会社の飲み会に強制参加|違法性の有無や賃金の発生などについて解説
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令和3年度(2021年度)に都内の総合労働相談コーナーに寄せられた相談は17万2047件で、いじめ・嫌がらせに関する相談件数は9654件でした。
コロナ禍も落ち着きをみせる昨今、会社の付き合いで飲み会に強制参加させられるケースが増えてくるかもしれません。会社の飲み会に強制参加させられた場合、会社に対して賃金や損害賠償を請求できる可能性があります。
今回は、強制参加の飲み会について賃金や損害賠償を請求できる条件などを、ベリーベスト法律事務所 錦糸町オフィスの弁護士が解説します。
1、強制参加の飲み会に賃金は発生するのか?
飲み会には原則として賃金(残業代)が発生しませんが、労働時間に該当すると評価できれば、業務に準じて賃金が発生します。
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(1)労働時間に該当すれば賃金が発生する
使用者が労働者(社員)に対して支払うべき賃金は、「労働時間」に対して発生します。
労働時間とは、労働者が使用者の指揮命令下に置かれている時間です。そして、労働時間に該当するか否かは、労働者の行為が使用者の指揮命令下に置かれたものと評価できるか否かによって客観的に定まります(最高裁平成12年3月9日判決)。
飲み会についても、労働者が使用者の指揮命令に基づいて参加したものと評価されれば、労働時間として賃金が発生します。
たとえば以下のような場合には、飲み会について賃金が発生する可能性があると考えられます。
- 実質的に強制参加であり、拒否することができない
- 会社による公式な業務命令として、飲み会への参加が指示された
- 欠席した労働者には、人事考査においてマイナス点が付けられる
飲み会に限らず、社員旅行や運動会などの社内行事についても、実質的に強制参加である場合には、労働時間として賃金の対象となる可能性があります。
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(2)強制参加の飲み会に係る賃金の計算方法
強制参加の飲み会には、「法定時間内残業」または「法定時間外労働」として賃金が発生します。時間外労働については、割増賃金の支払いが必要です。
また、曜日や時間帯によっては、「休日労働」や「深夜労働」としての割増賃金が発生することもあります。
- ① 法定時間内残業
労働契約または就業規則で定められる所定労働時間を超え、法定労働時間(原則として1日8時間・1週間40時間)を超えない範囲の残業です。 - ② 法定時間外労働
法定労働時間(原則として1日8時間・1週間40時間)を超える残業です。 - ③ 法定休日労働
原則として1週1日又は4週4日の法定休日(労働基準法35条1項・2項)における労働です。 - ④ 法定外休日労働
法定休日ではない休日(法定外休日)に労働した場合は、法定時間内労働または法定時間外労働として取り扱われます。 - ⑤ 深夜労働
午後10時から午前5時までに行われる労働です(労働基準法37条4項)。
<割増賃金率>
法定内残業 通常の賃金 時間外労働 通常の賃金×125%
※月60時間を超える時間外労働については通常の賃金×150%休日労働 通常の賃金×135% 深夜労働 通常の賃金×25% 時間外労働かつ深夜労働 通常の賃金×150%
※月60時間を超える時間外労働については通常の賃金×175%休日労働かつ深夜労働 通常の賃金×160%
上記の割増賃金率を以下の計算式に当てはめると、強制参加の飲み会に係る賃金(残業代)の金額を計算できます。
残業代
=1時間当たりの基礎賃金×割増賃金率×残業時間数
1時間当たりの基礎賃金
=1か月の総賃金(以下の手当を除く)÷月平均所定労働時間
<総賃金から除外される手当>- 時間外労働手当、休日労働手当、深夜労働手当
- 家族手当
- 通勤手当
- 別居手当
- 子女教育手当
- 住宅手当
- 臨時に支払われた賃金
- 1か月を超える期間ごとに支払われる賃金
(例)- 1時間当たりの基礎賃金は3000円
- 強制参加の飲み会に3時間参加した場合(労働日の午後8時から午後11時まで開催)
→時間外労働(深夜労働を除く)2時間、時間外労働かつ深夜労働1時間
残業代
=3000円×125%×2時間+3000円×150%×1時間
=1万2000円
- ① 法定時間内残業
2、飲み会への参加強制はパワハラに該当し得る
会社側(上司など)が飲み会への参加を強制することは、労働者に対するパワハラに該当する可能性があります。
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(1)法律上のパワハラの定義
