早上がりしたら残業時間と相殺された! 労働者が知っておくべき対処法

2023年04月13日
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早上がりしたら残業時間と相殺された! 労働者が知っておくべき対処法

2021年に東京都内の労働基準監督署が定期監督等を行った事業場は1万130事業場で、そのうち全体の71.5%に当たる7245事業場において労働基準関係法令違反が認められました。

一部の会社では、残業時間と早上がりした分の労働時間を相殺して、残業代の支払額を減らしているケースが見られます。このような取り扱いは、具体的な事情によっては労働基準法違反に当たります。

会社に対して未払残業代を請求できる可能性がありますので、残業時間と早上がり時間が相殺されている場合は、まずは弁護士に相談することをおすすめします。今回は、残業時間と早上がり時間を相殺することの是非について、労働基準法の観点からベリーベスト法律事務所 錦糸町オフィスの弁護士が解説します。

出典:「東京都内の労働基準監督署における令和3年の定期監督等の実施結果」(東京労働局)

1、「残業時間」とは?

労働者が残業をした場合、会社は労働者に対して残業代を支払わなければなりません。残業代には、労働基準法に基づき、残業の種類に応じた割増率が適用されます。

  1. (1)残業代が発生する残業時間とその種類

    いわゆる残業時間とは、「労働時間」のうち、労働契約や就業規則に定められた就業時間を超えて労働した時間をいいます。

    「労働時間」とは、労働者が使用者の指揮命令下に置かれている時間のことです(最高裁平成12年3月9日判決)。

    実際に業務を行っていなくても、業務のために必要な準備・片付けの時間や、会社の業務指示を待っている時間(=待機時間)なども労働時間に該当します。

    労働時間中、以下の時間は、残業代を支払うべき「残業時間」に当たります。

    ① 法定内残業
    法定労働時間※の範囲内ではあるものの、所定労働時間※を超えた部分の労働時間です。
    ※法定労働時間:労働基準法で定められた労働の上限時間(原則として1日8時間、1週間40時間。労働基準法第32条)
    ※所定労働時間:労働契約または就業規則によって定められた労働時間

    ② 法定時間外労働(法定外残業)
    法定労働時間を超える部分の労働時間です。

    ③ 休日労働
    法定休日※における労働時間です。なお、法定休日以外の休日における労働は、法定内残業または法定時間外労働に当たります。
    ※法定休日:労働基準法によって付与が義務付けられた休日(原則として1週間のうち1日のみ。労働基準法第35条)

    ④ 深夜労働
    午後10時から午前5時までの労働時間です(労働基準法37条4項)。
  2. (2)残業代の割増率

    会社が労働者に支払うべき残業代には、労働基準法に基づき、残業の種類に応じて以下の割増率が適用されます。

    法定内残業 通常の賃金
    法定時間外労働 通常の賃金×125%(労働基準法37条1項)
    ※月60時間を超える時間外労働については通常の賃金×150%(中小企業については2023年4月以降に適用)
    休日労働 通常の賃金×135%(労働基準法37条1項)
    深夜労働 通常の賃金×125%(労働基準法37条4項)
    時間外労働かつ深夜労働 通常の賃金×150%
    ※月60時間を超える時間外労働については通常の賃金×175%(中小企業については2023年4月以降に適用)
    休日労働かつ深夜労働 通常の賃金×160%

2、早上がりした時間を残業時間と相殺してもよいのか?

早上がり時間は無給の場合と有給の場合があり、無給であれば残業時間との相殺が認められることもあります。

ただし、早上がり時間と残業時間を完全に相殺することは違法となる可能性が高いです。もし会社の取り扱いに疑問がある場合には、未払残業代の有無について弁護士にご確認ください。

  1. (1)早上がり時間が無給の場合|給与から控除されるが、相殺できるとは限らない

    従業員の都合によって仕事を早上がりした場合、早上がり時間は原則として無給となります。

    無給の早上がり時間については、元々支給されるはずだった基本給が控除されるため、その限りで残業代との相殺が認められます。

    ただし、残業代に割増率が適用される場合は、早上がり時間と残業時間を完全に相殺することはできません。割増分に対応する差額については、残業代として支給しなければならないからです。

    (例)
    1時間当たりの基礎賃金が3000円の労働者が、時間外労働を1時間した翌日に、1時間の早上がり(無給)をした場合

    時間外労働(割増率25%)の残業代は3750円(=3000円×125%×1時間)
    早上がりによって控除される賃金は3000円(=3000円×1時間)

    →会社は労働者に対して、差額の750円を支払う必要がある
  2. (2)早上がり時間が有給の場合|給与から控除されない、相殺は違法

    早上がり時間が有給の場合は、基本給からの控除は認められないため、残業時間と早上がり時間を相殺することも当然に違法となります。

    有給休暇の取得として早上がりする場合のほか、会社の指示による早上がりも有給となります。会社都合によって労働を提供できなくなった場合、労働者は会社に対する賃金請求権を失わないからです(民法第536条第2項)。

    なお、会社都合で労働者を早上がりさせたにもかかわらず、あとから早上がり時間を一方的に代休や有給休暇として取り扱うことも労働者の意思と合致していなければ違法となります。

