休日に資格の勉強や試験をさせることは違法? 会社側が注意すべきこと
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業務に必要な資格の勉強や受験は、会社の具体的な指示に基づく場合は労働時間に当たる可能性があります。
企業としては、労働者(従業員/社員)の勉強時間や受験の時間が労働時間に当たる場合は、36協定の締結や残業代の支払いが必要となる点に注意する必要があります。
本コラムでは、企業が労働者に資格取得を指示することの可否や注意点などについて、ベリーベスト法律事務所 錦糸町オフィスの弁護士が解説します。
1、会社は従業員に対して、資格の取得を強制できるのか?
業務のために必要な資格の取得を、会社側が従業員に対して指示する場合があります。
資格取得を指示すること自体は適法と認められるケースが多いですが、勉強時間や受験の時間は労働時間に当たる可能性がある点に注意しましょう。
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(1)資格取得の指示・要請は可能
会社は従業員に対して、労働契約に基づく指揮命令権に基づき、業務遂行のために必要かつ合理的な範囲内で、従業員に対して指示を行うことができます。
資格の取得についても、業務遂行のために必要かつ合理的な範囲内にあれば、その指示や要請は会社の指揮命令権に基づくものとして、適法と認められる可能性が高いといえます。 -
(2)資格取得の受験時間や勉強時間は労働時間に当たる可能性がある
従業員が資格取得のために費やす勉強時間や受験の時間のうち、会社の指揮命令下にあると認められるものは労働時間に当たります。
たとえば、会社から資格取得を義務付けられたわけではなく、取得を奨励されているにすぎない場合には、勉強時間や受験の時間は労働時間に当たらない可能性が高いといえます。
これに対して、会社が従業員に資格取得を義務付け、又はこれを余儀なくされた場合には、少なくとも受験の時間や参加を義務付けられた資格取得のための講習の時間等は、労働時間に当たると考えられます。
また、会社から勉強の時間や方法などについて具体的な指示を受けている場合には、勉強時間についても労働時間に該当する可能性があるのです。
資格取得の勉強時間や受験の時間が労働時間に当たる場合には、残業代として割増賃金が発生するほか、36協定の締結および順守が必要となる点に注意する必要があります。
2、休日に資格試験を受けさせることは可能か?
資格試験は、休日に開催されるものが多いです。
そのため、従業員に資格取得を義務付けたり、奨励したりする場合には、従業員は休日に試験を受ける可能性が高いでしょう。
労働日ではない休日に資格試験を受けさせる場合の取り扱いは、受験の時間が労働時間に当たるか否かによって異なります。
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(1)労働時間に当たる場合
会社が業務命令により、従業員に資格の取得を義務付けている場合、受験の時間は労働時間に当たる可能性が高いといえます。
この場合、休日における資格試験の受験は「休日労働」または「時間外労働」に当たると考えられます。① 休日労働
法定休日に行われる労働
※法定休日:原則として週1日。1週間に複数の休日が設定されている場合は、いずれか1日のみが法定休日となります。
② 時間外労働
法定労働時間を超えて行われる労働
※法定労働時間:原則として1日当たり8時間、1週間当たり40時間。法定休日以外の休日(=法定外休日)に行われる労働のうち、法定労働時間を超える部分は時間外労働となります。
従業員に休日労働または時間外労働をさせるためには、事業場の労働者の過半数で組織する労働組合、または、労働者の過半数を代表する者との間で「36協定」を締結しなければなりません。
36協定では、休日労働および時間外労働について、上限となる労働時間等に関するルールを定めることになります。
そして、従業員に対して実際に指示する休日労働や時間外労働も、36協定のルールの範囲内に収める必要があるのです。
休日において資格試験の受験を義務付ける場合は、36協定を締結したうえで、そのルールに違反しないように注意しましょう。 -
(2)労働時間に当たらない場合
会社が従業員に対して資格取得を義務付けておらず、奨励しているにすぎない場合には、受験の時間は労働時間に当たらないと考えられます。
ただし、受験の時間が労働時間に当たるかどうか(≒資格取得が義務かどうか)は、具体的な事情に応じて実質的に判断される点に注意が必要です。
