罪を犯した場合、後日逮捕されることはあるか│典型的なケースとは
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平成25年2月、墨田区のJR錦糸町駅ホームで口論となった男性に対してナイフで背中や顔を切りつけた男が逮捕されました。逮捕されたのは同年4月で、防犯カメラの映像などをもとに現場から逃走した男が特定されたとのことです。
罪を犯した直後にその場で身柄を確保されることを「現行犯逮捕」といいますが、この事例のように、犯行から数日・数カ月・数年がたったのちに逮捕されることを「後日逮捕」と呼びます。たとえその場で犯行を目撃されて身柄を確保されなくても、事件から時間がたっても、逮捕の危険が消えるわけではありません。
本コラムでは「後日逮捕」について解説します。どのようなケースで後日逮捕されるのか、後日逮捕されるとどうなるのかなどを詳しく紹介しましょう。
1、「逮捕」とは?
ドラマや映画などでは、犯人が警察に「逮捕」されることで事件が解決したかのように描かれています。
しかし、実際の刑事事件では、犯人にとっては逮捕こそが刑事手続きの出発点であることも多いです。まずは「逮捕」とはどのような手続きなのか、逮捕の意味や種類などを確認していきましょう。
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(1)逮捕の意味
逮捕とは、強制力をもって人の行動の自由を奪うことを意味します。
刑事事件においては、警察や検察官といった捜査機関が、犯罪の容疑がある被疑者の身柄を拘束して自由を制限する手続きを指します。
あくまでも捜査の実効を上げて刑事裁判へとつながる適切な刑事手続きを確保するための手続きで、被疑者を懲らしめる、罰を与えるといった性格はもっていません。 -
(2)逮捕の基本は「後日逮捕(通常逮捕)」
日本国憲法第33条は、原則として、裁判官が発付する令状にもとづく場合を除いて、国民の誰もが逮捕されないという権利を保障しています。
この考え方を「令状主義」といい、逮捕は令状、つまり「逮捕状」にもとづくのが原則です。
逮捕状にもとづく逮捕を、事件の後日に令状発付を受けて逮捕を執行することから「後日逮捕」と呼びます。正確な名称は「通常逮捕」といい、捜査機関の書類などでは通常逮捕と表現されますが同じものです。
裁判官が逮捕を許可して逮捕状を発付するのは、被疑者が罪を犯したと疑うに足りる相当な理由があり、このまま放置すれば逃亡や証拠隠滅を図るおそれがあり、逮捕をする必要性がある場合に限られます。
単に警察が「怪しい」とにらんだだけだった、逃亡・証拠隠滅の危険がまったくないと判断された、というケースであれば、裁判官は令状請求を却下する可能性があります。 -
(3)現行犯逮捕と緊急逮捕
逮捕には後日逮捕のほかにも「現行犯逮捕」と「緊急逮捕」の2種類があります。
● 現行犯逮捕
犯行のその時、その場で身柄を確保される逮捕です。
日本国憲法33条の「令状主義」の例外で、まさに犯人であることが明らかな状況なので、逮捕状は必要ありません。また、警察官の到着を待っていては逃亡・証拠隠滅を許してしまうため、一般の私人にも逮捕が認められています。
● 緊急逮捕
一定の重大犯罪で、ただちに逮捕状の発付を請求できない緊急の場合に限り、その場では逮捕状なしで逮捕し、後で逮捕状の発付を請求する逮捕です。
令状主義に反するように感じられるかもしれませんが、限定的な場合においてのみ許されることと、もし逮捕状の発付が得られなければ釈放しなければならないという条件を守ることで、令状主義の例外として認められています。
2、後日逮捕される典型的なケース
わが国の法律には、さまざまな犯罪が定められています。
なかには、万引きのように「現行犯でしか逮捕されない」と考えられている犯罪もあるので、犯行の当日、その場から逃げおおせることができれば「もう逮捕されない」と考える方もいるでしょう。
しかし、その場で捕まらなかったとしても、後日逮捕されてしまう危険がなくなるわけではありません。ここで挙げるのは、後日逮捕される典型的なケースです。
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(1)防犯カメラなどの証拠から特定された
犯行の様子や逃走する様子などが店舗・施設などの防犯カメラに記録され、証拠となって犯行が特定されると、後日逮捕の危険が高まります。
