不当な雇止めは拒否できる? 契約社員・パートが知っておくべき法律知識
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令和3年7月に発表された、東京労働局による個別労働紛争解決制度等に関する令和2年度の施行状況の取りまとめによると、東京都内の総合労働相談件数は17万1488件でした。そのうち、民事上の個別労働紛争相談件数は内訳延べ合計で3万963件、そのなかでも“雇止め”に関する相談は2555件で、昨年の2352件から8.6%上昇しています。
このことから、多くの企業で雇用調整の一環として契約社員の雇止めを行う事例が増えてきていることが伺えます。しかし、長く契約社員として勤務しているにもかかわらず突然契約更新はしないと伝えられたら、納得がいかないと感じる労働者の方も多いでしょう。
有期契約であるからといって、必ずしも期間満了による終了が正当化されるわけではなく、場合によっては、不当な雇止めであるとして雇止めを拒否することができる場合もあります。今回は、契約社員やパートなど有期契約労働者が知っておくべき雇止めに関する法律知識についてベリーベスト法律事務所 錦糸町オフィスの弁護士が解説します。
1、雇止めと解雇・契約解除の違い
そもそも、雇止めとはどのような内容をいうのでしょうか。また、解雇・契約解除と雇止めとはどのような違いがあるのでしょうか。以下では、これらについて説明します。
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(1)雇止めとは
雇止めとは、有期労働契約を締結している有期雇用労働者との間で、契約期間の満了をもって労働契約を終了させることをいいます。
具体的にいえば、契約社員やパート社員として会社と6か月の労働契約を結び、その期間が終わったら労働契約も終了するということです。
有期労働契約は、期間の定めのない労働契約とは異なり、契約期間を定めた契約ですので、契約期間が満了した場合には、労働契約が終了するのが原則です。
では、労働契約の終了に対して、有期契約労働者は何もいえないのでしょうか?
たとえば、何度も契約が更新され、トータルの雇用期間が長期に及んでいる場合には、実質的にみれば期間の定めのない労働契約と異なるところはなく、労働者としては、今後も継続して雇用されるとの期待を抱くことでしょう。
また、期間の定めのない労働契約は、厳格な解雇規制に服することになりますので、そのような解雇規制をくぐり抜けるための手段として有期雇用契約が利用されることも少なくありません。
こうしたケースにおいては、期間満了による雇止めについても、解雇と同様、無効になる可能性があります。解雇と雇止めについては、以下の章で解説します。 -
(2)雇止めと解雇・契約解除の違い
解雇・契約解除とは、労働者との間の労働契約を使用者の側から一方的に解約することをいいます。
労働者にとっては、会社で働いて給料を得るということが、生活の重要な基盤になっていますので、突然解雇・契約解除によって職を失うことになれば、重大な不利益を被ることになります。そこで、労働者を保護する見地から、労働契約法では、使用者による解雇を制限する規定が設けられています。
たとえば、期間の定めがない労働契約を締結している労働者を解雇するためには、労働契約法16条の要件を満たさなければ当該解雇は無効となります。また、有期労働契約を締結している労働者を解雇するためには、同じく労働契約法17条の要件を満たさなければ無効となります。
有期雇用契約を締結している労働者は、契約期間満了までは雇用が継続されるという期待をもって働くのが通常です。そのため、契約期間中の解雇・契約解除については、期間の定めのない労働契約よりも厳格な要件で判断され、「やむを得ない事情」がない限り解雇・契約解除することができません。
このように解雇・契約解除も雇止めと同様に労働者との間の労働契約を終了させるという意味では共通する部分があります。しかし、解雇・契約解除は、労働契約の途中に使用者から一方的に終了させられるのに対して、雇止めは、有期労働契約の期間満了によって当然に終了するという点で違いがあります。
2、契約社員が雇止めを拒否できるケース
有期労働契約を会社と直接結ぶのは契約社員のほか、パートやアルバイトも含まれます。これらの雇用形態であった場合、会社からの雇止めを拒否することができるケースとしてはどのようなものがあるのでしょうか。
以下では、厚生労働省が定める「有期労働契約の締結、更新及び雇止めに関する基準」と労働契約法19条が定める「雇止め法理」について説明します。
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(1)有期労働契約の締結、更新及び雇止めに関する基準
厚生労働省では、雇止めをめぐるトラブルの防止や解決を図るために、労働基準法14条2項に基づき「有期労働契約の締結、更新及び雇止めに関する基準」を策定しています。なお、同基準では以下の内容が定められていますが、この手続きに違反したからといって直ちに雇止めが無効になるわけではありません。
① 契約締結時の明示事項
使用者は、有期労働契約を締結する場合には、以下の内容を書面で明示することが求められます。- 契約の更新の有無の明示
- 契約更新の判断基準の明示
② 雇止めの予告
使用者は、有期労働契約を更新しない場合には、少なくとも契約期間満了日の30日前までに、その旨予告をしなければなりません。ただし、雇止めの予告の対象者は、有期労働契約の更新が3回以上されているか、1年を超えて雇用されている労働者に限られます。
③ 雇止めの理由の明示
使用者は、雇止めの予告後に労働者から雇止めの理由についての証明書の請求を受けた場合には、遅滞なく交付しなければなりません。これは、雇止めの後に労働者から請求された場合であっても同様です。