3、未払残業代の計算方法

未払残業代は、以下の手順で計算します。もし残業時間と早上がり時間を不当に相殺されている場合には、弁護士に未払残業代の計算をご依頼ください。

  • ① 1時間当たりの基礎賃金を計算する
  • ② 残業時間数を集計する
  • ③ 残業代を計算する


  1. (1)1時間当たりの基礎賃金を計算する

    まずは以下の要領により、残業代計算の基準となる1時間当たりの基礎賃金を計算します。

    1時間当たりの基礎賃金
    (月給制の場合)1か月の総賃金÷月平均所定労働時間
    (日給制の場合)1日の総賃金÷1日の所定労働時間
    (歩合制の場合)歩合給÷総労働時間数
    ただし、上記計算から、以下の手当は除外されます。

    <除外される手当>
    • 家族手当
    • 通勤手当
    • 別居手当
    • 子女教育手当
    • 住宅手当
    • 臨時に支払われた賃金
    • 一箇月を超える期間ごとに支払われる賃金

    <月平均所定労働時間の求め方>
    月平均所定労働時間=年間所定労働日数×所定労働時間数÷12か月


    (例:月給制の場合)
    1か月間に支給された総賃金(上記手当を除く)が42万円、月平均所定労働時間が140時間の場合
    →1時間当たりの基礎賃金は3000円
  2. (2)残業時間数を集計する

    次に、法定内残業・法定時間外労働・休日労働・深夜労働の各時間数を集計します。

    以下に挙げるような資料に基づき、漏れなく残業時間数を集計しましょう。

    • 勤怠管理システム
    • タイムカードの記録
    • タコグラフの記録
    • 出勤簿
    • オフィスの入退館記録
    • 交通系ICカードの入退場記録
    • タクシーの領収証
    • 業務用メールの送受信履歴
    • 業務日誌
    など
  3. (3)残業代を計算する

    1時間当たりの基礎賃金と残業時間数が把握できたら、以下の計算式によって残業代を計算します。

    残業代=1時間当たりの基礎賃金×残業時間数×割増率


    (例)
    • 1時間当たりの基礎賃金が3000円
    • 時間外労働が30時間(うち深夜労働が5時間)
    • 休日労働が10時間(うち深夜労働が2時間)

    残業代
    =3000円×(25時間×125%+5時間×150%+8時間×135%+2時間×160%)
    =15万8250円


    上記の例において、(深夜労働ではない)時間外労働15時間分につき、早上がり時間の15時間分と相殺されていたとします。他の部分の残業代がきちんと支払われると仮定すると、残業代は以下の金額が支払われたことになります。

    残業代
    =3000円×(10時間×125%+5時間×150%+8時間×135%+2時間×160%)
    =10万2000円


    相殺前の金額と比べると、5万6250円分の残業代が相殺されています。

    しかし、早上がり15時間に対応して控除できる賃金は、通常の賃金を基準に計算した4万5000円(=3000円×15時間)に過ぎません。

    つまり、1万1250円の未払残業代が発生している状況です。これが1年、2年と積み重なれば、大きな金額になることもあり得ます。

4、未払残業代を会社に請求する手続き

未払残業代を会社に請求する主な手続きは、以下の3つです。交渉(会社との協議)は個人で行うこともできますが、弁護士に依頼すればよりスムーズに進めることができるでしょう。

① 交渉(会社との協議)
会社と直接話し合って、未払残業代の精算に関する合意を目指します。協議がまとまれば、早期に残業代の支払を受けられます。

② 労働審判
裁判官1名と有識者から選任される労働審判員2名で構成される労働審判委員会が、調停または労働審判によって紛争解決を行います。審理が原則3回以内で終結するため、早期解決が期待できます。
参考:「労働審判手続」(裁判所)

③ 訴訟
裁判所の法廷において残業代請求権の存在・金額を立証し、残業代の支払を命ずる判決を求めます。手続が長期化しやすい反面、終局的に紛争を解決できます。

5、未払残業代請求は弁護士にご相談を

会社に対して未払残業代を請求する際には、弁護士への相談をおすすめします。

弁護士は、労働契約および労働基準法に基づき、未払残業代の金額を正しく計算します。交渉・労働審判・訴訟による実際の請求手続についても、弁護士が全面的に代行することで、労働者ご本人の労力は大幅に軽減されます。

労働者には、残業時間に応じた残業代を受け取る権利があります。労働者としての権利を守るために尽力いたしますので、未払残業代請求については弁護士にご相談ください。

6、まとめ

残業時間と早上がり時間を相殺して残業代を減額することは、労働基準法違反に当たる場合が多いです。もし残業時間と早上がり時間が相殺されている場合には、未払残業代が発生している可能性があるため、弁護士への相談をおすすめします。

ベリーベスト法律事務所は、残業代請求に関する労働者の相談を随時受け付けています。変形労働時間制・フレックスタイム制・裁量労働制など、特殊な労働時間制についても対応可能です。

会社に対する残業代請求をご検討中の方は、ベリーベスト法律事務所 錦糸町オフィスにご相談ください。

  • この記事は公開日時点の法律をもとに執筆しています