裁量労働制でみなし残業の場合、残業代はもらえる? 算出方法も解説
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「裁量労働制(みなし労働時間制)だから、残業代は発生しない」と考える方がいらっしゃるかもしれません。しかし、もし会社からこのような説明を受けているとしても、未払いの残業代が発生していないかチェックが必要です。
裁量労働制が適用される場合には、残業代の考え方や計算方法が複雑であるので、基礎知識を押さえておくことが大切です。
この記事では、裁量労働制における残業代の考え方や計算方法などを、ベリーベスト法律事務所 錦糸町オフィスの弁護士が解説します。
1、裁量労働制(みなし労働時間制)とは?
裁量労働制とは、労働者が大きな裁量をもって業務を遂行しているため実労働時間による管理になじみにくい労働形態を総称して言います。「みなし労働時間制」と呼ばれることもあります。
まずは、労働基準法上の裁量労働制の種類や、それ以外によく耳にするフレックスタイム制との違いについて、基本的なポイントを確認しておきましょう。
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(1)2種類の裁量労働制
労働基準法上、裁量労働制には以下の2種類が存在します。
① 専門業務型裁量労働制(同法第38条の3)
業務の性質上、遂行方法を労働者の裁量に委ねることが必要とされる業務に従事する労働者について適用することができます。
以下の19の業務に限定されているほか、適用には労使協定(※)の締結が必要です。- 新商品もしくは新技術の研究開発または人文科学もしくは自然科学に関する研究の業務
- 情報処理システムの分析または設計の業務
- 新聞もしくは出版の事業における記事やラジオやテレビ制作のための取材もしくは編集の業務
- 衣服、室内装飾、工業製品、広告等の新たなデザインの考案の業務
- 放送番組や映画等の制作事業におけるプロデューサーまたはディレクターの業務
- コピーライター業務
- システムコンサルタント業務
- インテリアコーディネーター業務
- ゲームソフトの創作業務
- 証券アナリスト業務
- 金融商品の開発業務
- 大学における教授研究の業務
- 公認会計士の業務
- 弁護士の業務
- 建築士の業務
- 不動産鑑定士の業務
- 弁理士の業務
- 税理士の業務
- 中小企業診断士の業務
② 企画業務型裁量労働制(同法38条の4)
事業の運営に関する事項についての企画、立案、調査および分析の業務であって、その性質上、遂行方法を労働者の裁量に委ねることが必要とされる業務に従事する労働者に適用することができます。①と異なり、対象となる業務は限定されていませんが、労使委員会(※)による決議とその決議の行政官庁への届け出が必要です。
(※労使委員会とは、労使半数ずつによって構成され、労働条件に関する事項を調査審議することを目的とする委員会のことです。) -
(2)裁量労働制とフレックスタイム制の違い
フレックスタイム制とは、「労働者に裁量がある」というイメージが共通しているからか、裁量労働制と並べて語られることがありますが、両者は全く別の制度です。
裁量労働制の場合、労働の量(労働時間)よりも労働の質(内容・成果)に着目しているという性質から、業務の遂行方法や労働時間の配分について、労働者の幅広い裁量が認められています。それゆえ「みなし労働時間 」を定めるとの考え方が適用されるのが大きな特徴です。
これに対してフレックスタイム制では、労働者に裁量が与えられているのは、「始業および終業の時刻」についてのみです(労働基準法第32条の3)。したがって、業務の遂行方法も会社の指示に従う必要がありますし、一定期間における総労働時間の定めもあります。
このように、裁量労働制とフレックスタイム制は、似ているようで大きく異なることを知っておきましょう。
2、裁量労働制における「みなし労働時間」の考え方
裁量労働制を理解するうえで、重要なポイントとなるのが、みなし労働時間の考え方です。
みなし労働時間とは何なのか、裁量労働制(みなし労働時間制)でも残業代が発生するケースはあるのかについて解説します。
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(1)みなし労働時間とは?
