欠勤控除とは? 基本給より高い場合の対応や注意点を弁護士が解説
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令和4年度に東京都内の総合労働相談コーナーに寄せられた総合労働相談の件数は17万4985件で、直近5年は上昇傾向にあります。相談内容はさまざまですが、給与に関するものも少なくないでしょう。
労務において、適正な給与計算は重要な業務のひとつですが、「欠勤控除」を行う際は注意が必要です。
「欠勤控除」とは、従業員が欠勤した場合に、有給休暇などを除き、基本給等から賃金を控除することです。ただし、控除の取り扱いが適切でないと、賃金未払いや労働基準法違反に発展するリスクもあります。
本記事では欠勤控除について、計算方法・基本給より高い場合の対処法・注意点などをベリーベスト法律事務所 錦糸町オフィスの弁護士が解説します。
出典:「令和4年度個別労働紛争解決制度の施行状況」(東京労働局)
1、欠勤控除とは?
「欠勤控除」とは、従業員が欠勤した場合に、欠勤日数に応じた金額を基本給などから差し引くことをいいます。
雇用契約において、労働者は労働を終わった後でなければ報酬を請求できません(民法第624条第1項)。したがって、労働していない期間については、原則として賃金が発生しません。これは「ノーワーク・ノーペイの原則」と呼ばれるものです。
有給休暇などの例外に当たらない限り、欠勤した従業員については、欠勤日数に応じた金額の欠勤控除を行うことが認められます。
2、欠勤控除の計算方法
欠勤控除の計算方法にはさまざまなパターンがあり、会社によって採用している方法が異なります。
代表的な4つの欠勤控除の計算方法を紹介します。
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(1)1年の所定労働日数を基準に計算する方法
1つ目は、1年の所定労働日数を基準に算出した「日給」に、欠勤日数をかけて欠勤控除額を求める方法です。
1日当たりの欠勤控除額=控除対象賃金月額×12か月÷1年の所定労働日数
(例)- 控除対象賃金月額が30万円、1年の所定労働日数が240日の場合
→1日当たりの欠勤控除額は1万5000円(=30万円×12か月÷240日)
この計算方法の特徴は、1日当たりの欠勤控除額が年間を通して一定であることです。
- 控除対象賃金月額が30万円、1年の所定労働日数が240日の場合
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(2)1か月の所定労働日数を基準に計算する方法
2つ目は、1か月の所定労働日数を基準に算出した「日給」に、欠勤日数をかけて欠勤控除額を求める方法です。
1日当たりの欠勤控除額=控除対象賃金月額÷対象月の所定労働日数
(例)- 控除対象賃金月額が30万円、その月の所定労働日数が20日の場合
→1日当たりの欠勤控除額は1万5000円(=30万円÷20日) - 控除対象賃金月額が30万円、その月の所定労働日数が22日の場合
→1日当たりの欠勤控除額は1万3636円(=30万円÷22日)
この計算方法の特徴は、月によって1日当たりの欠勤控除額が変わり得ることです。
- 控除対象賃金月額が30万円、その月の所定労働日数が20日の場合
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(3)1年の暦日数を基準に計算する方法
3つ目は、1年の暦日数を基準に算出した「日給」に、欠勤日数をかけて欠勤控除額を求める方法です。
1日当たりの欠勤控除額=控除対象賃金月額×12か月÷365日(または366日)
(例)- 控除対象賃金月額が30万円の場合
→1日当たりの欠勤控除額は9863円(=30万円×12か月÷365日)
この計算方法の特徴は、1日当たりの欠勤控除額が年間を通して一定であること、および所定労働日数を基準に計算する場合と比べて欠勤控除額が少なくなることです。計算上は、すべての労働日を欠勤した場合でも賃金が発生します。
- 控除対象賃金月額が30万円の場合
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(4)1か月の暦日数を基準に計算する方法
4つ目の方法は、1か月の暦日数を基準に算出した「日給」に、欠勤日数をかけて欠勤控除額を求めます。
1日当たりの欠勤控除額=控除対象賃金月額÷対象月の暦日数
(例)- 9月の控除対象賃金月額が30万円の場合
→1日当たりの欠勤控除額は1万円(=30万円÷30日)
この計算方法の特徴は、月によって1日当たりの欠勤控除額が変わり得ること、および所定労働日数を基準に計算する場合と比べて欠勤控除額が少なくなることです。
計算上は、すべての労働日を欠勤した場合でも賃金が発生します。 - 9月の控除対象賃金月額が30万円の場合
3、欠勤控除額が基本給より高い? 原因と対処法を解説
1か月の大半を欠勤した従業員については、計算方法によっては欠勤控除額が基本給よりも高くなってしまうケースがあります。