冒頭で紹介した事例では駅構内の防犯カメラが証拠となりましたが、いたるところに防犯カメラが設置されている現代では、常にどこかで撮影されて証拠が残っていると考えるべきです。 -
(2)指紋・DNAなどの鑑定から特定された
誰にも目撃されず、防犯カメラなどに記録されていなくても、現場に残された指紋・足跡・体液などのDNAといった資料を鑑定することで特定され、逮捕されるケースもめずらしくありません。
過去にも事件を起こして警察に指紋などを採取されていた場合は、現場から指紋などが採取されただけでも鑑定によって特定され、後日逮捕されてしまう可能性が高いです。 -
(3)被害者・目撃者などの供述から特定された
現場に証拠を残していなくても、事件の被害者や偶然居合わせた目撃者の供述も証拠となります。
人相や背格好、服装などの情報から被疑者として特定され、後日逮捕につながるケースも想定できます。 -
(4)被害品の追跡捜査などから特定された
自分では「証拠を残していない」と思っていても、追跡捜査から被疑者として特定され、後日逮捕される場合もあります。
たとえば、盗んだ品物の売却ルートや犯行に使用した携帯電話の契約者情報などから特定されるケースです。
警察には、捜査の必要において必要な事項を公務所や企業に問い合わせて情報開示を求める「捜査関係事項照会」という権限があります。どんなささいな手がかりからでも後日逮捕の危険があると心得ておきましょう。
3、後日逮捕された後の流れ
後日逮捕された場合でも、現行犯逮捕や緊急逮捕された場合でも、その後の手続きは同じです。ここでは、後日逮捕された後の刑事手続きの流れを確認していきます。
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(1)逮捕による最長72時間の身柄拘束
警察に逮捕されると、警察署の留置場に収容されます。常に警察官の監視を受けながら、必要に応じて取調室へと連行され、事件に関する取り調べがおこなわれるため、自宅へ帰ることも、会社や学校へと通うことも許されません。
警察による逮捕から48時間以内に、被疑者の身柄は検察官へと引き継がれます。これがニュースなどでは「送検」と呼ばれる、「送致」という手続きです。
送致を受理した検察官は、みずからも被疑者の取り調べをおこなったうえでさらに身柄を拘束する必要があるかどうかを24時間以内に決定します。
「身柄拘束の必要がない」と判断すれば釈放されますが、多くの事件が「身柄を拘束しなければならない」と判断され、釈放されません。 -
(2)起訴前の勾留による最長20日間の身柄拘束
身柄拘束を継続する必要があると判断した検察官は、裁判官に対して「勾留」を請求します。
裁判官は被疑者と面接したうえで勾留の要否を検討しますが、ここでも裁判官が「勾留の必要はない」と判断するケースは少数です。
勾留が決定すると、被疑者の身柄は警察へと戻されて、再び警察署の留置場へと収容されます。初回の勾留は10日間ですが、捜査が終了しない場合は一度に限ってさらに10日間以内の延長が認められるので、勾留の期限は最長で20日間です。
もちろん、自由な行動は制限されるので、帰宅・出勤・通学はできません。また、勾留決定後は外部との面会も可能になりますが、強い制限を受けるため自由なやり取りは許されず、多大な不便を伴います。
もっとも、共犯者との口裏合わせやなどを防止するために「接見禁止」が付される場合があります。この場合、弁護人以外との面会や物品の授受が一切許されなくなります。 -
(3)起訴後の勾留による最長刑事裁判終了までの身体拘束
勾留の満期を迎える日までに、検察官が「起訴」、「不起訴」または「処分保留」を決定します。
不起訴処分になれば刑事裁判が開かれないのでただちに釈放されます。
「起訴」または「不起訴」を判断するための証拠が集まらなかった場合等には、「処分保留」として釈放されます。この場合、一旦釈放されますが、後日の捜査次第で起訴されてしまう可能性があります。
起訴された場合、起訴前と同様に検察官の判断で「勾留」を請求します。そして、裁判官はその必要性を認める場合が多く、身体拘束が継続します。起訴前の勾留との大きな違いはその期間です。
起訴された日から2か月間勾留されたうえ、継続の必要性があれば1か月期間を更新することが認められています。この更新は原則として一回のみ許されていますが、一定の重犯罪の場合や、罪証隠滅の恐れや逃亡の恐れがある場合には、期間更新の回数制限はありません。