みなし労働時間とは、実際に働いた時間にかかわらず、あらかじめ定められた時間分労働したものとみなされる時間のことをいいます。
たとえば、みなし労働時間が1日8時間だとします。この場合、6時間働いた日も、10時間働いた日も、どちらも1日の労働時間は「8時間」とみなされます。
なお、裁量労働制の種類に応じて、みなし労働時間は以下の方法で決定されます。
● 専門業務型裁量労働制の場合
労使協定で定められた時間数がみなし労働時間となります
● 企画業務型裁量労働制の場合
労使委員会決議で定められた時間数がみなし労働時間となります
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(2)「みなし労働時間」と「みなし残業」の違い
同じ「みなし」がつく言葉のため、みなし労働時間とみなし残業を混同してしまうことがありますが、ふたつは異なるものです。
前述の通り、みなし労働時間は、労働基準法に定められた裁量労働制に関するみなし時間です。
一方、みなし残業とは、基本給などの給与に加えて、一定時間分の残業代(いわゆる「固定残業代」)を支払うという制度に関係しています。
たとえば、「月収20万円に加えて20時間分の残業代2万5000円を支払う」という場合、毎月20時間の残業をしたものと想定して会社が固定残業代を支払います。この想定された20時間の残業をみなし残業をいいます。
このみなし残業の範囲(想定する残業時間)は会社が決めることができ、雇用契約を結ぶ際に、労働者の合意を得るのが一般的です。 -
(3)みなし労働時間制(裁量労働制)でも割増賃金(残業代)は発生する
「みなし労働時間制(裁量労働制)は、残業代が発生しないのではないか?」と考える方がいます。しかし、みなし労働時間が“法定労働時間”を超える場合、会社は超過分について割増賃金を労働者に支払う必要があります。
たとえば、以下のケースでは割増賃金(残業代)が発生します。
(例)みなし労働時間が1日9時間だった場合
法定労働時間(1日8時間)を1時間分超過しているので、毎日1時間分の時間外労働につき、25%以上の割増賃金が発生する(労働基準法37条第1項など)。 -
(4)みなし労働時間制(裁量労働制)でも深夜・休日労働には割増賃金が発生する
さらに、裁量労働制が適用される労働者については、深夜労働・法定休日の労働に関する割増賃金規定も適用されます。深夜労働とは、原則として午後10時から午前5時までの間に労働をした場合のことをいいます。法定休日とは、労働基準法35条で定められている、使用者が労働者に必ず与えなければいけない休日のことです。
深夜や法定休日に労働した場合には、その時間分について割増賃金が発生ます。
(例1)みなし労働時間は1日8時間だが、22時から0時まで働いた場合
深夜労働2時間分について、25%以上の割増賃金が発生する(労働基準法37条第4項)
(例2)みなし労働時間は1日8時間だが、法定休日に3時間労働した場合
休日労働3時間分について、35%以上の割増賃金が発生する(労働基準法37条第1項など)
3、裁量労働制の残業代の計算例
上記のルールを踏まえて、裁量労働制で働く労働者の残業代を実際に計算してみましょう。
- みなし労働時間は1日9時間
- 週5日勤務
- 1週間当たりの基本給は18万円、固定残業代5000円
① 時間外労働に対する残業代について
この労働者の1週間当たりの基本給は18万円であり、1週間のみなし労働時間に当たる45時間(=9時間×5日)に対して支払われるものとなっています。
したがって、1時間当たりの基礎賃金は4000円(18万円÷45時間)です。
前記(3)にあるとおり、みなし労働時間1日9時間とは、1日の法定労働時間8時間より1時間多くなっていて、毎日1時間分の時間外労働が生じています。
仮に割増率が25%とすると、その1時間分の時間外労働については、もともとの基礎賃金(100%)に割増率(25%)を加えた125%の賃金が発生します。
そして、給与規程等からして「裁量労働者に支払われる基準内賃金は時間外労働を含めたみなし労働時間全体の労働に対するものである」と解釈されるのであれば、その時間外労働(100%+25%)のうち100%の部分はすでに支払われていることになり、残りの25%分の支払いが必要ということになります。
そうすると、設例のケースでは、1週間の時間外労働5時間(=1時間(みなし労働時間9時間-法定労働時間8時間)×5日)に対して、5000円(5日×4000円×25%)の残業代が発生します。
② 深夜労働に対する残業代について
深夜労働についても、前記(4)のとおり、基本給をもとに割増賃金を計算します。
設例の場合、みなし労働時間1日9時間のうち2時間については深夜労働になるため、
仮に割増率が25%とし、1時間当たりの基礎賃金が4000円であることを踏まえると、深夜労働1時間当たり1000円(4000円×25%)の割増をする必要があります。
みなし労働時間内の深夜労働も、給与規程を前記のとおりに解釈するなら、基礎賃金分(100%)の支払いは基本給に含まれています。
したがって、深夜労働2時間分について、割増分である計2000円(1000円×2時間)の残業代が発生します。
③ 休日労働に対する残業代について
法定休日における残業についても、前記(4)のとおり、基本給をもとに割増賃金を計算します。
設例の場合、仮に割増率35%とし、1時間当たりの基礎賃金が4000円であることを踏まえると、休日労働3時間分については、計1万6200円(4000円×135%×3時間)の残業代が発生します。
上記を合計すると、設例のケースにおける残業代の総額は「2万3200円」となりますが、固定残業代として5000円の支給がされているため、追加で支払われるべき金額としては「1万8200円」となります。
4、裁量労働制の残業代トラブルは弁護士へ
裁量労働制を採用している場合に、残業代を正しく支払わない会社は珍しくありません。その一因としては、裁量労働制における残業代計算の考え方が、複雑でわかりにくいという点が考えられます。
もし裁量労働制のもとで働いていて、残業代の支払いについて疑問を持った場合は、お早めに弁護士までご相談ください。弁護士が正確な残業代を計算したうえで、会社に対する残業代請求の手続きをサポートいたします。
5、まとめ
裁量労働制のもとで働く労働者には、みなし労働時間制が適用されるため、残業代計算の際には一部特殊な処理が必要になります。ベリーベスト法律事務所 錦糸町オフィスでは、裁量労働制をもとに働く方からの残業代請求のご相談を随時承っております。
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