残業時間80時間以上! 残業代の計算方法と長時間労働の問題点

2022年08月30日
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残業時間80時間以上! 残業代の計算方法と長時間労働の問題点

東京都が公表している労働時間についての統計資料によると、令和3年の1人あたりの月平均総実労働時間は137.6時間でした。また、同年の所定外労働時間は、11.2時間でした。

上記の統計資料からもわかるように、毎月一定時間、残業をしている労働者もいると思いますが、なかには月80時間以上も残業をしているという方もいるかもしれません。

月80時間も残業をしている状態だと、十分な休息をとることができず、健康被害を引き起こすリスクが高くなります。また、80時間以上の残業では、高額な残業代となることから適切な残業代が支払われていない可能性もあります。

今回は、80時間以上の残業の問題点と残業代の計算方法について、ベリーベスト法律事務所 錦糸町オフィスの弁護士が解説します。

1、月80時間以上の残業は問題?

月80時間以上の残業をすることは、法的に問題はないのでしょうか。以下では、残業時間についての法規制について説明します。

  1. (1)残業時間の上限

    労働基準法では、1日8時間、1週40時間を原則的な最長労働時間として定めており、これを法定労働時間といいます。労働者に対し、法定労働時間を超えて労働させるためには、36協定の締結と労働基準監督署への届出が必要とされています。

    36協定の締結・届出により時間外労働を命じることができたとしても、無制限に残業させることができるわけではありません

    時間外労働には、月45時間、年360時間という上限がありますので、上限を超えて残業をさせることは原則として違法となります。

    もっとも、特別条項付きの36協定を締結している場合には、例外的に残業時間の上限を超えて働かせることが可能になります。

    ただし、この場合であっても以下のような上限が設けられていますので、これを超えて働かせた場合には、違法となります。

    • 時間外労働が年720時間以内
    • 時間外労働と休日労働の合計が月100時間未満
    • 時間外労働と休日労働の合計について、どの期間を取っても2か月平均、3か月平均、4か月平均、5か月平均、6か月平均がすべて1月あたり80時間以内
    • 時間外労働が45時間を超えることができる月は、年6回が限度


    また、特別条項によって残業時間を超えて働かせることができるのは、予見できないような事情によって一時的に業務量が大幅に増加した場合に限られます。単純に業務量が多いというだけでは特別条項を利用することはできません。

    特別条項付きの36協定を締結する際に、特別条項を利用する場合の具体的な理由を明確に記載しておく必要があります。

  2. (2)月80時間以上の残業の問題点

    月80時間以上の残業が行われている場合には、以下のような問題点があると考えられます。

    ① 違法な長時間労働
    「働き方改革を推進するための関係法律の整備に関する法律」により残業時間の上限規制が実施されることになったため、残業時間の原則的な上限は、月45時間、年360時間となりますので、月80時間以上の残業が行われている場合には、残業時間の上限規制に違反した状態である可能性があります。

    例外的に、特別条項付きの36協定を締結している場合でも、毎月80時間を超えている状態であった場合には、2か月平均から6か月平均の残業時間が80時間を超えてしまいますので、やはり残業時間の上限規制に違反した状態であるといえます。

    ある月に限って80時間を超えてしまったという場合であれば、80時間を超える残業も認められる余地がありますが、恒常的に80時間以上の残業が行われている場合には、違法な残業である可能性が高いといえます

    ② 過労死のリスク
    長時間にわたる過重な労働は、疲労の蓄積をもたらしますので、脳・心臓疾患や精神障害を引き起こし、過労死のリスクが高まる要因となります。

    2か月平均から6か月平均の残業時間が80時間超える状態になると、健康障害が生じるリスクが高くなりますので、長期間にわたって80時間を超える残業が続いているという方は、ご自身の体調面への配慮も必要になってくるでしょう。

2、しっておくべき残業代の考え方と計算方法

月80時間以上の残業をしている場合には、適切な残業代が支払われていない可能性があります。以下では、適切な残業代の金額を知るための基本的な残業代の計算方法について説明します。

  1. (1)残業代の基本

    残業代は、以下のような計算式によって算出します。

    1時間あたりの賃金×割増率×残業時間


    ① 1時間あたりの賃金
    月給制の場合、1時間あたりの賃金は、「月給÷月における所定労働時間」という計算で算出します。
    月給は、基本給に各種手当を含めた金額になりますが、以下のような従業員の個々の事由によって支給される手当は除外されます。

    • 家族手当
    • 通勤手当
    • 別居手当
    • 子女教育手当
    • 住宅手当
    • 臨時に支払われた賃金(結婚祝い金、退職金等)
    • 1か月を超える期間ごとに支払われる賃金


    また、月における所定労働時間は、「(365日-1年間の所定休日日数)×1日の所定労働時間÷12」という計算で算出します。

    ② 割増率
    時間外労働、深夜労働、休日労働をした場合には、一定の割増率によって計算をした割増賃金が知らわれることになります。具体的な割増率は、以下のとおりです。

    割増率
    時間外労働 25%以上
    深夜労働(22時~5時までの労働) 25%以上
    休日労働 35%以上
    1か月60時間を超える時間外労働 50%以上

    ③ 残業時間
    法定労働時間を超えて働いた場合には、上記の割増率によって計算をした割増賃金を支払う必要があります。しかし、所定労働時間を超えているものの、法定労働時間内の残業であった場合には、残業代を支払う必要はありますが割増賃金である必要はありません。

    このように、残業時間を計算する場合には、法定労働時間を超える「法外労働」であるか、所定労働時間を超え法定労働時間内である「法内労働」であるかを意識して計算をする必要があります

  2. (2)月80時間残業(時間外労働)をした場合の残業代

    月給30万円、1年間の所定休日日数が119日、1日の所定労働時間が8時間とされている労働者が、ある月に80時間の残業をしたとします。その場合の残業代は、以下のようになります。

    1時間あたりの賃金=30万円÷{(365日-119日)×8時間÷12}≒1829円
    (1829円×60時間×125%)+(1829円×20時間×150%)=19万2045円
  3. (3)名ばかり管理職に注意!

