管理職の残業が100時間を超えた場合は? 上限規制や注意点を解説

2024年11月06日
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管理職の残業が100時間を超えた場合は? 上限規制や注意点を解説

令和4年度における東京労働局によると、過労死などにかかわる労災請求・支給決定件数は、脳・心臓疾患の請求件数が117件で前年度より3.3%減少しており、精神障害事案の請求件数は540件で前年度より8.6%増加しています。

過労死や長時間労働などが社会問題となっていたこともあり、令和元年(2019年)に労働基準法が改正され、管理監督者の労働時間の把握も必要となりました。それでは、改めて管理監督者の労働時間を確認した結果、残業時間が100時間を超えていた場合、どうすればいいのでしょうか。また、管理監督者について考える際は、実際には名ばかり管理職ではないか、という点も合わせて確認が必要です。

管理監督者の残業時間が100時間を超えた場合は違法になるのか、管理職に関する労働問題を弁護士に相談するメリットについて、ベリーベスト法律事務所 錦糸町オフィスの弁護士が解説します。


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1、管理職の残業が100時間を超えた場合

管理職の残業時間が100時間を超えていた場合、違法となるのでしょうか?

  1. (1)管理職と管理監督者

    管理職なのか、管理監督者なのかによって残業の扱いが異なります。そのため、それぞれを整理したうえで、残業時間が100時間を超えた場合について確認していきましょう。

    ・ 管理監督者の残業が、100時間を超えたら
    管理職の中でも「管理監督者」とされる従業員は、36協定が適用されず労働時間の上限がないため、残業時間が月に100時間を超えても違法とはなりません(管理監督者の詳しい定義は後述します)。しかし、身体的・精神的にも疲弊し、過労死などのリスクが高まるため、残業時間が80時間を超えた場合は、安全配慮義務により産業医の面接指導を受けさせる必要があります。

    ・ 管理職の残業が100時間を超えたら
    「管理監督者」ではない管理職の場合、一般労働者と同じ扱いとなり、残業について36協定の規制を受けることになります。労働基準法では、1日の勤務時間は8時間、1週間で40時間と定められています。そのため、基準を超えて労働をさせる場合は、企業と労働者の間で話し合いを行い、36協定を結ばなければなりません。

    36協定を締結・届け出をしていたとしても、月45時間・年360時間が残業時間の上限です(臨時的な特別事情があれば上限を超えた残業が可能だが、一定の基準がある)。
    残業時間の上限規制に違反した場合には、会社の経営者に対して、6か月以下の懲役、または30万円以下の罰金が科される可能性があります。
  2. (2)管理監督者とは

    労働基準法41条1項2号には、労働時間に関する条文の適用を受けない対象として、「事業の種類にかかわらず監督若しくは管理の地位にある者又は機密の事務を取り扱う者」を規定しており、これを一般に管理監督者と呼びます。管理監督者とは、経営者と同じような立場にあり、会社内で相応の地位と権限が与えられている従業員のことです。管理監督者であるか否かについて、厚生労働省基準局は以下のような基準を示しています。

    ・ 重要な職務内容を担う
    以下のような職務を担っている従業員が管理監督者に該当します。経営者から指示を受けて、一部の業務管理を担当しているだけでは管理監督者とは言えません

    • 企業の方針に基づき主体的に動き、経営方針についても発言できる
    • 部門全体の統括や予算の管理、部下の労働時間を管理している
    • 解雇や採用などの人事に関する権利を持っている


    ・ 責任と権限を有している
    部下の人事評価や賃金、採用や配置、労働条件の決定など経営者と同様の指揮権を与えられている従業員が該当します。ただし、部下に指示を出す立場であっても、自身に決定権がなく、上司や他部署に決裁を求める必要がある場合は、管理監督者には該当しません。

    ・ 勤務時間の制限を受けない
    経営者と同様の指揮権がある場合、迅速な対応や判断が必要になるケースがあります。そのため、出退勤時間を決めることが難しく、管理監督者は自由裁量によって出退勤時間や休憩時間を決定する立場となります。

    ・ 地位相応の待遇を受けている
    一般労働者と比べ、管理監督者は重要な役割を担いつつ、残業代や休日出勤の対象外となります。そのため、一般労働者よりも給与や賞与などは高く、相応の地位と待遇を受ける必要があるとされています。
    残業代が無くなったため給与の総額が下がったり、長時間労働をすることで時間単価が一般労働者を下回ったりした場合は、管理監督者として認められない可能性が高くなります。

2、管理職には残業代を支払わなくてもよい?

