1時間も早出しているのに残業代がつかないのは違法? 弁護士が解説

2021年05月27日
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1時間も早出しているのに残業代がつかないのは違法? 弁護士が解説

抱えている業務量が多く、決められた出社時刻よりも1時間早出して労働した。しかし残業代をもらえない……。少子高齢化による慢性的な人手不足が問題視される昨今、そのような悩みは珍しいことではありません。

このように早出した場合、残業代はつくのでしょうか。また、もし会社から早出しないようにいわれているにもかかわらず早出した場合はどうなるのでしょうか。

労働時間や残業代に関する基本的な考え方、さらに早出に残業代が出るのか、残業代を請求する方法などについて、ベリーベスト法律事務所 錦糸町オフィスの弁護士が解説します。

1、残業・早出の基礎知識

  1. (1)労働基準法における残業・早出

    一般に使われている“残業・早出”という言葉は、法律用語ではありません。労働基準法では“時間外労働”といい、あらかじめ定められた時間を超えて行った労働時間のことを指します。

    あらかじめ定められた時間とはどのような時間でしょうか。最初に考えるべきは、労働契約や就業規則に定められている所定労働時間です。たとえば勤務時間が9時から17時の8時間をとさだめられていて、休憩が1時間ある場合には、所定労働時間は7時間ということになります。次に考えるべきは、国が定めている最低基準である法定労働時間です。

    労働基準法32条では、1日8時間、週40時間を法定労働時間と定め最低基準としています。そのため、会社の定める所定労働時間が、法定労働時間より長い場合や、そもそも労働時間を会社が定めていない場合には法定労働時間が基準になります。

  2. (2)残業・早出に対する割増賃金の算出方法

    労働基準法によって、法定労働時間を超えて行った労働には、通常の賃金に加えて割増賃金の支払いが義務付けられています。この定めは最低基準ですから、勤務時間後の労働である残業でも、勤務時間前の早出でも区別することなく、会社は割増賃金を支払わなければなりません。

    次に割増賃金の計算方法ですが、まずは就業規則や賃金規定などの定めや雇用契約書の記載など、あなたが会社と結んでいる契約内容に従って計算することになります。次に労働基準法に沿った計算を行い、二つの計算結果を比較します。二つの計算結果を比較して高いほうの計算結果が正しい割増賃金となります。

    具体的な計算例をあげて説明してみましょう。
    月給21万円・所定労働日20日・所定労働時間が1日あたり7時間の労働者の場合、210000÷20÷7=1500で、時給相当額は1500円(※わかりやすいように簡略化しています。)となります。ある勤務日に所定労働時間を超えて2時間残業し、時間外労働の割増率は25%と定められていたとしましょう。

    この場合、2時間のうち1時間分については、労働基準法が定める割増賃金の発生根拠である法定労働時間の8時間を超えず、会社との契約でも割増賃金の定めは無いため、1時間分の賃金である1500円が支払われます。そして、8時間を超える1時間については、1時間分の賃金である1500円と割増賃金25%が支払われます。

    したがって残業代は、1500+1500×1.25=3375円となります。この金額は定時後の残業であっても、定時前の早出であっても変わりません(※深夜や休日であることは考慮していません。)。

    なお、原則として会社は1分単位で残業代を支払う義務があります15分や30分未満の残業や早出だから賃金を切り捨てて支払わないというのも認められません

  3. (3)会社が残業・早出を命じるためには36(さぶろく)協定の締結が必要

    そもそも、会社が、労働者に法定労働時間を超えた労働を命じるためには、原則として“36協定”が必要になります。

    36協定とは、労働基準法36条に規定された手続きです。会社が法定労働時間を超えた労働を命じるためには、労働組合などの労働者過半数代表と会社の間で労使協定(36協定)を締結し、労働機運監督署に対して届け出をする必要があります。

    もっとも、残業・早出の賃金は、会社が労働を命じた場合だけに限定されるわけではありません労働者が自主的に残業・早出を行っていたとしても、会社がそれを許容していれば支払われますまた、36協定を締結せずに命じられた残業・早出であっても残業代は支払われます

2、早出が認められる場合、認められない場合

前述のように早出した分にも、原則として残業代が支払われます。しかし、中には早出をしてもその分の残業代が支払われない場合があります。いくつかの場合を考えてみましょう。

● 上司から明確な早出・残業の指示があった場合
管理監督者である上司が残業を指示した場合、残業代を支払わなくてよい理由はなく、支払われるべきですので、単純な残業代未払であることがほとんどです。

● 上司から明確な指示はないものの、残業しなければ終わらない業務量があった場合
上司が残業指示をしていなくても、納期が迫っているにもかかわらず所定の労働時間では業務を完了させることができなかったなどの場合は、残業代を請求できる可能性があります。また、残業が発生している状態を会社が恒常的に黙認しているケースにおいても、会社に対して残業代支払いを求めることができる場合があります。

