年俸制だと有給は付与されない? 労働者が知っておくべき年俸制の基本

2022年11月09日
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年俸制だと有給は付与されない? 労働者が知っておくべき年俸制の基本

経済センサスのデータによると、東京都内の民営事業所数は61万6002事業所で、全国の12.1%を占めています。東京都内の従業者数は943万3466人で、こちらは全国の16.4%を占めています。

これらの労働者の中には、年棒制で働く人たちも含まれています。年俸制で働く労働者の方であっても、有給休暇や残業代の考え方は、原則として通常の労働者と同じです。したがって、年俸制でも有給休暇は取得できますし、残業をすれば残業代が発生します。

もし、年棒制であることを理由として有給休暇が付与されなかったり、残業代が支払われなかったりした場合には、お早めに弁護士までご相談ください。今回は、年俸制の場合における有給休暇の取り扱いや、その他の年俸制で働く労働者が注意すべきポイントなどについて、ベリーベスト法律事務所 錦糸町オフィスの弁護士が解説します。

出典:「令和3年経済センサス‐活動調査(速報)【令和4年6月30日公表】 4 全国から見る東京都」(東京都)

1、年俸制でも有給休暇は取得できる

労働基準法第39条では、継続勤務期間や出勤率などの要件を満たす労働者に対して、使用者に年次有給休暇を付与することを義務付けています。年俸制で働く労働者も同様に、一定の要件を満たせば有給休暇を取得することが可能です

  1. (1)有給休暇が付与される要件・付与日数

    有給休暇が付与されるのは、以下の要件をいずれも満たす労働者です。

    1. ① 継続勤務期間が6か月以上であること
    2. ② 基準期間※の全労働日の8割以上出勤したこと

    ※基準期間:継続勤務期間に対応する以下の期間
    継続勤務期間が6か月以上1年6か月未満:雇入れから6か月間
    継続勤務期間が1年6か月以上2年6か月未満:雇入れの6か月後から1年間
    継続勤務期間が2年6か月以上3年6か月未満:雇入れの1年6か月後から1年間


    フルタイム(1週間の所定労働日数が5日以上、または1年間の所定労働日数が217日以上)で働く方には、以下の日数の年次有給休暇が付与されます。

    <年次有給休暇の日数(フルタイム)>
    継続勤務期間 年次有給休暇の日数
    6か月以上1年6か月未満 10日以上
    1年6か月以上2年6か月未満 11日以上
    2年6か月以上3年6か月未満 12日以上
    3年6か月以上4年6か月未満 14日以上
    4年6か月以上5年6か月未満 16日以上
    5年6か月以上6年6か月未満 18日以上
    6年6か月以上 20日以上


    これに対して、パートタイム(1週間の所定労働日数が4日以下、または1年間の所定労働日数が216日以下)で働く方については、以下の日数の年次有給休暇が付与されます。

    <年次有給休暇の日数(パートタイム)>
    1週間の所定労働日数 4日 3日 2日 1日
    1年間の所定労働日数 169日以上216日以下 121日以上168日以下 73日以上120日以下 48日以上72日以下
    継続勤務期間 6か月以上1年6か月未満 7日以上 5日以上 3日以上 1日以上
    1年6か月以上2年6か月未満 8日以上 6日以上 4日以上 2日以上
    2年6か月以上3年6か月未満 9日以上 6日以上 4日以上 2日以上
    3年6か月以上4年6か月未満 10日以上 8日以上 5日以上 2日以上
    4年6か月以上5年6か月未満 12日以上 9日以上 6日以上 3日以上
    5年6か月以上6年6か月未満 13日以上 10日以上 6日以上 3日以上
    6年6か月以上 15日以上 11日以上 7日以上 3日以上
  2. (2)「年俸制」は賃金計算の方法にすぎない|有給休暇は取得可能

    年俸制で働く労働者についても、年次有給休暇の取り扱いは、月給制などで働く労働者との間で区別されていません。年俸制はあくまでも賃金(給与)の計算方法に過ぎず、有給休暇の取り扱いに関しては、他の労働者と何ら違いがないのです。

    したがって、年俸制で働く労働者も、付与された日数の範囲内で有給休暇を取得できます。

2、年俸制の労働者が欠勤した場合、賃金をカットされる?

年俸制で働く労働者は「年間の賃金総額(年俸額)が決まっている」状態ですが、欠勤した場合はその分が賃金から控除される場合があります。

  1. (1)欠勤は原則として賃金カットの対象

    「ノーワーク・ノーペイ」の原則(民法623条、民法624条1項が法的根拠として挙げられます)に従い、労働者が働かなかった期間については、原則として使用者は労働者に賃金を支払う義務を負いません。

