不当解雇の裁判で会社を訴えたい! 必要な期間と費用はどれぐらい?
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東京都が設置した労働相談情報センターに対して、2021年4月から2022年3月までに寄せられた労働相談件数は4万5504件で、前年度比6814件の減少となりました。相談内容のうち上位を占めているのは、「職場の嫌がらせ(8742項目)」、「退職(7855項目)」、「労働契約(6906項目)」、「解雇(4693項目)」、「健保・年金(3914項目)」です。
会社から不当解雇された場合、解雇の無効を主張して、会社に対して復職を求めることができます。ただし、会社がすんなり復職を認めるケースはほとんどありません。会社が不当解雇を争ってきた場合は、最終的に裁判で決着をつけることになります。
不当解雇の裁判を起こす際には、裁判所に労働者側の主張を認めてもらうため、十分な事前準備を整えることが重要です。また、裁判を起こす以外にも、労働審判という手続きもあります。今回は解雇の要件や、裁判で不当解雇を争う際の注意点などについて、ベリーベスト法律事務所 錦糸町オフィスの弁護士が解説します。
(参考:「令和3年東京都の労働相談の状況」(東京都産業労働局))
1、不当解雇とは? 解雇が無効となる要件
不当解雇とは、法令・労働契約・就業規則等による要件を満たさず、無効となる解雇のことです。
まずは、どのような場合に解雇が無効となるかについて解説します。
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(1)解雇の種類|懲戒解雇・整理解雇・普通解雇
解雇には、「懲戒解雇」「整理解雇」「普通解雇」の3種類があります。
① 懲戒解雇
就業規則等における懲戒規程違反を理由に、懲戒処分として行われる解雇です。
② 整理解雇
会社の経営不振等の経営上の理由により行われる解雇です。
③ 普通解雇
労働契約上の債務不履行があった場合に行われる解雇です。 -
(2)解雇要件を満たさない場合は無効
懲戒解雇・整理解雇・普通解雇には、それぞれ以下の要件が設けられています。
これらの解雇要件を満たさずに行われた解雇は、無効です。① 懲戒解雇の要件
就業規則上の懲戒事由に該当する必要があります。
また、懲戒処分として解雇を選択することが相当であることや、適正な手続きを経ていること等も必要です。
② 整理解雇の要件
以下の4要件を総合的に考慮して、解雇の適法性が判断されます。
基本的には、4要件すべてを満たしていなければなりません。
(a)人員削減の必要性:人員削減を行う経営上の必要性があること
(b)解雇回避努力義務の履行:整理解雇を回避するための努力を尽くしたこと
(c)被解雇者選定の合理性:整理解雇対象者の選定が客観的に合理的で公正な基準によって行われること
(d)解雇手続きの妥当性:労働者側に対して、整理解雇の必要性につき協議・説明を誠実に行うこと
③ 普通解雇の要件
労働契約・就業規則等に基づく解雇事由に該当する必要があります。
勤務成績の不良、能力不足などの理由によってなされることが多いです。 -
(3)解雇権濫用の法理に抵触する場合も無効
形式的に解雇要件を満たしていたとしても、「解雇権濫用の法理」に抵触する場合には、解雇が無効となります。
解雇権濫用の法理とは、解雇が客観的に合理的な理由を欠き、社会通念上相当と認められない場合は、その権利を濫用したものとして無効とするルールです(労働契約法第16条)。
たとえば、就業規則違反の程度が軽微であるのに、もっとも重い懲戒処分である懲戒解雇が行われた場合は、解雇権濫用として無効となる可能性が高いでしょう。
解雇権濫用の法理はきわめて厳格に運用されているため、会社による一方的な解雇が無効となるケースは非常に多くなっています。
2、不当解雇の裁判を起こす前に確認すべきこと
労働者の方が不当解雇を争うために裁判を起こす際には、ご自身にとって望ましい結果を獲得するため、事前に確認しておくべきことがあります。
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(1)自分の主張を裏付ける証拠を集める
不当解雇の裁判を成功させるには、解雇の違法性・不当性を裏付ける証拠を集めておくことが非常に重要です。
たとえば、会社の発行する解雇理由証明書や、解雇に関して会社との間でやり取りをしたメッセージ(メールなど)が証拠になり得ます。
相手方の主張する解雇事由によって集めるべき証拠は変わり得ます。必要に応じて弁護士のサポートを受けながら、ご自身にとって有利に働き得る証拠をできる限り豊富に集めておきましょう。 -
(2)会社の反論を予想して、対策を立てる