④ 契約期間についての配慮
使用者は、1回以上契約を更新し、かつ、1年を超えて雇用している有期契約労働者との契約更新をしようとする場合には、契約の実態およびその労働者の希望に応じ、契約期間をできるだけ長くするように努めなければなりません。 -
(2)雇止め法理
有期労働契約は、契約期間が満了すれば、労働契約関係が終了するのが原則です。そのため、雇止めがなされたとしても、直ちに違法となるわけではありません。
しかし、有期労働契約を締結している場合であっても、雇用継続に対する労働者の期待を保護する必要があることから、一定の場合には、雇止めが無効になることがあります。これを「雇止め法理」といいます(労働契約法19条)。
具体的に雇止めが無効と判断されるのは、以下のようなケースです。- ① 長期にわたって有期労働契約が反復継続されており、結果として、無期労働契約と実質的に異ならない状態となっている場合(労働契約法19条1号)
- ② 相当程度の反復更新がされている実態から、更新の合理的な期待が認められる場合(労働契約法19条2号)
上記の①および②について、どのような場合に雇止めが無効になるかの具体的な基準については、法律上明らかにされていません。
しかし、雇止めについて争われた裁判例では、以下の6つの判断要素を用いて契約関係の状況を総合的に判断しています。- ① 業務の客観的内容(従事する仕事の種類、内容、勤務形態)
- ② 契約上の地位の性格(地位の基幹性、臨時性、労働条件の正社員との同一性の有無)
- ③ 当事者の主観的態様(継続雇用を期待させる言動、認識の有無、程度)
- ④ 更新手続き・実態(契約更新状況、契約更新時の手続きの厳格性の程度)
- ⑤ 他の労働者の更新状況(同様の地位にある労働者の雇止めの有無)
- ⑥ その他(有期労働契約を締結した経緯、勤続年数・年齢などの上限設定の有無)
3、雇止めが無効となった裁判例
雇止めが無効になった裁判例としては、以下のものが挙げられます。
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(1)NTT子会社事件(岐阜地裁平成29年12月25日判決)期待保護タイプ
この事件は、NTTマーケティングアクト岐阜営業部の契約社員が複数回契約の更新を受け、5年から12年にわたって継続雇用をしていたにもかかわらず、会社側から業務形態の変更を理由に契約を更新しない旨を通知され、それに同意をしなかった労働者との契約を打ち切り、雇止めにしたというものです。
裁判所は、本件労働者は労働契約法19条2号の契約更新の期待権をもっていると認定したうえで、「雇止め対象者の人数等に見合うほど人員削減の必要性があったか疑義があり、雇止め回避努力としては不十分」として、「雇止めは客観的に合理性を欠き、社会通念上相当なものであると認められない」と認定しました。 -
(2)東芝柳町工場事件(最高裁昭和49年7月22日判決)実質無期契約タイプ
この事件は、契約期間を2か月と定めた有期労働契約を締結した労働者との間で、5回ないし23回にわたって契約の更新がなされた後、会社は、労働者に対して雇止めの意思表示をしました。
裁判では、雇止めの有効性が争点になりましたが、裁判所は、「本件各労働契約は、当事者双方ともいずれかから格別の意思表示がなければ当然更新される意思であったものと解するのが相当であり、期間の満了ごとに当然更新を重ねてあたかも期間の定めのない契約と実質的に異ならない状態で存在していた」と判示して雇止めを無効と判断しました。
4、雇止めで悩んだら弁護士に相談を
会社から不当な雇止めをされて困っている、納得ができないという場合は、労働紛争の実績がある弁護士に相談をすることをおすすめします。
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(1)適正な雇止めであるかを判断できる
期間満了を理由に雇止めをすること自体が禁止されているわけではありませんので、すべての雇止めが違法となるわけではありません。
雇止めのなかでも違法になるのは、これまでの契約更新の実態から実質的に無期契約と異ならない状態になっているケースや、契約更新に対する期待を保護する必要があるケースです。
どのようなケースが違法な雇止めにあたるかについては、過去の判例の判断要素を踏まえた検討が必要になりますので、弁護士でなければ正確な判断が難しい事柄です。
雇止めの無効を争いたいと考えている場合には、まずは、雇止めが無効になる可能性があるのかどうかを弁護士に判断してもらうとよいでしょう。 -
(2)違法な雇止めに対しては無効主張や損害賠償請求ができる
具体的な事案を検討した結果、違法な雇止めであることが判明した場合には、会社に対して雇止めの無効を主張するとともに雇止め後の賃金相当額について損害賠償請求をすることが可能です。
雇止めをされた労働者は、新たな就職先を探したり、すでに新たな仕事に就いたりしていることもありえます。そうした状況と両立して会社と交渉を進めていくことは大変ハードルが高いといえるでしょう。
弁護士であれば、労働者に代わって会社と交渉を進めることができ、場合によっては、労働審判や裁判によって解決を図ることもできます。交渉や請求に要する負担を軽減するためにも弁護士の利用を積極的に検討するようにしましょう。
5、まとめ
有期労働契約であっても長期間契約の更新を繰り返している場合には、無期契約の労働者と同様に扱う必要がある事案も少なくありません。今後もコロナウィルスや長期不況による業績の悪化で、不当な雇止めによって職を失う労働者が増える可能性は否めません。雇止めについて疑問が生じた場合には、まずはベリーベスト法律事務所 錦糸町オフィスまでご連絡ください。
- この記事は公開日時点の法律をもとに執筆しています