重過失致死傷罪とは? 法定刑や被害者との示談の効果について
- その他
- 重過失
- 傷害
東京都都市整備局では、サステナブルな環境を目指して、環境負荷低減や健康増進に寄与する自転車に注目しており、令和3年5月には、東京都自転車活用推進計画の改定を発表して、自転車活用の推進をしています。
一方で、自転車による重大事故に「重過失致死傷罪」が適用され、有罪判決が言い渡された事例もあります。たとえば、令和3年9月には、自転車で一時停止の標識を無視して交差点に進入した結果、原付バイクと出合い頭に衝突し、原付バイクを運転していた男性が死亡した事故について、自転車を運転していた男性に禁錮10月、執行猶予3年の有罪判決が言い渡されました。
本コラムでは過失によって人を死傷させる罪のうち、とくに「重過失致死傷罪」に注目しながら、適用されるための要件や法定刑、容疑をかけられた際の解決策を解説していきます。
1、“過失”で人を死傷させると問われる罪
故意、つまり“わざと”他人に怪我を負わせたり、死亡させたりすると、刑法第204条の傷害罪や、同第205条の傷害致死罪あるいは同第199条の殺人罪によって厳しく処罰されます。
ただし、同じ死傷という結果を招いた場合でも、不注意などの“過失”によるものであれば上記の傷害罪・傷害致死罪・殺人罪には該当しません。過失により人を死傷させた場合には、重過失致死傷罪も含めた以下の3つの罪のいずれかに問われます。
-
(1)過失傷害罪
過失によって人を傷害すると、刑法第209条の過失傷害罪に問われます。
「傷害」とは、端的にいえば怪我をさせることを意味しますが、刑法の考え方としては「人の生理機能を害すること、または健康状態を不良にすること」と定義するのが定説です。
階段の上で人にぶつかり転落させて骨折させてしまった、よそ見をしていて周囲の歩行者にぶつかって転倒させ傷を負わせてしまった、といったケースが想定されます。 -
(2)過失致死罪
過失によって人を死亡させると、刑法第210条の過失致死罪に問われます。
同罪は、相手を死に至らしめることで成立しますが、原因が過失にあり、死に至らしめることあるいはその前提となった傷害に対する故意がないため、傷害致死罪や殺人罪とは明確に区別されます。
階段の上で人にぶつかり転落させて死亡させた、よそ見をしていて周囲の歩行者にぶつかって転倒させ死亡させたといった場合は過失致死罪です。 -
(3)重過失致死傷罪
重大な過失によって人を死傷させると刑法第211条後段の重過失致死傷罪に問われます。
条文では重過失致死傷罪という罪名にまとめられていますが、相手に生じた結果によって「重過失致傷罪」と「重過失致死罪」に区別されます。相手が負傷すれば重過失致傷罪、相手が死亡すれば重過失致死罪です。
単なる過失ではなく「重大な過失」を原因とする犯罪ですが、問題となるのは“どのような点をもって重大な過失とするのか”という点です。
通常の過失と重過失は、次のように区別されます。- 通常の過失
結果を予見して、その結果を回避することができたのに、そのための行動を怠ったこと - 重過失
結果を予見して、その結果を回避することが通常よりも容易にできたのに、そのための行動を怠ったこと
- 通常の過失
2、自転車や歩行者が重過失致死傷罪に問われるケース
近年、重過失致死傷罪が適用される事例として注目を集めているのが、従来は交通弱者として扱われていた自転車や歩行者が原因となった交通事故のケースです。
スマホを片手で操作しながらいわゆる「ながらスマホ」の状態で自転車を運転していたところ、歩行者とぶつかり歩行者を死亡させた事案では、自転車を運転していた女子大生に禁錮2年・執行猶予4年の有罪判決が言い渡されました。
また、赤信号を無視して横断歩道を歩いていた歩行者が原付バイクと接触し、原付バイクを運転していた男性が骨折をする重傷を負った事案では、赤信号を無視していた歩行者が重過失致傷罪に問われました。
3、過失傷害罪・過失致死罪・重過失致死傷罪に科せられる刑罰
過失によって人を死傷させてしまった場合に問われる罪について、それぞれの法定刑を確認しておきましょう。
-
(1)過失傷害罪の刑罰
過失傷害罪の法定刑は、30万円以下の罰金または科料です。
科料とは、1000円以上1万円未満の金銭の納付を命じられる刑であり、わが国の法律で規定されている刑罰のなかで最も軽いものですが、前科として扱われます。 -
(2)過失致死罪の刑罰
過失致死罪の法定刑は、50万円以下の罰金です。
過失傷害罪と比べると罰金の上限が加重されていますが、懲役刑・禁錮刑のように身体の自由を制限されることはありません。 -
(3)重過失致死傷罪の刑罰
重過失致死傷罪の法定刑は、5年以下の懲役もしくは禁錮または100万円以下の罰金です。
重過失によって人を死傷させた場合は、軽度の過失による場合と比較すると格段に重い刑が予定されており、死傷結果や重過失の程度によっては刑務所に収監されてしまうおそれもあります。
4、過失でも逮捕されるのか? 逮捕後の流れとは
たとえ過失であっても、人を死傷させてしまえば犯罪となります。
では、たとえばニュースなどで報じられる殺人事件や強盗事件などと同じように逮捕されてしまうおそれもあるのでしょうか?
