中学生の万引きの処分は? 逮捕後の流れと家族が取るべき対応
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万引きといえば「お小遣いが少ない子どもによる犯罪」というイメージがある方もいるかもしれません。
しかし、令和元年に警視庁が公表した「万引きに関する調査研究報告書」によると、平成30年に発生した万引き事件のうち少年が占める割合は18.2%で、成人・高齢者が占める割合のほうが大きいという結果でした。とはいえ、同年中に万引きを犯して検挙・補導された人員は中学生360人、高校生452人となっており、さらに悪質な犯罪へと発展する事態が懸念されている状況に変わりはありません。
本コラムでは、とくに中学生が万引きを犯してしまった場合の処分について解説します。
1、万引きは刑法の「窃盗罪」にあたる
意外に感じる方が多いかもしれませんが、実は、刑法をはじめとしてどの法律を隅々まで調べても「万引き」という名前の犯罪は明記されていません。
しかし、スーパーやコンビニ、書店などには「万引きは犯罪です」といった啓発ポスターが掲示されています。
一体、万引きはどのような犯罪にあたるのでしょうか?
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(1)万引きは窃盗罪の手口の一つ
万引きは、刑法第235条に定められている「窃盗罪」に該当する行為です。
窃盗罪とは、平たく言うと「他人の財物を盗む」という行為を罰する犯罪で、犯行の状況や目的物に応じて数多くの手口が存在します。ほかにも、すり・空き巣・置き引き・車上ねらい・自販機ねらい・自転車盗などがありますが、これらはすべて窃盗罪の一形態です。
一般的に、万引きは、スーパー・コンビニ・書店などを含めた店舗に陳列されている商品を盗む行為のことを指しています。
実際の小売店等では「会計をせずに店舗を出た」時点で万引き疑いのある者に声をかけるというマニュアルになっているケースが多いです。もっとも、法律的には店舗を出ずとも犯罪が成立する場合があるため、注意が必要です。
「窃盗罪」は「未遂」であっても処罰される犯罪です。「未遂」とは、犯罪行為に着手したが、犯罪結果が発生しなかった場合のことを指します。すなわち、窃盗行為を完了していなくても、窃盗行為に着手した時点で「窃盗未遂罪」という犯罪が成立します。
万引きの事例に即して言うと、「盗もう」と考えて商品を手に取った時点で万引きに着手したものと判断され、窃盗未遂罪が成立します。また、周囲の状況や万引きの対象となった商品の種類によっては、「盗もう」と考えてその商品に近づいただけでも窃盗未遂罪が成立する場合もあります。
窃盗行為を完了した場合、いわゆる「既遂」として、「窃盗罪」が成立します。窃盗罪は「財物の占有が完全に移転したか否か」によって既遂か否かを判断されます。
万引きの対象となる財物は、カバンやポケットなどに入るような小さなものであることが多いです。こういった小さなものの場合、店舗外から出なくてもカバンやポケットの中に入れた時点で「占有が完全に移転した」と判断され、窃盗罪が成立するケースがほとんどです。
まとめると、着手があった時点で店員に呼び止められた場合は、まだ万引きを遂げていなくても「窃盗未遂」が成立し、カバンやポケットなどに入れていれば「既遂」として窃盗罪が成立します。
多くの小売店が「店舗外へと出たか否か」を基準としているのは、万引き犯が「お金を払うつもりだった」「泥棒扱いされた」と言い訳や反論をする事態を防ぐための防御策に過ぎません。
店側が窃盗罪の着手や既遂について詳しい知識をもっており、反論されても覆すことができるという自信や証拠があれば、たとえ店舗外に出ていなくても捕まってしまうおそれがあることを覚えておきましょう。 -
(2)窃盗罪に科せられる刑罰
窃盗罪を犯すと、捜査機関による捜査の後、起訴され、刑事裁判を経て「10年以下の懲役または50万円以下の罰金」が科せられます。
また、常習的かつ複数回にわたって窃盗行為に及んでいる場合、一定の要件の下で「常習累犯窃盗罪」として「3年以上20年以下の懲役」という非常に重たい刑罰が科されます。
ただし、これは成人に対して刑事処分を課す場合の流れです。中学生は未成年の少年なので、少年法が適用され、原則として刑罰は科せられず、更生を目指した保護処分の対象となります。万引きが発覚しても、いきなり少年刑務所などに収容されるわけではないので、過度に心配する必要はありません。
2、中学生・高校生が万引きしたらどうなる?
