よりも多数の株主の意見を重視する点で、「幅広い投資家から広く出資を募る」という株主平等の原則の趣旨に合致します。
そのため、適正な条件が設定される限り、企業買収についてMoM条件を設定することは株主平等の原則に反しないと解されています。 -
(2)適切なMoM条件設定のポイント
MoM条件を適切な内容により設定するためには、以下のようなポイントに留意する必要があります。
- ① 企業買収を成立させるために、必要となる一般株主の賛成数が相当程度増加すること
- ② 企業価値の向上に資する企業買収を不当に阻害しないこと
<考慮すべき要素>
- 買収者が保有する対象会社の議決権の割合
- 買収者と対象会社の関係(対象会社の独立性の程度など)
- 交渉過程における買収者の態度
- ① 企業買収を成立させるために、必要となる一般株主の賛成数が相当程度増加すること
4、買収防衛策の具体例
企業買収に対するMoM条件の設定は、買収防衛策に関するMoM決議という形で行われることもあります。
MoM決議とは、買収者と利害関係を共通にする者を議決から排除したうえで、残りの株主だけで買収防衛策を決定する方法です。
ただし、MoM決議によって買収防衛策を導入することは、買収者やその利害関係者との紛争を引き起こしかねません。
たとえば、決議の方法が著しく不公正であるとして、株主総会決議取り消しの訴えを提起される可能性があります。
買収防衛策についてMoM決議を行うべきか、それとも通常の株主総会決議を行うべきかについては、弁護士のアドバイスをふまえて慎重に検討することをおすすめします。
なお、代表的な買収防衛策としては、以下のような例が挙げられます。
会社の状況や買収者の態度などを考慮して、買収防衛策の導入可否および種類をよく検討してください。
- ① ポイズンピル
既存株主に対してあらかじめ付与した新株予約権を、買収者が買収に乗り出した段階で行使してもらい、買収者の持ち株比率を低下させる買収防衛策。 - ② ゴールデンパラシュート
取締役の退職金を高額に設定し、買収完了と同時に会社資金が大幅に流出するようにして、買収意欲を低下させる買収防衛策。 - ③ クラウンジュエル
会社の価値ある部門や資産を第三者に売却することで、買収意欲を低下させる買収防衛策。
- ④ ホワイトナイト
敵対的買収を仕掛けられた際、友好的な第三者に代わって買収してもらう買収防衛策。
5、まとめ
M&Aにおいて特定株主を優遇すると、取締役は利益供与の責任を問われる可能性があります。
また、企業買収に関してMoM条件を設定する際には、その条件の妥当性などを十分検討しなければなりません。
このように、企業買収については法律的な注意点がたくさんあります。
法律的な問題を回避しながら企業買収を完了するためにも、企業買収を行う際には弁護士に相談しながら手続きを進めることをおすすめします。
ベリーベスト法律事務所では、M&Aに関する企業のご相談を随時受け付けております。
企業法務の経験豊富な弁護士が、スムーズな取引完了を目指してサポートいたします。
企業を経営されており、M&Aによる事業承継を検討されている方は、まずはベリーベスト法律事務所にご連絡ください。
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