解雇に至る段階はある? 懲戒の種類と内容、具体事例について解説
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会社が従業員を解雇したい場合、ただちに懲戒解雇するのではなく、段階的に懲戒処分を行うケースが多いといえます。
労働者としては、もし会社から懲戒処分を受けた場合には、その理由を確認するとともに、さらなる重い懲戒処分を受けないように注意深く行動することが大切です。また、懲戒処分が不合理に感じられる場合には、弁護士へ相談することをおすすめします。
本コラムでは、解雇に至るまでの懲戒処分の段階や、不合理な懲戒処分を受けた場合の対処法などを、ベリーベスト法律事務所 錦糸町オフィスの弁護士が解説します。
1、懲戒処分とは?
「懲戒処分」とは、労働者(従業員)が職場規律・企業秩序に違反したことに対する制裁として行われる不利益処分です。
懲戒処分は、企業秩序の維持を目的とするものですので、本人に対して反省を促す、または他の労働者に対して注意喚起をするなどを目的として行われることが一般的です。
懲戒処分を適法に行うためには、対象労働者について就業規則上の懲戒事由が存在することが必要(労働基準法第89条9号)となります。
さらに、懲戒事由に該当するとしても、労働者の行為の性質・態様その他の事情に照らして、客観的に合理的な理由を欠き、社会通念上相当と認められない懲戒処分は「懲戒権の濫用」として無効になるのです(労働契約法第15条)。
2、懲戒処分の種類・段階
懲戒処分には、軽いものから順に以下の種類があります。
これらの懲戒処分は、軽いものから重いものへと段階的に処分がなされることがよくあります。
会社側が「労働者に反省を促して、改善指導を行うなど手段を尽くしたにもかかわらず、労働者の行動が改善されなかった」と説明できるようにして、懲戒権の濫用に当たらないようにするためです。
以下では、各懲戒処分の概要を解説します。
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(1)戒告・けん責
「戒告」「けん責」は、いずれも労働者に対して厳重注意を行う懲戒処分です。
厳重注意を与える方法は会社によって異なりますが、会社側が労働者に対して文書を交付する場合のほか、労働者に反省文や始末書などの提出を求める場合もあります。
戒告とけん責の両方が設けられている場合は、通常はけん責の方が重い懲戒処分として位置づけられます。
この場合には、けん責のみ反省文や始末書の提出を必要とするなど、処分の内容に差を付けるのが一般的です。 -
(2)減給
「減給」は、労働者の賃金を減額する懲戒処分です。
減給の懲戒処分については、以下の上限が設けられています(労働基準法第91条)。- ① 減給1回当たりの上限:平均賃金の1日分の半額
- ② 減給総額の上限:1賃金支払期(例:月給制の場合は1か月間)における賃金の総額の10分の1
(例)- 1日当たりの平均賃金が1万円
- 4回にわたる就業規則違反により、減給処分を受ける
- 6月の賃金30万円から差し引く形で減給処分を行う
→就業規則違反1回当たりの減給額は上限1万円なので、最大で計4万円の減給
しかし6月の賃金30万円から差し引ける減給額は上限3万円なので、実際の減給額は最大で3万円 -
(3)出勤停止
「出勤停止」は、労働者の就労を禁止して、その期間中の賃金を支給しない懲戒処分です。
減給とは異なり、出勤停止の日数については法律上の上限がありません。
出勤停止が長引けば、その間ずっと賃金が支給されないので、労働者にとっては経済的な負担がかかるでしょう。
したがって、就業規則違反の内容に比べてあまりにも長い出勤停止処分は、懲戒権の濫用として無効となる可能性があります。 -
(4)降格
「降格」は、労働者の役職をはく奪または格下げし、それに伴い役職手当などの全部または一部が不支給となる懲戒処分です。
減給や出勤停止の効果は一時的であるのに対して、降格は職位が変更となるわけですから役職手当の不支給もその職位にある限り続きます。労働者にとっては毎月もらえる賃金が大幅に減少するため、経済的には非常に大きな負担になります。
もっとも、軽微な就業規則違反に対する降格処分や、合理的な理由のないあまりにも大幅な降格処分は、懲戒権の濫用として無効となる可能性が高いといえます。 -
(5)諭旨解雇(諭旨退職)
「諭旨解雇(諭旨退職)」は、労働者に対して退職を勧告する懲戒処分です。
諭旨解雇は、会社からの勧告にしたがって労働者から退職届が提出されれば労働者の自己都合退職になりますが、労働者が退職届の提出を拒否すれば懲戒解雇が行われるケースが大半です。
そのため、諭旨解雇については、実質的な解雇として「解雇権濫用の法理」(労働契約法第16条)が適用され、その有効性が厳しく審査されます。
