警察の逮捕に前兆はある? 逮捕に至るまでの流れと逮捕の条件
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警察による「逮捕」は突然やってきます。たとえば、令和4年5月から8月の間には、JR錦糸町駅の周辺で違法な客引き行為の取り締まりがおこなわれましたが、この期間に男女18人が条例違反などの容疑で逮捕されたそうです。客引き行為をしていた店舗従業員や関係者らは、まさかいきなり逮捕されるとは予想もしていなかったでしょう。
一方、現行犯の逮捕ではなく、犯行の後日となると「いつ逮捕されるのか」「そもそも逮捕されるのか」と不安な状況が続くはずです。犯行の後日、警察による逮捕には、なにか前兆があるのでしょうか。逮捕状が出ているのか調べられるのかも気になるところです。
本コラムでは、事件発生から逮捕までの流れを確認しながら、警察による逮捕をあらかじめ知る方法はあるのかについて、ベリーベスト法律事務所 錦糸町オフィスの弁護士が解説します。
1、事件が発生してから逮捕されるまでの流れ
刑事事件が発生すると、どんな流れで逮捕されるのでしょうか。順を追ってみていきましょう。
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(1)警察による事件の認知
警察は、さまざまな活動を通じて事件を「認知」します。
- 被害者の相談や被害届の提出
- 一般市民からの通報や情報提供
- パトロール中の発見
- 職務質問や交通取り締まりなどの警察活動
- 告訴・告発
- 犯人の自首
- 共犯者や関係者の取り調べ
捜査の端緒をつかんだ警察は、犯罪が存在したという事実を確認したうえで各種の捜査を進めます。
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(2)被疑者の特定
犯罪の多くは、人知れないところや、警察官が見ていないところでおこなわれます。知人間の暴行トラブルや元交際相手によるストーカー事案などのように犯人がはっきりしているケースもありますが、窃盗や器物損壊といった犯罪はどこの誰が被疑者なのかわかりません。
警察は、さまざまな証拠や資料をもとに被疑者を特定します。目撃情報や防犯カメラの映像、犯罪の現場に残された遺留品や指紋・DNAなどの鑑識資料などが特定につながる要因になるでしょう。 -
(3)逮捕状の請求
捜査の結果、被疑者が「罪を犯したと疑うに足る相当の理由」及び「逃亡または証拠隠滅を図るおそれ」があると認められる場合は、捜査書類をまとめて裁判官に逮捕状の発付を請求します。
逮捕状請求を受けた裁判官は、捜査書類をもとに、対象者が罪を犯したと疑うに足りる相当な理由があるのか、逃亡・証拠隠滅を図るおそれがあるのかといった点を中心に検討し、逮捕の可否を審査します(刑事訴訟法第199条、刑事訴訟規則第143条の3)。
もっとも、逮捕状請求にあたっては、警察の請求どおり、ほとんどのケースで逮捕が許可されているのが実情です。
令和2年版の司法統計によると、全国の裁判所において発付した逮捕状の総数は一年間で8万1821件にのぼっていますが、裁判官が却下したものはわずか67件しかありません。却下される割合は0.1%未満という実情です。 -
(4)逮捕の着手
逮捕状が発付されると、警察は逮捕へと着手します。発付された逮捕状の有効期限は原則として発付の日から7日間なので(刑事訴訟規則第300条)、発付の当日や翌日のうちに執行されるのが定石です。
ただし、裁判官が相当と認める場合、例外的に7日間を超える有効期限の逮捕状が発布されます。
なお、有効期限が切れた逮捕状は無効となり、執行できなかった場合は裁判所に返還しなくてはなりません。被疑者が逃亡しているなどの理由で執行できなかった場合は、返還とあわせて改めて逮捕状が請求されることが実務上多いです。
こういった場合、7日よりも長い期間を定める相当性が認められることが多く、長い有効期限(1~3か月)の逮捕状が発布されることが通常です。
2、逮捕の前兆はある? 事前に警察から連絡が入るのか?
警察に逮捕されると、警察の段階で48時間以内、検察官の段階で24時間以内、合計72時間以内の身柄拘束を受ける事態になります。
さらに、引き続いて勾留を受けてしまうと、最長20日間にわたって身柄拘束が延長されます。加えて、起訴された場合、刑事裁判が終わるまで数か月~数年単位で身体拘束が継続する場合もあります。
長期間の間社会から隔離されるかもしれないので、仕事・学校・家庭などの都合を考えれば「前もって教えてほしい」と考えるのも当然でしょう。
逮捕状を請求する際や逮捕に踏み切ったりする前には、警察から連絡が入るのでしょうか?
