退職勧奨を受け入れてしまったら? 違法性や解雇との違いも解説
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東京労働局が公表している個別労働紛争の解決制度等に関する令和2年度の施行状況によると、民事上の個別労働紛争相談件数は、2万8300件でした。そのうち、退職勧奨に関する相談は2943件あり、相談件数全体の9.5%を占める割合でした。
真面目に勤めていたにもかかわらず、会社から自主退職を促されてしまうことがあります。このような退職勧奨を受けた場合、本人に退職の意思がなければ受け入れる必要はありません。しかし、退職することを拒否しているにもかかわらず、執拗に退職を迫るケースも少なくありません。このような行為は、違法となる場合もあります。
今回は、退職勧奨を受けた場合の対処法や解雇との違いなどについて、べリーベスト法律事務所 錦糸町オフィスの弁護士が解説します。
1、退職勧奨とは
そもそも退職勧奨とはどのようなことを指すのでしょうか。まずは、退職勧奨の基本的な知識について説明します。
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(1)退職勧奨の定義
会社から「この仕事には向いてないから新しい勤務先を探したらどうか?」などと言われて、自主退職を促されるケースがあります。このように、会社が労働者に対して、自主的な退職を迫る行為を退職勧奨といいます。
本来的に退職勧奨は、あくまでも使用者が労働者の自由意思による退職を促すものです。そのため、労働者の退職を強制することはできません。退職勧奨を受けたとしても、労働者に退職する意思がなければ、退職をする義務はありません。 -
(2)退職勧奨と解雇の違い
解雇とは、使用者による一方的な意思表示によって労働者との雇用契約を終了させることをいいます。解雇には、普通解雇、懲戒解雇、整理解雇の3種類がありますが、解雇は、労働者に対して重大な不利益を及ぼす処分であることから、使用者が解雇をするためには、労働契約法が定める厳格な解雇規制に準じて行う必要があります(労働契約法15条、16条)。
したがって、退職勧奨とは以下の点が異なります。
- 解雇……労働者の意思にかかわらず会社が一方的に労働契約を終了する
- 退職勧奨……退職するかどうかは労働者の自由意思に委ねられている
また、退職勧奨は、あくまでも会社から労働者への説得行為ですので、解雇のような厳格な法規制は存在しません。そのため、法的な規制が事実上困難であり、会社は自由に退職勧奨ができるともいえます。
2、退職勧奨を受け入れる必要はない
会社から退職勧奨を受けた場合にはどのように対応すればよいのでしょうか。以下では、退職勧奨を受けたものの会社を辞める意思がない場合の対応について説明します。
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(1)退職勧奨を受け入れるかどうかは労働者の自由
会社から退職勧奨を受けたとしても、それを受け入れるかどうかは、労働者の自由な意思に委ねられています。
そのため、会社から退職勧奨を受けたとしても退職をするつもりがないという場合には、退職勧奨を断るだけで十分です。
労働者が退職勧奨に応じる意思がないことを明確にすれば、使用者から新たな条件が提示されるなどの対応が行われない限り、労働者は使用者からの退職勧奨に時間を割くことを強制される理由はなくなります。
しかし、退職勧奨を断りきれず、自主退職を受け入れてしまうケースもあります。自ら退職してしまうと後日退職を取り消すことが難しくなりますので、対応に困った場合にはすぐに弁護士に相談しましょう。 -
(2)執拗な退職勧奨は違法と判断されることも
退職勧奨が労働者の自由意思を侵害するような手段によって行われた場合には、労働者の人格権を侵害する不法行為となります。
具体的には、以下のパターンがあるでしょう。
- 面談を繰り返し「この会社は向いてない」「環境を変えた方があなたにとってよい」などと、遠回しに自主退職をすすめる
- 業務量を不当に増やし達成できないと恫喝する、逆に仕事を与えないなど、疲弊させたり会社にいづらくさせたりして自主退職に追い込む
こうしたパターンに加え、昨今では人材紹介会社と結託して適性検査を受けさせ「転職した方が才能をいかせる」などと巧妙に退職に誘導するケースも散見されます。
退職勧奨を労働者が拒否したのに、何度も繰り返し退職勧奨を行うことは退職強要として違法となる可能性があります。同様に、無理やり退職届を書かせるといった行為も認められません。
もし、執拗な退職勧奨がなされている場合には、弁護士に相談し、会社の代表や人事部宛てに退職勧奨拒否通知のような文書を提出するという手段もあります。