    会社から「管理職だから残業代は支払われない」などと言われている方もいるかもしれません。労働基準法では、管理監督者に該当する場合は残業代の支払いが不要とされていますが(深夜割増賃金は管理監督者であっても原則支払い義務有り)、管理監督者に該当するかどうかについては、会社の経営者と一体的な立場にあるかどうかなど実質面で判断をすることになります。

    単に、「課長」、「マネジャー」などの肩書が付されているというだけでは、労働基準法上の管理監督者にあたりません。こういった肩書が付されていたとしても、経営上の決定権限や影響力があるか否か、管理監督者としての地位に見合った賃金等の待遇を受けているか、部下と同様の作業・業務に従事している時間がどの程度か等の事情によって管理監督者と言えるか否かが判断されます。

    管理職として扱われている方の中には、実際には一般の労働者と同じような条件で働いているにもかかわらず、残業代が支払われないということもあります。このような名ばかり管理職の場合には、会社に対して、残業代を請求することができる可能性があります

3、みなし残業代(固定残業代)で支払いを受けている場合は要注意

みなし残業代の支払いを受けている場合には、以下の点に注意が必要です。

  1. (1)みなし残業代とは

    みなし残業代とは、一定の残業時間分の残業代をあらかじめ給料として支払っておく制度のことをいいます。

    みなし残業代として、20時間分の残業代が支払われている場合には、その月の残業が20時間に満たなかったとしても、20時間分の残業代をもらうことができますので、労働者にとってメリットのある制度です。

    また、会社としても、面倒な残業代計算の事務作業を軽減することができるというメリットもあることから、みなし残業代を導入している会社も多いでしょう。

    なお、みなし残業代制度が採用されているからといっても、みなし残業時間を超えて働いた場合には、その部分については、別途残業代を支払う必要があります。

  2. (2)80時間分のみなし残業代は無効になる可能性がある

    残業時間の上限規制は、原則として月45時間、年360時間であり、例外的にそれを超えて残業をさせることができる場合でも、時間外労働が45時間を超えることができるのは、年6か月が限度などの制限があります。

    月80時間分のみなし残業代が支払われている場合、月80時間以上の恒常的な残業を予定しているケースも多く、上記の残業時間規制に違反する可能性の高いものであり、過労死などの健康被害が生じるリスクの高いものといえます

    そのため、違法な長時間残業を前提とするみなし残業代については、無効とされた裁判例も存在します。

    みなし残業代が無効になった場合には、すでに支払われている80時間分のみなし残業代とは別途、実際の残業時間に応じた残業代を請求することができる可能性がありますので、早めに弁護士に相談をするようにしましょう。

4、未払いの残業代を会社に請求できるのか

未払いの残業代がある場合には、会社に対して請求が可能です。

  1. (1)残業代請求は弁護士に任せるのがおすすめ

    会社に対して残業代請求をするためには、その前提として、正確な残業代を計算しなければなりません。

    残業代の計算方法は、すでに説明しましたが、あくまでも基本的な計算方法ですので、みなし残業代など複雑な賃金体系が採用されている場合には、残業代の計算方法も複雑になります。

    また、残業代請求をする場合には、まずは会社と話し合いをしていくことになりますが、労働者個人での請求では、会社側はまともに取り合ってくれないこともあります。話し合いでは解決できない場合には、労働審判や訴訟をする必要がありますが、このような手続きを労働者個人だけで進めていくのは困難だといえるでしょう。

    弁護士に依頼をすることによって、面倒な残業代計算から会社への請求まですべての手続きを一任することができますので、労働者の方の負担は大幅に軽減されます。さらに、弁護士が介入することによって、残業代に関する問題がスムーズに解決する可能性がありますので、個人での交渉は不安だという方は、弁護士にお任せください。

  2. (2)残業代請求は時効に注意

    残業代を請求することができる場合であっても、一定期間が経過してしまうと、時効によって残業代請求権が消滅してしまうこともあります。

    残業代請求権は、2020年4月1日以降に支払われた給料の場合、給料日の翌日から3年で時効(それ以前に支払われた給料の場合、給料日の翌日から2年)になってしまいますので、長期間残業代が未払いになっているという方は、早めに対応する必要があります。

    時効が迫っているという場合には、時効の完成猶予や更新によって時効期間をストップまたはリセットすることができる場合もありますので、早めに弁護士に相談をするようにしましょう。

5、まとめ

月80時間以上の残業をしている場合には、過労死のリスクがあるとともに、適切な残業代が支払われていない可能性があります。月80時間以上の残業となると残業代も非常に高額になりますので、時効によって残業代を請求する権利を失ってしまう前に、早めに弁護士に相談をすることが大切です。

会社に対して残業代請求をお考えの方は、ベリーベスト法律事務所 錦糸町オフィスまでお気軽にご相談ください。

  • この記事は公開日時点の法律をもとに執筆しています