なお、諭旨解雇に応じて退職届を提出した労働者に対しては、懲戒解雇された労働者に比べて、退職条件を優遇する会社が多く見られます(例:諭旨解雇の場合のみ退職金を全部または一部支給するなど)。 -
(6)懲戒解雇
「懲戒解雇」は、会社が労働者との労働契約を一方的に打ち切る懲戒処分です。
懲戒解雇の有効性は、「解雇権濫用の法理」(労働契約法第16条)によって厳しく審査されます。
すなわち、客観的に合理的な理由を欠き、社会通念上相当と認められない懲戒解雇は無効となるのです。
懲戒解雇の有効性を判断する際には、主に以下の要素が考慮されます。- 就業規則違反の内容、悪質性
- 労働者の反省の態度
- 就業規則違反によって会社が被った損害
- 就業規則違反の頻度、他の非違行為の有無および内容
- 会社による改善指導の実績
とくに、会社が十分に改善指導を行ったにもかかわらず、労働者の行動が一向に改善されなかった場合には、懲戒解雇が有効と判断される可能性が高まります。
3、不合理な懲戒処分を受けた場合の対処法
以下では、会社から不合理な懲戒処分を受けてしまった場合に、労働者がとるべき対処法を解説します。
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(1)会社に懲戒処分の理由を確認する
まずは、会社に対して、懲戒処分の理由を確認しましょう。
会社が主張する懲戒処分の理由は、懲戒処分の有効性判断における根拠事情となります。
懲戒処分に対しどのように対処すべきかを検討するにあたっては、まずは会社の主張を把握することが大切です。
会社の主張内容が明確になるように、書面やメールなどの文書で回答を求めましょう。
会社が懲戒処分の合理的な理由を提示しなければ、後に懲戒処分の有効性を争う段階で有利に働きます。 -
(2)弁護士のアドバイスを求める
懲戒処分の有効性は、過去の裁判例などを基準として、具体的な事情に照らして判断されます。
したがって、労働者が懲戒処分の有効性を争った場合に、どのような結果が見込めるかを判断するためには、法的な検討が必要不可欠です。
そのため、会社から懲戒処分を受けたら、早い段階で弁護士に相談することをおすすめします。
弁護士に相談すれば、懲戒処分の有効性や争いの見通しなどについて、法的な観点からアドバイスを受けられます。
実際の会社との交渉や法的手続きについて、弁護士が代理人として対応することも当然可能です。 -
(3)退職の書類にサインなどをしない
懲戒解雇扱いとしない代わりに、退職届の提出や、退職合意書への署名・押印などを求められる場合もあります。
このような場合には、会社の要求に対して安易に応じることなく、必ず持ち帰って弁護士のアドバイスを受けるべきです。
退職に関する書類を提出させて自主退職をさせようとするのは、解雇に関する厳しい法規制に縛られたくないという会社の意図によるものです。
そして、退職届の提出などに応じてしまうと、労働者は後に退職や懲戒処分の有効性を争う機会を失いかねません。
あるいは、仮に退職に応じるとしても、退職金の増額などについて交渉する余地があります。納得できる形で会社とのトラブルを解決するため、慎重な対応に努めましょう。
4、不当に解雇を言い渡されたら弁護士に相談を
会社が労働者を解雇できるのは、非常に厳しい要件を満たしている場合のみです。
ささいな仕事上のミスなど、軽微な理由で行われた懲戒解雇は無効である可能性が高いと考えられます。
もし会社から不当に解雇を告げられた場合は、速やかに弁護士に相談してください。
弁護士であれば、法的観点から適切な方針を立てたうえで、会社との交渉や労働審判・訴訟などの法的手続きを全面的に代行することができます。
5、まとめ
会社が労働者を解雇する前に、段階を踏んで懲戒処分を行う場合があります。
労働者としては、比較的軽い懲戒処分を受けた場合でも、違反を繰り返せばより重い懲戒処分を受ける可能性があることに注意すべきです。
一方で、懲戒処分は常に有効とは限らず、懲戒権の濫用として無効となる場合もあります。とくに懲戒解雇は解雇権濫用の法理によって厳しく制限されているため、無効である可能性があります。
もし会社から不当な懲戒処分を受けた場合には、速やかに弁護士に相談してください。
ベリーベスト法律事務所は、会社とのトラブルに関する労働者のご相談を随時受け付けております。
労働事件を豊富に取り扱う弁護士が、ご状況やご希望に合わせて適切に対応いたします。
不当な懲戒処分を受けてしまった方や不当解雇を告げられて対処にお困りの方は、まずはベリーベスト法律事務所にご連絡ください。
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