また、違法な退職勧奨を受けた場合には、会社に対して、慰謝料を請求できる可能性があります。会社の退職勧奨が違法行為であるかは、一般には判断が難しいため、労働問題の実績が豊富な弁護士に相談することをおすすめします。
3、退職勧奨を受け入れた場合どうなるか
退職勧奨を受け入れて会社を辞めた場合は、どうなるのでしょうか。以下では、退職理由(会社都合・自己都合)ごとの退職後の扱いの違いについて説明します。
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(1)退職理由の種類
退職理由には、会社都合退職と自己都合退職の2種類があります。
- 会社都合退職とは……解雇や退職勧奨に応じた退職など会社の都合によって、労働者との労働契約を終了させること
- 自己都合退職とは……労働者の申出により、労働契約を終了させること
自己都合退職は、結婚や転居などのライフイベント、介護や病気などの家庭の事情、転職などのキャリアアップなど労働者側の都合による退職です。
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(2)会社都合退職と自己都合退職の相違点
退職勧奨を受けて退職をする場合には、一般的には会社都合退職として扱われます。しかし、会社側は、助成金の対象外となったり、不当な退職勧奨として裁判になったりすることを回避するため、自己都合退職として扱うケースがあります。
退職理由を会社都合と自己都合のどちらにするかによって、以下のような違いがありますので、安易に自己都合退職にしてしまわないように注意が必要です。
① 失業保険の受給資格
会社都合退職の場合の受給資格は以下の通りです。
● 雇用保険の加入期間が離職日以前の1年間に通算して6か月以上
一方、自己都合退職の場合は、以下に該当しなければ受給資格がありません。
● 雇用保険の加入期間が離職日以前の2年間に通算して12か月以上
② 失業保険の支給日
会社都合退職における失業保険の基本手当が支給は、以下の通りです。
● 離職票が受理されて7日間経過した後
一方、自己都合退職の場合には、さらに2か月経過しないと失業保険の基本手当が支給されません。
③ 失業保険の支給期間
失業保険の支給期間は以下の通りです。
- 会社都合退職……90日から330日
- 自己都合退職……90日から150日
このように、失業保険の受給という観点からは、自己都合退職よりも会社都合退職の方が退職者に有利になります。
4、退職勧奨にお悩みの場合は弁護士へ相談を
会社から退職勧奨を受けており、どのように対応したらよいかお悩みの労働者の方は、労働トラブルの解決実績がある弁護士に相談をすることをおすすめします。
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(1)退職勧奨に応じるかどうかのアドバイスをもらえる
会社側が退職勧奨をする理由として、解雇には厳格な解雇規制が適用されるため、できる限り自主退職という形で労働契約を終了させたいという考えがあります。
そのため、会社側との交渉によっては、退職勧奨に応じる条件として、退職金の上乗せや転職までの期間の確保など、有利な退職条件を引き出すことができる可能性もあります。
ただし退職勧奨に応じるかどうかは、その後の解雇のリスク、解雇がなされたとして無効を主張することができるかどうかなど、総合的に判断して結論を下す必要がありますし、会社側との交渉を有利にすすめるためには個人の力では難しいケースも少なくありません。退職勧奨の解決実績がある弁護士に相談をすることによって、どのような対策をとることがベストなのか、具体的にアドバイスしてもらうことをおすすめします。 -
(2)違法な退職勧奨に対しては損害賠償請求などの対応が可能
会社側からの退職勧奨に対して明確な拒絶の意思を示しているにもかかわらず、執拗に退職勧奨を続けてくることがあります。
このようなケースは退職強要で違法となる可能性があるため、弁護士が労働者の代理人として交渉し、会社からの違法な退職勧奨を止められる可能性があります。また、労働者が被った精神的苦痛に対する慰謝料も併せて請求できる可能性もあるため、まずは弁護士に相談することをおすすめします。
5、まとめ
会社から退職勧奨があっても、それを受け入れるかどうかは労働者の自由です。
しかし悪質な会社では、解雇無効になるリスクを回避する手段として執拗な退職勧奨を行い、労働者を合意退職に追い込むケースもあります。
会社から退職勧奨を受けており、対応に困っているという場合には、早めに労働問題の解決実績がある弁護士に相談をするようにしましょう。
ベリーベスト法律事務所 錦糸町オフィスでは、労働問題の解決実績がある弁護士が、まずは丁寧にお話を伺います。退職勧奨をはじめとする労働問題でお悩みの方は、お気軽にご相談ください。
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