【労働者向け】退職勧奨で辞めると自己都合扱いに? 正しい対処法
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東京都が公表している労働相談の状況に関する統計資料によると、令和3年に東京都の労働相談情報センターで受け付けた労働相談項目数は、8万12項目でした。そのうち、退職に関する相談項目は7855項目あり、約43.7%が退職勧奨に関する相談となっています。
会社から退職勧奨を受けたとしても、退職するかどうかは労働者が自由に決めることができます。また、退職勧奨によって退職する場合には、原則として、会社都合退職として扱われますので、失業手当の受給でも有利な扱いを受けることができます。
もっとも、退職勧奨によって退職するにもかかわらず、会社から自己都合扱いでの処理を求められることがあります。今回は、退職勧奨で自己都合扱いでの退職を求められた場合の対処法について、ベリーベスト法律事務所 錦糸町オフィスの弁護士が解説します。
1、退職勧奨による退職は自己都合退職?
退職勧奨による退職は、「自己都合退職」と「会社都合退職」のどちらになるのでしょうか。
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(1)退職勧奨とは
退職勧奨とは、会社が労働者に対して、自発的に退職するように促す行為のことをいいます。退職勧奨は、あくまでも退職を「促す」効果しかありませんので、退職勧奨を受けたとしても、退職するかどうかは労働者が自由に決めることができます。
これに対して、解雇は、会社の一方的な意思表示によって労働者との労働契約を終了させることをいいます。解雇された場合には、労働者の意向にかかわらず会社を辞めなければなりませんので、その点で退職勧奨とは異なります。 -
(2)退職勧奨による退職は「会社都合退職」
退職理由には、「自己都合退職」と「会社都合退職」の2種類があります。
自己都合退職とは、主に労働者側の都合によって離職をすることいい、スキルアップのための離職、親の介護のための離職、結婚や引っ越しを理由とする離職などが自己都合退職の例として挙げられます。
会社都合退職とは、会社側の都合によって離職をすることをいい、会社の倒産による離職、解雇による離職、ハラスメントを受けたことによる離職などが会社都合退職の例として挙げられます。
退職勧奨による退職は、会社から退職を促されたことにより労働者が退職する場合ですので、会社側の都合での退職となり、会社都合退職として扱われます。
2、「自己都合」と「会社都合」の違い
退職理由が「自己都合」になる場合と「会社都合」になる場合とではどのような違いがあるのでしょうか。
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(1)失業保険
退職理由が自己都合になるか会社都合になるかによって、失業保険の支給にあたって違いが生じます。
① 失業保険の支給日
会社都合の場合、失業保険は受給資格決定日から7日間の待機期間(ハローワークでは「待期期間」と記述)経過後に受給することができます。
これに対して、自己都合退職の場合、7日間の待機期間に加えて2か月の給付制限期間を経過しなければ受給することができません。
② 失業保険の受給要件
会社都合の場合、退職の日以前1年間で通算6か月以上雇用保険の加入期間が必要です。
これに対して、自己都合の場合、退職の日以前2年間で通算12か月以上雇用保険の加入期間が必要です。
③ 失業保険の給付日数
会社都合の場合、失業給付金の支給日数は90~330日ですが、自己都合の場合には、90~150日になります。 -
(2)退職金
会社の退職金規程によって異なりますが、退職金の計算をする場合、自己都合退職の場合は減額規定が存在することもあるため、一般的に会社都合退職のほうが有利に扱われる傾向にあります。
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(3)履歴書への記載内容
自己都合による退職の場合には、「一身上の都合により退職」と履歴書に記載し、会社都合による退職の場合には、「会社都合により退職」と記載します。
履歴書に「会社都合により退職」と記載されていると、企業の採用担当者から、「会社と何かトラブルがあったのだろうか」とみられる場合があります。
この点について面接などで理由を確認される可能性が高くなります。 -
(4)会社が自己都合にしたがる理由
会社が会社都合であるにもかかわらず自己都合扱いにしたがる理由としては、会社都合だと会社側にデメリットがあるからです。