-
(1)過失であっても逮捕される危険がある
逮捕とは、被疑者の身柄を拘束して自由な行動を制限し、捜査機関の管理下に置く強制処分のひとつで、特定の犯罪につき相当の嫌疑のある被疑者が、逃亡や証拠隠滅を図るおそれがあると判断された場合に認められるものです。
たとえ過失によるものでも、捜査機関が逃亡・証拠隠滅を防止する必要があると判断した場合は、逮捕状が請求されたうえで逮捕される危険はあります。
たとえば、次のようなケースでは逮捕される可能性が高いと考えられます。- 現場から立ち去っており、目撃情報などから被疑者として特定された
- 交通事故を起こした車両をすぐに修理工場に持ち込むなど、事件の隠蔽(いんぺい)を図った
- 人の死傷という重大な結果が発生しており、重責を恐れて逃亡する危険が高いと判断された
- 住居不定・氏名不詳など、自らの人定事項を明らかにしなかった
とくに、その場から逃走している、積極的に証拠隠滅を図っているといった状況があれば、逃亡・証拠隠滅を図るおそれがあると判断されやすく、逮捕の可能性は高くなるでしょう。
-
(2)逮捕されるとそのまま勾留されて身体拘束が継続する危険がある
警察に逮捕されると、その時点でただちに身柄を拘束され、自由な行動が制限されたうえで取り調べを受けることになります。この間は、自宅へ帰ることも仕事に行くこともできず、家族や会社に電話・メール・手紙で連絡をすることもできなくなります。
逮捕後は、警察は48時間以内に事件を検察官へ送致するかあるいは被疑者の身柄を釈放するかを判断し、事件が送致されれば、検察官による取り調べが行われます。
さらに検察官が送致から24時間以内に裁判官に対して勾留請求をし、裁判官がこれを許可すると、勾留による身柄拘束が始まります。これにより勾留される期間は10日間ですが、その後の検察官による勾留延長請求によってさらに最長10日間の勾留が可能です。
このような逮捕・勾留による最長23日間の身柄拘束を経て、検察官は被疑者に対する起訴・不起訴の判断を下します。
検察官が起訴をすれば刑事裁判へと発展し、不起訴となれば釈放されます。
5、過失で人を死傷させた場合の解決策は示談交渉
過失とはいえ人を死傷させてしまうと犯罪となり、刑事手続きを経て刑罰が問われます。
起訴されて有罪判決が言い渡され、あるいは罰金刑が科せられれば前科がつくことになります。一方で、犯罪の成立が認められるとしても不起訴の判断がなされる場合(起訴猶予)もあります。これらの検察官の判断に際しては、被害者との“示談”も考慮要素のひとつとなります。
-
(1)示談がもたらす効果
示談とは、トラブルの当事者同士が裁判外で話し合って和解をする手続きを意味し、刑事事件の場合は、加害者と被害者が捜査機関や裁判所を介さずに話し合うことをいいます。
示談交渉の場では、加害者が真摯(しんし)に謝罪をしたうえで被害・損害の賠償を約束し、慰謝料などを含めた示談金を提示して許しを請うのが一般的です。
過失によって人を死傷させたケースでは、主に入通院の治療費と交通費・休業損害・逸失利益・慰謝料などの金額について、加害者がこれらの支払いを行い、被害者に「加害者を厳しく罰してほしいという意向はない」という、宥恕(ゆうじょ)の意思を示してもらいます。
すでに民事的な賠償が尽くされており、被害者も宥恕の意思を示しているという事情があれば、検察官が不起訴とする可能性は高まるでしょう。また、起訴が避けられない場合であっても、刑事裁判において有利な事情として扱われて執行猶予つきの判決がなされる可能性、あるいは罰金・科料の刑が科せられるにとどまるなど、減刑化が期待できます。 -
(2)示談交渉は弁護士に一任するのが最善
被害者との示談成立は、起訴や重い刑罰の回避に高い効果を発揮します。ただし、被害者のなかには加害者に対して強い怒りや嫌悪などの感情を抱く者も少なくないので、当事者の家族などが直接示談交渉をするのは容易ではありません。
被害者との示談交渉は、弁護士に一任するのが最善策です。解決実績が豊富な弁護士に対応をまかせれば、被害者の心情を和らげながら交渉を展開することが期待できます。また、過去に発生した同様のケースに照らして適切な金額の示談金を提示できるので、無用に重い負担が生じる事態も回避できます。
6、まとめ
たとえ過失によるものであっても、他人を怪我させてしまったり、死亡させてしまったりすれば犯罪になります。
その場合、処分の重さを少しでも軽くするためには、被害者との示談交渉が効果的です。しかし、加害者が個人で示談交渉を進めるのは容易ではありません。
被害者との示談交渉は、刑事事件の解決実績が豊富なベリーベスト法律事務所 錦糸町オフィスの弁護士におまかせください。重い刑罰を回避するために、実績ある弁護士が全力でサポートします。
- この記事は公開日時点の法律をもとに執筆しています