    これは年俸制の労働者についても同様です。したがって、年俸制の労働者が欠勤した場合は、年俸から欠勤日数に応じた賃金が控除されてしまうのが原則となります。

    もっとも、労働基準法では特に定めを置いていないため、実務上は、就業規則や賃金規定に規定を置き、その内容に従うことになります

  2. (2)有給休暇を取得すれば賃金はカットされない

    労働者が有給休暇を取得した場合、その日は働いたものとみなされ、欠勤控除の対象にはなりません。これは年棒制の労働者であっても同様です。

    労働契約や就業規則において、欠勤控除を行わない旨が定められていなければ、仕事を休む際にはできる限り有給休暇を取得した方がよいでしょう。

3、年俸制で働く労働者が注意すべきポイント

年俸制で働く労働者は、残業代の取扱いや賞与の支払い方法などについて、月給制の労働者とは異なる場合があります。ご自身の待遇が適正なものであるかを判断するために、以下のポイントについて正しく理解しておきましょう。

  1. (1)年俸制における残業代計算の考え方

    年俸制の労働者も、所定労働時間を超えて働いた場合は、残業代を受け取る権利があります。

    残業代の計算式は、以下のとおりです。

    残業代=1時間当たりの基礎賃金×割増賃金率×残業時間数


    <割増賃金率>
    法定内残業
    (所定労働時間を超え、法定労働時間以内の残業)
    100%
    時間外労働
    (法定労働時間を超える残業)
    125%
    ※大企業の場合、月60時間を超える時間外労働については150%(中小企業についても、2023年4月以降は同様)
    休日労働
    (法定休日の労働)
    135%
    深夜労働
    (午後10時から午前5時までの労働)
    25%
    時間外労働かつ深夜労働 150%
    ※大企業の場合、月60時間を超える時間外労働については175%(中小企業についても、2023年4月以降は同様)
    休日労働かつ深夜労働 160%


    年俸制の場合、1時間当たりの基礎賃金は、以下の式によって計算します。

    1時間当たりの基礎賃金(年俸制)=1年間の総賃金※÷1年間の所定労働時間

    ※以下の賃金を除く
    • 時間外労働手当、休日労働手当、深夜労働手当
    • 家族手当
    • 通勤手当
    • 別居手当
    • 子女教育手当
    • 住宅手当
    • 臨時に支払われた賃金(賞与など)
    • 1か月を超える期間ごとに支払われる賃金
  2. (2)年俸に含まれる固定残業代の取り扱い

    使用者から提示される年俸の中には、固定残業代が含まれているケースがあります。
    これを「固定残業代制」といいます。

    固定残業代制が有効とされるためには、通常の労働事件の賃金に当たる部分と割増賃金の部分が明確に区分されているか、その支払いが時間外労働等の対価としての性質を有しているか等を検討する必要があります。また、固定残業時間を超えて働いた場合には、残業代が発生します。

    もし固定残業代制を理由に、残業代が全く支払われていない場合、または、固定残業時間を超えて働いたにも関わらず残業代が支払われていないような場合には、その有効性を検討するためにも、弁護士にご相談ください

  3. (3)年俸制における賞与の支払い方法

    年俸制における賞与の取扱いは、賞与が年俸に含まれている場合と、年俸とは別に賞与が支給される場合の2通りに分かれます。

    どちらに該当するかによって、実際の賃金が大幅に変わる可能性がありますので、必ず労働契約の内容をご確認ください。

4、労働条件に関する疑問・未払い残業代請求の相談先

年俸制で働く労働者が、労働条件や残業代の支払いなどについて疑問を持った場合は、会社の人事部門・労働基準監督署・弁護士などに相談しましょう。

  1. (1)会社の人事部門

    会社の人事部門は、労働条件や残業代の支払いなどに関する事務を担当しています。

    単純なミスや勘違いであれば、迅速に対応してくれる可能性がありますので、まずは会社の人事部門に相談してみるのがよいでしょう。

  2. (2)労働基準監督署

    労働基準監督署は、労働基準法等の法令に基づき、労働条件の確保や改善指導、安全衛生の指導、労災保険の給付などを行う組織です。

    会社が明示した労働条件が実際とは異なる、残業代が正しく支払われないなどの場合には、労働者は労働基準監督署に対してその旨を申告できます(労働基準法第104条)

    労働基準監督署が違反の事実を認めれば、会社に対して行政指導や刑事処分を行い、違反状態の是正を図ります。

    会社全体にまん延する労働基準法違反を改善したい場合には、労働基準監督署への相談が効果的です。その反面、未払い残業代の請求など、労働者のための直接的な行動を取ってくれるわけではない点にご注意ください。

  3. (3)弁護士

    弁護士は法律の専門家であり、労働者の代理人として会社と交渉を進めたり、労働審判・訴訟を起こしたりすることもできます。

    未払い残業代の請求をはじめとして、労働者の権利を守るための対応を一任できる点が、弁護士にご依頼いただくことの大きなメリットです。会社による不当な取り扱いにお悩みの労働者の方は、まずは一度弁護士までご相談ください。

5、まとめ

年俸制で働く労働者も、月給制の場合と同様に、一定の要件を満たせば有給休暇を取得できます。また、年棒制であるからといって、残業代が発生しないわけではありません。

年俸制の場合、残業代の計算方法をはじめとして、月給制の場合とは異なる場合があります。年俸制に関する労働条件についてご不明点がある方や、未払い残業代の有無などを確認したい方は、まずはベリーベスト法律事務所 錦糸町オフィスにご相談ください。

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