冒頭でも触れたとおり、年間に万引きで補導・検挙される中学生・高校生の数は決して少なくはありません。
中学生・高校生が万引きをすると、その後はどうなるのでしょうか?
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(1)14歳未満・14歳以上で処遇が変わる
まず覚えておきたいのが、刑法第41条の規定です。同条には「14歳に満たない者の行為は罰しない」と明記されています。
また、少年法第2条では、少年法中の「少年」の定義を「二十歳に満たない者」と定めている一方で、少年法第3条2号では「十四歳に満たないで刑罰法令に触れる行為をした少年」といういわゆる「触法少年」としての区別が設けられています。
以上のように、刑法上及び少年法上、少年が起こした事件の処遇は、14歳未満か、それとも14歳以上かを基準として変わります。満14歳に到達するのは中学2年生なので、中学2年生時の誕生日が到来しているかどうかで法的な扱いも変わるのだと理解しておきましょう。 -
(2)14歳未満は刑罰を受けないが、児童相談所や少年審判を経た処分を受ける場合がある
刑法上、14歳未満の少年には、刑事的な責任を負う能力がないとして、犯罪に該当する行為を行ったとしても、懲役刑や罰金刑等の刑事処分が科されることはありません。また、14歳未満の少年の行為は「犯罪」ではないため、犯罪捜査のために行われる「逮捕」や「勾留」等をされることもありません。
このように説明すると「罪を犯しても不問になる」と誤解されるかもしれませんが、それは間違いです。触法少年事案は、少年自身や保護者への調査を経たうえで、厳重注意を受ける警察限りの処理で済まされる場合もあります。
もっとも、いわゆる「要保護児童」(「保護者のない児童又は保護者に監護させることが不適当であると認められる児童」(児童福祉法6条の2 8項))に当たると判断された場合、児童相談所へと通告されます。特に、何度も万引きを繰り返していたり、高額商品を転売目的で大量に盗んでいたりといった悪質なケースは「要保護児童」と判断されるケースが多いです。
児童相談所の調査を経て、訓戒、誓約書の提出、児童福祉司等による指導、里親などへの委託、児童養護施設、児童自立支援施設などへの入所等の「援助措置」が行われます。
また、触法少年が「逮捕」や「勾留」をされることはありませんが、児童相談所によって、「一時保護」という形で身体拘束を受ける場合もあります。
さらに、「家庭裁判所に処分を求めるべきだ」と判断されると、家庭裁判所に送致され、14歳以上の少年と同じ扱いを受け、少年審判を経て、保護観察処分や少年院送致等の処分を課される場合があります。
なお、一定の重大犯罪の場合、必ず児童相談所から家庭裁判所へ送致されます。 -
(3)14歳以上なら逮捕の危険もある
14歳以上、つまり中学2年生時の誕生日が到来して以後は「犯罪少年」としての扱いを受けます。
万引きを犯した中学3年生・高校生の扱いは、すべて犯罪少年です。
14歳以上の場合は刑事責任を負う能力があるとされているので、万引きが発覚した場合は警察や店員・警備員などによって現行犯逮捕されてしまうおそれがあります。
その場から逃げたり、被害額が「ちょっとした出来心」では済まされないほど多額だったりすると、逮捕の危険は高まってしまうでしょう。
一方で、素直に罪を認めており、店側からの戒めにも反省を示している、過去に万引きを含めて同種の罪を犯したことがないといった状況で、素性もはっきりしていれば、逮捕されずに在宅捜査として処理される可能性が高まります。
いずれにしても、逮捕の有無に関係なく14歳以上の少年が起こした事件は、すべて家庭裁判所に送致されるので、警察限りで内々に済ませてはもらえません。
成人であれば、万引きの被害額が小さく、犯行の動機や方法も悪質ではなく、店側への謝罪と弁済を尽くして許しを得た場合は「微罪処分」という警察限りの処理が取られる可能性がありますが、少年事件は微罪処分の対象外です。
どんなに軽微な事件でも家庭裁判所に判断を委ねるという点は、少年の更生を図る意味では重要ではあるものの、成人による事件と比べると本人の負担が大きくなります。
3、中学生・高校生が万引きで逮捕されるとどうなる? 手続きの流れ
中学生・高校生が万引きの容疑で逮捕されると、その後はどのように手続きが進むのでしょうか?