管理職とは一般的に、企業内における役職を表す言葉です。前述のとおり、管理職であっても労働基準法における管理監督者に該当すると評価されない場合、一般労働者と同様に残業代が生じます。

そのような管理監督者に該当しない管理職、いわゆる「名ばかり管理職」と判断された場合には、残業代や休日割増賃金などを支払う必要があります。一般労働者と変わらない業務内容、賃金などの待遇を受けている「名ばかり管理職」にもかかわらず「管理職だから残業代を支払わない」などの理由により、残業代を支払っていない場合は、違法となる可能性があるので注意しましょう。

3、管理職の労働時間に関する注意点

働き方改革による労働基準法の改正により、管理監督者に対しても労働時間の把握が義務化されました

そのため、管理監督者の労働時間を把握する際は注意しなければなりません。他にもどのような注意点があるのか詳しく解説します。

  1. (1)深夜勤務手当の支払い

    深夜勤務手当とは、深夜労働を行った場合に支払われる賃金のことです。深夜勤務手当は、管理監督者も支給の対象となります。

    • 割増賃金:25%の割り増し(一般労働者の場合は時間外労働の割り増しに加えて、深夜勤務手当の割り増しを行う)
    • 労働時間:午後10時から午前5時までの間
  2. (2)有給休暇の取得

    管理監督者は、法定休日や振替休日、代休はありませんが年次有給休暇は付与されます。令和元年(2019年)4月より改正された労働基準法により、年次有給休暇が10日以上付与されている労働者は、有給休暇を年に5日以上取得することが義務化されました。健康に悪影響がないように配慮されており、管理監督者も対象です。

4、管理職に関する労働問題を弁護士に相談するメリット

管理職に関する労働問題や従業員とのトラブルが起きた場合は、弁護士への相談がおすすめです。弁護士に相談することで以下のメリットがあります。

  1. (1)未払い残業代を請求された場合に法的なアドバイスを受けられる

    企業側が労働基準法の規定を誤って適用し、未払いとなっているケースも少なくないでしょう。意図的ではなくとも、未払い残業代を請求された場合は、支払わなくてはなりません。ただし、請求者の主張が本当に正しいのか、未払いとなっている部分について改めて精査し、事実と比べて主張に誤りがある場合は、適切な残業代となるよう調整する必要があります。
    労働問題に強い弁護士に相談することで、企業側は未払い残業代の支払いに関して、どのように対処すべきか法的なアドバイスを受けられます。

  2. (2)労務全般のサポートを期待できる

    労働問題や従業員とのトラブルが起きた場合、スムーズな対応が大切です。また、事前に労働問題が起きないよう適切に管理し、リスクを減らすことも大切でしょう。労働問題に詳しい弁護士に相談することで、適切な労働時間の管理や社内体制の整備などをサポートしてもらうことが可能です。

5、まとめ

管理職と管理監督者の違いを理解せず「名ばかり管理職」が生じていた場合、未払いの残業代や休日割増賃金を請求される可能性があります。安易に「管理職だから」と考えず、労働基準法が定めている管理監督者の基準に合っているのか確認しましょう。
管理職に関する問題や労働時間のトラブルは、対応策を誤ってしまうと後で不利益を受けたり、問題が長期化・泥沼化したりする可能性があります。労働問題について経験豊富な弁護士に相談するとよいでしょう。

労働時間について気になる、管理職に関するトラブルに困っている方は、ベリーベスト法律事務所 錦糸町オフィスまでお気軽にご相談ください。

  • この記事は公開日時点の法律をもとに執筆しています