労働施策総合推進法第30条の2第1項では、いわゆる「パワハラ(パワー・ハラスメント)」に該当する行為の要件として、以下の3点を定めています。
- ① 職場において行われる優越的な関係を背景とした言動であること
- ② 業務上必要かつ相当な範囲を超えたものであること
- ③ 雇用する労働者の就業環境が害されること
飲み会への参加強制は、上司など労働者に対して「優越的」な地位にある者によって行われるケースが多いです(①)。
飲み会に参加することは、参加者間の親睦を深める効果こそ期待できるものの、業務と直接の関係はないため「業務上必要」とまではいえない可能性があります(②)。
また、嫌がっている飲み会への参加を強制した場合、「労働者の就業環境が害される」可能性もあります(③)。
したがって、上司などが労働者に対して飲み会への参加を強制することは、上記のパワハラの要件を満たす可能性が高いと考えられます。 -
(2)パワハラを受けたら損害賠償請求が可能
パワハラに当たる飲み会への参加強制を受けた場合の労働者から会社に対する請求は、以下の法的根拠に基づきます。
- ① 安全配慮義務違反(労働契約法第5条)
会社は労働者に対して、生命・身体等の安全を確保しながら労働できるように、必要な配慮をする義務(=安全配慮義務)を負います。
飲み会への参加を強制された場合、それが会社の安全配慮義務に違反するのであれば、安全配慮義務違反に基づき、会社に対して損害賠償を請求をすることが考えられます。 - ② 使用者責任(民法第715条第1項)
被用者(従業員)が事業の執行について第三者に損害を加えた場合、会社もその損害を賠償する責任(=使用者責任)を負います。
嫌がっているにもかかわらず、上司などによって飲み会への参加を強制された場合、それが事業の執行においてなされたのであれば上司の使用者である会社に対して、使用者責任に基づく損害賠償を請求することが考えられます。
- ① 安全配慮義務違反(労働契約法第5条)
3、飲酒強要などについて損害賠償が命じられた裁判例
東京高裁平成25年2月27日判決では、上司によって飲酒強要などパワハラを受けた労働者について、肉体的・精神的苦痛による150万円の損害を認定し、上司本人および会社に対してその支払いが命じられました。
同判決では、上司によって以下の度重なるパワハラが行われたことが認定されています。
- 嫌がる労働者に対して飲酒を強要し、嘔吐したところさらにコップに酒を注いだ
- 酒のために体調が悪いと断る労働者に、レンタカーの運転を強制した
- 仕事から直帰した労働者に対して、そのことを揶揄する趣旨のメールを送った
- 労働者の携帯電話に、罵倒する内容の留守電を残した
同判決の事案は、飲み会への参加強制にとどまらない悪質なケースといえますが、エスカレートすると高額の損害賠償が認められ得ることがわかる点で参考になります。
4、残業代の未払いやパワハラについて弁護士に相談するメリット
飲み会への参加を強制させられた場合は、未払い残業代請求やパワハラの損害賠償請求などについて、弁護士への相談をおすすめします。
弁護士のサポートを受けながら、法的な根拠に基づく主張を行うことにより、未払い残業代やパワハラの慰謝料について適正な金銭的補償を請求できます。
弁護士を通すことで、会社に対して、パワハラに当たる飲み会への参加強制をやめさせるよう強く訴えることも可能です。さらに、ご自身で会社とやり取りする必要がなくなるため、時間・労力・ストレスが軽減されるメリットもあります。
会社とのトラブルについて、労働者ご自身で対応するのは非常に大変です。弁護士のサポートを受けることにより、会社と対等に交渉することが可能です。飲み会への強制参加など、会社に対する不満を抱えている方は、お早めに弁護士までご相談ください。
5、まとめ
業務時間外に行われる飲み会でも、実質的に強制参加と認められる場合には、労働時間に該当する可能性があります。飲み会が労働時間に該当する場合、会社は労働者に対して賃金を支払う義務を負います。
さらに、嫌がる労働者に対して飲み会への参加を強制することはパワハラに該当する可能性があります。パワハラを受けた労働者は、会社に対して損害賠償を請求可能です。
飲み会への参加を強制されたことにつき、会社の責任を追及したい、金銭による補償を受けたいとお考えの方は、弁護士への相談をおすすめします。
ベリーベスト法律事務所にご相談いただければ、労働問題に関する経験豊富な弁護士が、法的な根拠に基づく説得力のある主張により、お客さまにとって有利な解決を目指して尽力いたします。
賃金の未払い・ハラスメント・違法な長時間労働など、会社とのトラブルにお悩みの労働者の方は、お早めにベリーベスト法律事務所 錦糸町オフィスへご相談ください。
- この記事は公開日時点の法律をもとに執筆しています