会社は、解雇が有効であることを主張して、さまざまな反論をしてくることが予想されます。
たとえば懲戒解雇のケースであれば、
「改善指導を再三行ったにもかかわらず、改善が見られなかった」
「就業規則違反の行動により、会社に甚大な被害が生じた」
ことなどを理由に解雇が有効であるとの反論が考えられるでしょう。
労働者側としては、会社側からの反論を網羅的に想定したうえで、それらについて対策を立てることが求められます。
相手方からの反論やその対策のためには弁護士のサポートを受けることも有効です。訴訟に向けて万全の準備を整えましょう。 -
(3)目指すべき解決内容を決めておく
不当解雇に関する裁判は、判決による解決のほか、会社と労働者が和解をすることによる解決などもあり得ます。
判決によって解雇が無効と判断された場合には、復職が認められることになります。これに対して、和解をする場合には、労働者が退職をすることを条件に解決金が支払われることが多いです。
不当解雇された会社への復職を希望する場合や、不当解雇された会社への復職にこだわらずに金銭的な解決を希望する場合等、目指すべき解決は労働者にとってさまざまです。
不当解雇の裁判を起こす際には、どのような解決を目指すべきか、どのような解決であれば許容範囲かについて、事前によく検討しておきましょう。
3、不当解雇の裁判にかかる費用・期間
不当解雇の裁判を提起する場合には、ある程度の費用と時間がかかることは避けられません。不当解雇の裁判にかかる費用・期間につき、目安を紹介します。
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(1)不当解雇の裁判にかかる費用の種類・目安
不当解雇の裁判に関して発生する費用の種類・目安は、以下のとおりです。
① 訴訟費用
裁判所に納付する費用です。収入印紙で納付する手数料と、郵券代などが含まれます。不当解雇の撤回のみを主張する場合、収入印紙の金額は1万3000円です。未払い残業代の請求などを追加する場合には、請求額に応じて必要な金額が増えます。
② 弁護士費用
訴訟代理人となる弁護士に支払う報酬です。解決金額や給与額などに応じて異なりますが、総額で50万円~100万円程度となるケースが多いです。 -
(2)不当解雇の裁判にかかる期間の目安
不当解雇の裁判は、6か月~1年以上の期間を要することが一般的です。
争点の複雑さや、訴訟上の和解が成立するかどうかなどにもよりますが、基本的には長期戦を覚悟すべきでしょう。最後まで不当解雇の裁判を戦い抜くためには、弁護士のサポートが非常に重要となります。
4、労働審判手続
不当解雇の裁判を戦うことは、労働者にとって費用・時間の両面で負担が重くなりがちです。そのため労働審判という手続きを利用する場合もあります。
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(1)労働審判では迅速・柔軟な解決が期待できる
労働審判とは、労働者と事業主の間の労働トラブルを、実情に応じて迅速・適正に解決するための法的手続きです。
裁判官1名と労働審判員2名で構成された労働審判委員会が、調停または労働審判を通じて労働トラブルの解決を図ります。
労働審判のメリットは、期日が原則として3回以内で終了するため、訴訟(裁判)よりも遥かに迅速な解決が期待できる点です。また、訴訟の判決よりも柔軟な解決に至る可能性が高く、費用も安く済むメリットもあります。
(参考:「労働審判手続」(裁判所)) -
(2)労働審判では解決できない場合
ただし、労働審判に対して異議申立てが行われた場合は、結局訴訟手続きへと移行します。
したがって、労使間の主張があまりにもかけ離れているなど、労働審判による解決が困難と思われる場合には、訴訟提起が有効な手続き選択となるでしょう。
労働審判と訴訟、どちらの手続きをとることが適切であるかは、弁護士にご相談のうえで判断することをお勧めいたします。
5、まとめ
不当解雇訴訟を提起する際には、ご自身の主張を裏付ける証拠を集めるとともに、会社側の反論を予想して対策を立てることが重要です。
また、ご自身がどのような解決を望むかについてよく検討し、事前に目標や許容範囲を見定めておきましょう。
不当解雇訴訟において有利な解決を得るためには、法令や裁判例に基づく主張を適切に展開することが必要です。
ベリーベスト法律事務所 錦糸町オフィスにご相談いただければ、労働問題に関する経験豊富な弁護士が、お客さまの権利を保護・実現できるようにサポートいたします。会社に不当解雇されてしまった従業員の方は、お早めにベリーベスト法律事務所にご相談ください。
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