● 会社から早出しないでくれと注意されているにもかかわらず早出をした場合
会社が早出の禁止を通達していることに加え、業務量が多すぎる場合には他の人への業務の引き継ぎや交代の指示をしているなど、早出して働く必要がないのに早出していたのなら、残業代の請求はまずできません。必要のない早出して、同僚と雑談するなど業務に関係のないことをしているだけであれば、そもそも労働時間とはいえないからです。

以上のことから、早出が時間外労働として認められるかどうかは、

  • ① 上司(会社)からの明確な指示があったかどうか
  • ② 時間内に業務を完遂する必要があったか


などが、主な判断基準になります。

3、残業代を請求する方法と注意点

実際に残業代を請求するための方法と、どのようなことに注意すればよいのかについて解説します。

  1. (1)残業・早出の証拠集め

    まず、早出をしたという証拠が必要になります。タイムカードを出社した時間に打刻していれば早出したことは明らかですが、会社によっては始業時間にならないとタイムカードを押せなかったり、タイムカードによる労務管理をしていなかったりするような会社もあるかもしれません。

    そのような場合には、

    • 毎日の出社時刻のメモ(アプリでの記録などでも可)
    • 通勤電車のICカードの改札通過時刻
    • パソコンのログイン履歴


    などが証拠となります。

  2. (2)内容証明郵便による残業代の請求

    つぎに、自分で残業代の計算を行った上で、会社の上司や給与の管理を行っている部署に対して残業代支払いの交渉を自分で行う方法があります。交渉が決裂した場合には、裁判所を使った手続きやADRなどを利用することになるでしょう。残業代は、給料の支払い日から2年(民法改正後に発生した残業代は3年)で時効になり、請求できなくなります。内容証明郵便で残業代の請求をするなどすれば、6か月ほど時効が伸びるので、活用すると良いでしょう。

    内容証明郵便とは、誰が誰に、いつどのような内容の文書を出したかということを日本郵便が証明するものです。郵便局で手続きをする方法だけでなく、インターネットを通じて内容証明を送ることのできるe内容証明というサービスも提供されています。また、電子メールで請求した記録でもよいでしょう。社内の連絡手段がチャットアプリであれば、同様に催告を行った証拠となり、時効が6か月ほど伸びたと主張することができます。

  3. (3)実績のある弁護士に相談する

    内容証明郵便やメールなどで請求してもなお、支払いがされない場合には、裁判所を使った手続である労働審判や訴訟、ADRの手続などに進みます。労働審判や訴訟においては、証拠集めはもちろん、適切な残業代の算出、的確な主張などを行う必要があります納得できる結果を得るために、まずは労働問題の解決実績が豊富な弁護士に相談することがおすすめです

    弁護士が介入し内容証明郵便を代理で送るだけで、膠着(こうちゃく)していた話し合いがスムーズに進む可能性は高まります。
    また、残業代の計算は複雑ですし、法律的な争点を含むものですので、一方的に計算した結果を送るだけでは解決しないことが多く、法的な争点を整理し、争点ごとの勝ち負けやその確率を考慮した折衷案を出していくことなどは、専門家でなければ難しい部分です。
    そして、訴訟よりも短期間での決着が期待できる労働審判を申し立てることにより、迅速な解決をはかることもできますし、そもそも弁護士であれば、泣き寝入りせずに労働審判や訴訟を起こしてくると会社も思うので、妥当な和解提案に応じる確率が高まるのです。

    さらに、訴訟や労働審判では、判決のように裁判官が支払いを命じることだけでなく、和解することが非常に多く見られます。和解とは、当事者が違いに譲歩することで争いを止める合意をすることです。企業にとっては残業代のことで従業員から裁判を起こされると、社会的なイメージにも関わります。社会的なイメージを重視する会社ほど不当な残業代の未払の判決がでることを嫌うため、譲歩を引き出して和解による早期解決も期待できるでしょう。会社の譲歩を引き出して、有利な条件で和解するための駆け引きについては、専門家に依頼するメリットの大きい部分といえます。

4、まとめ

早出は時間外労働であるため、定時後の残業と同じように残業代が支払われます。ただし、残業代を請求するときは早出ないし残業をしていたことを証明する証拠が必要となりますので、それを残しておく必要があります。

残業代を請求しているにもかかわらず支払ってもらえない、サービス残業が常態化していて残業代を請求しにくいなど、残業代に関することでお悩みの方は、まずは労働問題の解決実績が豊富な、ベリーベスト法律事務所 錦糸町オフィスの弁護士にご相談ください。勤務状況や会社の労務管理の様子を詳しくヒアリングし、残業代請求できるのかどうか、残業代請求の手続きをどのように進めればよいのかといった点について、真摯(しんし)にアドバイスをさせていただきます。

  • この記事は公開日時点の法律をもとに執筆しています