たとえば、雇用関連助成金の受給をしている場合には会社都合退職を行うと、助成金の支給を受けることができなくなるケースがあります。また、解雇をした場合に、労働者が離職することに納得していない場合には、不当解雇を理由に訴えられる可能性があるため、合意退職であることを示すために自己都合扱いを求めてくる場合があります。
3、不当な対応は「退職強要」の可能性も
会社から不当な対応を受けて退職を余儀なくされた場合には、退職勧奨ではなく違法な「退職強要」にあたる可能性もあります。
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(1)退職強要とは
退職強要とは、会社が労働者に対して、自発的な退職を強制することをいい、退職勧奨が社会的相当性を逸脱する態様によって行われた場合がこれに当たります。
退職強要にあたる場合には、形式的には労働者との合意による退職という形がとられていたとしても、退職は無効になりますので、不当解雇と同様に会社への復帰が可能になります。
また、違法な退職強要によって退職を余儀なくされた場合には、原則として従業員としての地位を有していることになるため、退職日以降も賃金についても請求することが可能です。 -
(2)退職強要にあたる可能性があるケース
退職強要にあたる可能性があるケースとしては、以下のものが挙げられます。
① 退職を拒否しているにもかかわらず執拗(しつよう)に退職を迫ってくるケース
退職勧奨は、労働者に退職を促すものでしかありませんので、労働者から退職勧奨には応じない旨の意思が明示された場合には、退職勧奨を中止しなければなりません。
条件を上乗せして再度退職勧奨を行うことは可能ですが、断ったにもかかわらず執拗に退職を迫られた場合には、退職強要と評価される可能性があります。
② 暴言や暴力を伴うケース
退職勧奨において、上司から暴言や暴力が行われて、やむを得ず退職に応じてしまうことがあります。
退職勧奨は、社会通念上相当と認められる方法によって行うことが求められていますので、暴言や暴力を用いた社会的相当性を逸脱する態様で退職勧奨が行われた場合には、退職強要にあたる可能性があります。
③ 退職勧奨に応じない場合に労働条件が引き下げられるケース
給料の引き下げや遠方への異動などが行われたとしても、会社が正当な根拠に基づいて行ったのであれば直ちに違法になるわけではありません。
しかし、退職勧奨に応じなかったという理由でこのような労働条件の引き下げなどが行われた場合には、労働条件の引き下げや業務命令は権利濫用と判断される可能性があります。
そして、労働条件の引き下げを告げられてやむなく退職に応じたとしても、労働者の自由な意思による退職とはいえませんので、退職強要にあたる可能性があります。
4、弁護士のサポートを受けたほうがよいケース
以下のようなケースでは、弁護士のサポートを受けたほうがよいでしょう。
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(1)執拗な退職勧奨を受けた場合
会社から執拗な退職勧奨を受けている場合には、違法な退職強要に該当する可能性があります。退職強要に該当するかどうかは、会社側の具体的な態様を踏まえた法的判断が必要になります。法的知識や経験のある弁護士であれば適切に対応することができます。
今後の対応を考えるにあたって、違法な退職強要にあたるかどうかは重要な事項となりますので、まずは弁護士に相談をして判断をしてもらうとよいでしょう。 -
(2)会社との対応に不安を感じている場合
違法な退職強要に該当する場合には、会社に対して、退職強要の中止や退職の撤回を求めていくことになります。しかし、違法な退職強要を行うような会社に対して、労働者個人で交渉をしたとしても、まともに取り合ってくれない可能性があります。
ひとりで会社と交渉をすることに不安を感じている場合には、弁護士にご依頼ください。弁護士であれば労働者に代わって会社と交渉をすることができますので、交渉による不安やストレスから解放されるでしょう。
また、弁護士に対応を依頼すれば、話し合いで解決することができずに労働審判や訴訟に発展したとしても、引き続きサポートを受けることができます。
5、まとめ
会社からの退職勧奨によって退職する場合には、自己都合ではなく会社都合退職として扱われます。自己都合になるのか会社都合になるのかによって、退職後の失業保険に影響が生じますので、自己都合扱いでの離職にされてしまったという場合には、弁護士にご相談ください。
また、執拗な退職勧奨を受けているという場合には、違法な退職強要に該当する可能性もありますので、まずはベリーベスト法律事務所 錦糸町オフィスまでお気軽にご相談ください。
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