たとえば、建前としては「任意」であっても、資格を取得しなければ昇進・昇給等について不利益な取り扱いがなされているような場合には、受験の時間が労働時間に当たると判断される可能性があります。
そのような場合は、休日の受験につき、36協定の締結・順守が義務付けられることに注意してください。
3、従業員の資格取得に関する事項は、就業規則に明示すべき
従業員による資格の取得については、その位置づけを明確化するため、就業規則などに定めておくのがよいでしょう。
- 対象となる資格の種類
- 対象となる従業員の範囲
- 受験費用および教材費用の補助
- 資格手当の支給
- 受験日、講習(研修)受講日、勉強時間の取り扱い(労働時間に当たるかどうか、出勤したものとして取り扱うかどうか)
4、就業規則の変更の手続きと注意点
以下では、資格取得について定めるために就業規則を変更する際の手続きや、変更における注意点を解説します。
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(1)就業規則の変更の手続き
就業規則の変更は、以下の流れで行います。
① 変更内容の決定
関係各部署での検討を経て、取締役会などの決定機関が、就業規則の変更内容を決定します。
② 労働組合などからの意見聴取(労働基準法90条)
事業場の労働者の過半数で組織される労働組合、または労働者の過半数を代表する者から、就業規則の変更内容について意見を聴取します。労働者側の意見は、意見書にまとめて提出してもらいましょう。
③ 労働基準監督署に対する変更届の提出
就業規則の変更内容を記載した変更届に、労働者側の意見書を添付して労働基準監督署へ提出します。 -
(2)変更後の就業規則は周知が必要
就業規則を変更したら、変更後の内容を事業場の従業員に周知しなければなりません(労働基準法第106条)。
従業員に対する就業規則の周知は、以下のいずれかの方法で行う必要があります(労働基準法施行規則52条の2)。- ① 常時各作業場の見やすい場所へ掲示し、または備え付ける
- ② 従業員に対して書面を交付する
- ③ 記録媒体に記録したうえで、各作業場に従業員が当該記録の内容を常時確認できる機器を設置する
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(3)労働時間などに関する法的検討が必要
従業員の資格取得については、単に就業規則で定めるだけでなく、あわせて労働基準法などに従った法的検討を行うことも必要になります。
たとえば、就業規則において「資格取得は任意」「受験時間は労働時間に当たらない」と定めたとしても、実態として会社が資格取得を義務付けていると判断されれば、労働時間などについて適切な対応が必要になります。
またこのような場合には、従業員との間でトラブルに発展するリスクもあります。
会社としては、就業規則と労働現場の実態を整合させたうえで、労働基準法などの法令に適合させる必要があります。
弁護士のアドバイスを受けながら、どのような仕組みを整えるかについて十分な法的検討を行ってくいださい。
5、従業員の資格取得や、就業規則の見直しに関しては弁護士に相談を
従業員による資格取得制度を新たに設けたり、就業規則を見直したりする際には、弁護士への相談をおすすめします。
弁護士であれば、労働時間への該当性や、労働現場における運用上の注意点などについて、法的な観点からアドバイスすることができます。
また、新制度に合わせて就業規則の変更を行う際にも、弁護士が必要な手続きをサポートすることが可能です。
労働基準監督署への提出書類の作成や、実際の届出手続きなども弁護士が代行できます
従業員の資格取得や、就業規則の見直しに関しては、弁護士にご相談ください。
6、まとめ
会社が従業員に対して資格取得を強制する場合、受験時間が労働時間に当たる可能性があります。
資格試験は休日に行われることが多いですが、休日の受験時間が労働時間に当たる場合には、36協定を締結したうえでそのルールを順守しなければいけません。
従業員とのトラブルを避けるためには、資格取得制度の内容を就業規則に定めておくことが望ましいといえます。
労働者側の意見を聴取したうえで、変更後の就業規則を労働基準監督署に提出し、事業場の従業員に対して周知を行いましょう。
ベリーベスト法律事務所は、人事や労務管理に関する企業のご相談を随時受け付けております。
企業の経営者や担当者で、従業員による資格取得制度に関する労働基準法上の取り扱いについて分からないことがある方や、制度の新設や見直しを検討されている方は、まずはベリーベスト法律事務所にご連絡ください。
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