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(1)欠勤控除額が基本給より高くなってしまう原因
これまで紹介した欠勤控除額の4つの計算方法のうち、欠勤控除額が基本給より高くなってしまうことがあるのは、1年の所定労働日数を基準に欠勤控除額を計算する方法(2章(1))です。
この計算方法では、所定労働日数が12か月の平均よりも多い月(≒休日が少ない月)において、労働日のほとんど全部を欠勤した場合に、欠勤控除額が基本給よりも高くなります。(例)- 基本給が30万円、1年の所定労働日数が240日の場合
→基本給からの1日当たりの欠勤控除額は1万5000円(=30万円×12か月÷240日)
所定労働日数が23日の月では、21日以上欠勤すると、欠勤控除額が基本給よりも高くなります。- 21日欠勤→欠勤控除額は31万5000円
- 22日欠勤→欠勤控除額は33万円
- 23日欠勤→欠勤控除額は34万5000円
- 基本給が30万円、1年の所定労働日数が240日の場合
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(2)欠勤控除額が基本給より高い場合の対処法
欠勤控除額が基本給より高いとしても、1つ目の計算方法で適切に金額を計算していれば、労働基準法上問題はありません。
賃金がマイナスになってしまうのは不自然に思われますが、反対に全労働日を欠勤しても賃金がプラスになる月があるはずなので、帳尻は合っています。
欠勤控除によってマイナスになった金額については、従業員に対して支払いを請求できます。
ただし、賃金の「全額払いの原則」との関係で、マイナス分を翌月以降の賃金支給額から控除するには、労働組合または労働者の過半数代表者と労使協定を締結する必要があります(労働基準法第24条第1項)。
労使協定がない場合は、賃金からの控除が認められないので、従業員からマイナス分を直接支払ってもらうほかありません。
欠勤控除額が基本給よりも高い従業員について、どのように処理すれば分からず不安な場合は、弁護士にご相談ください。
4、欠勤控除に関する注意点
欠勤控除の取り扱いについて、会社は以下に挙げるポイントに注意しつつ対応しましょう。
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(1)欠勤控除の計算方法を就業規則に明記する
欠勤控除額の計算方法は、就業規則(または賃金規程など)に明記しておきましょう。
計算方法をあらかじめ明示しておけば、欠勤控除額の計算を適切に行っていることを後から証明できます。従業員側から疑義が呈されるケースも減り、労使トラブルの予防につながります。 -
(2)基本給以外の手当に関する欠勤控除の取り扱いを明確化する
欠勤控除の対象となるのは、基本給だけとは限りません。基本給以外の手当(通勤手当・役職手当など)についても、欠勤控除の対象とすることができます。
その際に、家族手当などの出勤にかかわらない手当についてのみ、控除の対象外とすることも考えられます。
欠勤控除の対象とする手当については、就業規則(または賃金規程など)に明記しておきましょう。
欠勤控除額の計算方法は基本給に準じるのが一般的ですが、手当によって異なる計算方法を採用する場合は、その方法を明確に定めましょう。 -
(3)みなし残業代に関する欠勤控除の取り扱い
みなし残業代制(固定残業代制)を採用している従業員については、みなし残業代からの欠勤控除についても検討しておく必要があります。
みなし残業代は、残業の有無および時間数にかかわらず支給すべきものですが、これは、所定労働時間を全うすることを前提としています。そのため、みなし残業代からも欠勤控除を行うことも可能です。
ただし、みなし残業代から欠勤控除を行う場合は、固定残業時間や超過残業代(=固定残業時間を超えた場合に追加で支払うべき残業代)の取り扱いについても調整が必要になります。また、就業規則や労働契約において、その旨が明記されていることも重要です。
労働基準法のルールを踏まえて、さまざまな要素を複雑に調整する必要がありますので、弁護士のアドバイスを求めることが得策です。
5、まとめ
有給休暇などを除き、欠勤した従業員の賃金からは欠勤控除を行うことができます。
欠勤控除額の計算方法にはさまざまなパターンがありますが、従業員とのトラブルを予防するため、就業規則などに明記しておきましょう。
また、採用する計算方法によっては、欠勤控除額が基本給よりも高くなってしまうケースがあります。正しく処理するためには、弁護士のアドバイスを受けるのが安心です。
ベリーベスト法律事務所は、人事・労務管理に関する企業のご相談を随時受け付けております。欠勤控除を含む給与計算の方法や、労使トラブルへの対応などについて不安がある企業は、ベリーベスト法律事務所 錦糸町オフィスにご相談ください。
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