ここでは、14歳以上の犯罪少年が受ける手続きの流れを確認していきます。
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(1)逮捕による身柄拘束を受ける
警察に逮捕されると、警察署に連行されて警察署内の留置場に収容されます。
現行犯逮捕は一般の私人でも可能ですが、ただちに警察官へと引き継がれるので、連行・留置場への収容という流れは同じです。
逮捕された少年の自由は大幅に制限されます。
自宅へ帰ることも、学校へ行くことも許されないだけでなく、スマートフォンも留置場で預けるので、家族への連絡も不可能です。
警察は逮捕してから48時間以内に、少年を検察に送るか釈放するかを決める必要があり、逮捕の当日と翌日は事件に関する取り調べが進められることが多いです。 -
(2)検察官へと送致される
逮捕から48時間以内に、検察官に送致する必要があると判断された場合、逮捕された少年の身柄は検察官へと引き継がれます。
この手続きを「送致(検察官送致)」といいます。
送致を受けた検察官は、警察から引き継がれた書類等を参考にしながらみずからも少年を取り調べたうえで、「勾留」という形で引き続き身柄を拘束するべきか、それとも釈放するべきかを24時間以内に判断します。 -
(3)勾留・観護措置を受ける
「身柄拘束を続けて捜査を進める必要がある」と判断した検察官は、裁判官に「勾留」の許可を求めます。裁判官が審査したうえでこれが許可されると、検察官が勾留を請求した時から、最大で10日間の勾留が開始します。
勾留が決定した少年の身柄は再び警察へと戻され、警察署の留置場に収容される場合が多く、警察や検事による取り調べなどの捜査が続きます。勾留期間内で捜査が遂げられなかった場合は、一度に限り最大10日間の延長が可能です。つまり、勾留による身柄拘束は、最大で20日間となります。
なお、少年を勾留する場合、成年と同様の要件に加え「やむを得ない場合」であることが必要とされていますが、実務上「やむをえない場合」は非常に緩やかに解釈されており、事実上成年とほぼ同様の基準で少年の勾留は認められています。
なお、少年事件では「勾留に代わる観護措置」という身体拘束手続きもあります。こちらは「勾留」とは異なり、延長ができず、その期間は検察官が請求した日から最大10日間となります。
もっとも、検察官があえて「勾留に代わる観護措置」を請求するケースは少なく、成年と同じ「勾留」による身体拘束受ける少年が多いというのが現実です。 -
(4)家庭裁判所へと送致される
警察・検察官による捜査が終了すると、すべての少年事件は家庭裁判所へと送致されます。成人事件では検察官が起訴・不起訴を決定し、全ての事件が裁判所に送られるとは限りませんが、少年事件では「全件送致主義」が採用されているので、必ず裁判所による判断がなされます。
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(5)少年審判を経て保護処分を受ける
検察官からの送致を受けた家庭裁判所では、捜査書類をもとに少年事件の調査が進められたうえで、少年審判を開くべきかどうかが判断されます。
少年審判は、成人事件でいえば刑事裁判と同じ位置づけですが、犯罪行為を処罰すべきかどうかという観点ではなく、少年自身の更生にはどのような「保護処分」が必要かという観点からの判断がされる手続きです。成人の刑事裁判のように公開されるわけではなく、非公開で進みます。
少年審判において下される処分は、次のとおりです。- 保護観察 一般社会で生活を送りながら更生を目指す処分です。保護観察官や保護司との定期的な面接を通じて、指導・監督を受けることになります。
- 少年院送致 少年院に収容し、矯正教育を施す処分です。再び非行に走る危険が強く、社会生活を通じた更生は難しいと判断されると少年院に送致されます。
- 児童自立支援施設等送致 開放的な施設での生活指導を通じて、必要な指導や自立支援を施す処分です。比較的に低年齢の少年が対象となります。
- 検察官送致 14歳以上の少年について、一定以上の重大な罪を犯した場合で、保護処分よりも刑罰を科す方が妥当だと判断された場合の処分です。検察官から送致された事件を再び検察官へと送致することから「逆送」ともいいます。逆送を受理した検察官は、原則として少年を起訴しなければなりません。
- 知事または児童相談所長送致 児童福祉司による指導や児童福祉施設への入所、里親への委託などを受ける処分です。家庭や事件前の生活環境では更生が難しく、児童福祉機関の指導が必要だと判断された場合に下されます。
- 不処分 少年審判を通じた教育的なはたらきかけによって十分に更生が期待できる場合に下される処分です。施設への収容や継続的な指導・監督は受けません。
4、中学生の子どもが万引き事件を起こしたとき、家族が取るべき行動とは?