そして、多くのケースで、刑事裁判手続きが終了するまでその勾留は更新が繰り返されます。
初回の刑事裁判は起訴からおよそ1~2か月後に開かれ、以後、1か月に一度のペースで開かれるのが一般的です。通常、数回の公判を経て判決が言い渡されるので、解決までは早くても3か月程度、複雑な事件では半年~1年以上の時間がかかってしまうでしょう。
4、逮捕に不安を感じているなら弁護士へ相談を
後日逮捕されてしまうと、長期の身柄拘束を受けてしまうだけでなく、厳しい刑罰が科せられる危険があります。
罪を犯してしまい、いまだ逮捕されていない状況であれば「逮捕されてしまうのでは?」という強い不安を感じていることでしょう。
逮捕に不安を感じているなら、ただちに弁護士に相談してアドバイスを受けるのが得策です。
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(1)逮捕の回避に向けた弁護活動が期待できる
「罪を犯せばかならず逮捕される」と考えるのは間違いです。
ニュースなどで報じられる事件の多くは逮捕されたケースですが、実は警察の捜査には、なるべく任意捜査の方法によらなければならないという「任意捜査の原則」が存在しています。
事実、令和3年版の犯罪白書によると、令和2年中に検察庁が処理した事件のうち、逮捕による身柄拘束を受けた事件の割合は34.8%でした。つまり、残りのおよそ65%は身柄拘束を受けない「在宅事件」として処理されたことになります。
逮捕状を発付すべきかどうかを厳格に審査するのは裁判官ですが、そもそも「逮捕するべき事件なのか?」を判断するのは捜査を担当する警察や検察官です。
警察・検察の事件捜査が本格化する前に被害者との示談を成立させる、警察・検察に対して任意の取り調べに応じる姿勢を示す申し入れをおこない逃亡や証拠隠滅の危険を否定するといった弁護活動によって、逮捕を回避できる可能性が高まります。 -
(2)逮捕後の早期釈放に向けた弁護活動を依頼できる
警察に逮捕されると、起訴されるまでに、逮捕の段階で最長72時間、勾留によって最長20日間、合計で最長23日間にわたる身柄拘束を受けるおそれがあります。さらに、起訴された場合、保釈されない限り、刑事裁判が終了するまで長期間身体拘束が継続することもあります。
身柄拘束が長引いてしまうと、家庭・会社・学校など、さまざまな方面で不利益が生じる事態は避けられません。
逮捕されてしまった場合でも、弁護士のサポートを得れば早期釈放を実現できる可能性が高まります。検察官・裁判官へのはたらきかけによる勾留の回避や、勾留の決定に対する不服申立て、保釈請求といった対抗策は、弁護士の助けがなければ実現は難しいでしょう。 -
(3)処分の軽減を目指した弁護活動が期待できる
たとえ逮捕されても、かならず厳しい刑罰が科せられて刑務所に収容されてしまうわけではありません。
検察官が不起訴処分を決定すれば刑事裁判が開かれないので刑罰を受けることはないし、刑事裁判でも加害者にとってくむべき有利な事情が認められれば処分は軽く傾きやすくなります。
懲役・禁錮に執行猶予が付されたり、罰金が選択されたりする可能性もあるので、刑事裁判では有利な事情を積極的に主張するべきです。
弁護士のサポートがあれば、不起訴や執行猶予などの処分を得られる可能性が高まります。罪を犯したことが事実であり、逮捕・起訴が避けられない状況でも、あきらめる必要はありません。
5、まとめ
罪を犯して現場で逮捕されなくても、さまざまな証拠をもとに捜査が進めば「後日逮捕」されてしまうおそれがあります。
ただし、すべての事件が逮捕を伴うわけではありません。ニュースなどで報じられていないだけで、逮捕を伴わない在宅事件も少なくないのです。
逮捕に不安を感じているので被害者との示談を成立させて素早く事件を解決したい、逃げたり証拠隠滅をはたらいたりするつもりはないので在宅事件としての処理のなかで自分の主張を述べたいと望む場合は、まずはベリーベスト法律事務所 錦糸町オフィスにご相談ください。
刑事事件の解決実績を豊富にもつ弁護士が、逮捕の回避や早期釈放、処分の軽減を目指して全力でサポートします。
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