中学生といえども、万引きを犯せば子どもの悪ふざけとはとらえてもらえません。小売店の多くは常に万引き被害に悩まされているので、万引きが発覚すれば厳しく対処される事態は避けられないでしょう。
中学生の子どもが万引き事件を起こしてしまったときは、穏便な解決に向けて家族が積極的にアクションを起こす必要があります。
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(1)被害者への謝罪と弁済が最優先
万引き事件を穏便に解決する最も有効な方法は、被害者との示談交渉を通じて謝罪・弁済を尽くすことです。店側が警察に通報する前に示談が成立すれば、事件が認知されることなく解決できるので、逮捕や処分への不安はなくなるでしょう。
すでに警察が事件を認知している段階では、示談が成立しても家庭裁判所への送致は避けられません。しかし、家族とともに示談交渉を進めることは少年自身に強く反省を促すきっかけとなるので、少年審判の要否や処分の内容にも大きな影響を与えます。
とはいえ、万引き被害に悩んでいる小売店のなかには、加害者との示談交渉に一切応じないという姿勢をかたくなに崩さない店も少なからず存在するので、示談交渉は容易ではありません。円滑な示談成立を望むなら弁護士への依頼が最善です。 -
(2)学校への対応も必要
万引き事件を起こして警察に発覚すると「学校連絡制度」によって学校へと通報されてしまいます。
家庭だけでなく学校も連携して少年の更生を目指すための制度なので、少年自身や家族が警察に対して「学校へは通報してほしくない」と望んでも、希望どおり内密にしてくれる可能性は低いでしょう。
しかし、学校側が過度に厳しい処分を課したり、ほかの生徒に知れ渡ったりする事態になれば、更生は期待できないばかりか、不登校や非行の原因になってしまうおそれがあります。
学校連絡制度を通じてはじめて学校が事態を知るのではなく、すすんで詳しい事情を説明して家族がともに解決へと尽力していることを知ってもらったほうが、学校側の理解を得られるかもしれません。
学校への対応は、少年自身の将来にかかわる重要な部分です。慎重な対応が求められるので、弁護士に相談してアドバイスを受けましょう。 -
(3)再犯防止に取り組む姿勢も欠かせない
少年事件の解決に向けて大切なのは「再犯をさせない」ことです。そして、少年の再犯防止には、家族の理解と協力が欠かせません。
親子の対話を密にする、子どもの単独行動を避けて監督を強化する、万引きの「癖」を医学的なアプローチで解決するなど、家族が再犯防止に取り組む姿勢を示すことで、処分が軽減される可能性が高まります。
どのような対策が再犯防止につながるのか、処分の軽減に向けて高く評価されるにはどんな対応が効果的なのか、弁護士に相談してアドバイスや必要なサポートを受けましょう。
5、まとめ
中学生は精神的にまだ未成熟な年代です。法律上も触法少年・犯罪少年が混在しており、年齢によって処遇が変わる難しさもあります。中学生が万引き事件を起こしても、14歳に満たなければ懲役や罰金といった刑罰は科せられませんが、家庭裁判所の判断によっては少年自身に不便や不利益をもたらす厳しい処分が下されるかもしれません。
逮捕や厳しい処分を避けるには、家族の積極的な対応が必須です。中学生による万引き事件の解決は、ベリーベスト法律事務所 錦糸町オフィスにおまかせください。刑事事件・少年事件の解決実績が豊富な弁護士が、穏便かつ少年自身の負担や不利益が少ない方法での解決を目指して全力でサポートします。
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