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(1)逮捕の予定などを事前に知らされることはない
警察の捜査は、基本的に被疑者には秘密で進められます。
自分が捜査の対象になっていることを察知されてしまえば、逮捕や刑罰を恐れて逃亡したり、重要な証拠を隠滅したりといった危険があるので、当然、逮捕の予定が知らされることはありません。警察からの連絡はもちろん、裁判所から「あなたに向けた逮捕状を発付しました」といった通知を受けることもありません。
逮捕に不安を感じて、警察署に「私は逮捕されるのか?」と問い合わせても、逮捕の方針に限らず「捜査の秘密」を理由に、捜査対象になっているのかさえも教えてはもらえないでしょう。 -
(2)警察からの連絡があった場合は逮捕の危険がある
逮捕の予定を知る方法はありませんが、事件を起こしてしまったあとで警察から連絡が入った場合は逮捕の危険が迫っていると考えるべきです。
警察から連絡が入るシチュエーションにはいくつかのパターンがあります。
まずは、逮捕を伴わない「在宅捜査」となり、取り調べや事情聴取のために呼び出しをするパターンです。この場合は、正当な理由がなくこれを拒否しているとかえって逮捕の危険をまねくので注意が必要です。
次に、逮捕を視野に任意で呼び出しをするパターンです。
たとえば、警察側が被疑者の認否を逮捕状請求の資料に添えたいと考えている場合は、任意出頭を求めて取り調べをおこない、供述調書を作成したうえで逮捕状を請求します。逮捕状が発付されるまでの時間は取り調べを継続し、裁判官から逮捕状の発付を受けたのちに逮捕状を執行するという流れです。
また、逮捕を視野に任意出頭を求めるパターンでも、被疑者が自供すれば確信をもって逮捕状を請求する、確証がないので否認した場合には逮捕状請求は見送るなど、対応が分岐することもあります。
いずれにしても「警察から連絡が入った」というだけでは、どのパターンなのかを個人で判断するのは難しいでしょう。かといって、警察に問い合わせても答えは得られません。
自分が置かれている状況を正確に知りたいなら、弁護士に相談してアドバイスを求めるのが賢明です。
3、現行犯逮捕されなければ後で逮捕されないのか?
罪を犯したとしても、その場で誰にも見られていなかったり、そのとき警察に通報されたりしなかった場合は「逮捕は免れた」と安心してしまうかもしれません。
たしかに、一般的にも「現行犯でなければ逮捕できない」といわれている犯罪もあるので、犯行のそのとき、その場を逃れることができればあとは逮捕されないと考える方もいるでしょう。ここでは「逮捕」の種類に触れながら、犯行の後日に逮捕される可能性について考えていきます。
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(1)逮捕には3つの種別がある
「逮捕」には、3つの種別があります。
- 通常逮捕
裁判官が発付した逮捕状にもとづく逮捕です。日本国憲法が定める「令状主義」に従った原則的な逮捕種別であり、犯罪の時効が完成していない限り、いつでも令状発付を請求できます。 - 現行犯逮捕
現に罪を犯している者や、罪をおこない終わって間もない者について、身柄を拘束する逮捕です。
ただちに身柄を拘束しないと犯人を取り逃してしまううえに、犯行を目撃している人なら犯人を誤認するおそれも低いので、裁判官の逮捕状を必要としません。また、他の種類の逮捕と異なり、警察官ではない一般の私人にも現行犯逮捕が認められています。 - 緊急逮捕
現行犯逮捕が可能なのは、犯行と逮捕とが時間的・場所的に接着している場合です。
しかし、犯行から時間的・場所的接着性が認められない場合でも、逮捕状の発付を待っていられない状況もあります。
そこで、一定の重大犯罪を対象に、通常逮捕の要件よりも強い嫌疑がある状況で、逮捕状を請求する時間的な余裕がない場合は、あとで逮捕状を請求することを条件に無令状のままで逮捕することが許されています。
これが、令状主義の例外となる「緊急逮捕」です。緊急逮捕した警察は、ただちに逮捕状を請求しなければなりません。もし裁判官が逮捕状の請求を却下した場合は、ただちに釈放するのが決まりです。
- 通常逮捕
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(2)「現行犯でなければ逮捕できない」という犯罪は存在しない
一般的に、万引き・痴漢・盗撮などの犯罪は「現行犯でなければ逮捕できない」といわれることがあります。たしかに、これらの犯罪は被害者や目撃者などによって被疑者が確保されることで警察が事件を認知するケースが多いので、現行犯逮捕されなければ安心だと誤解されがちです。
しかし、犯罪の要件や刑罰を定めている刑法や逮捕をはじめとした刑事手続きのルールを定めている刑事訴訟法など、どの法律をみても「現行犯でなければ逮捕できない」という犯罪は存在しません。
現行犯逮捕されるケースが多い万引き・痴漢・盗撮といった犯罪も、裁判官の審査をクリアすれば後日の通常逮捕は可能です。
4、逮捕されるかもしれないと感じているなら弁護士に相談を
罪を犯し、そのとき、その場で捕まらなかったとしても、逮捕の危険がなくなるわけではありません。逮捕されるかもしれないと不安を感じているなら、ただちに弁護士に相談してアドバイスを受けましょう。
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(1)被害者との示談交渉による逮捕の回避が期待できる
暴行や傷害、窃盗・詐欺・横領など、被害者が存在する犯罪では、被害者との示談交渉を尽くすことで逮捕を回避できる可能性があります。示談とは、トラブルの当事者同士が裁判外で話し合いによって和解する解決方法です。
加害者は、被害者に対して真摯(しんし)に謝罪し、被害を与えて生じた損害や精神的苦痛に対する慰謝料を含めた示談金を支払います。これを受けた被害者は、被害届や告訴を取り下げることで、加害者を許すという姿勢を示すのが一般的な流れです。
ただし、犯罪の被害者は、加害者に対して強い怒りや嫌悪を感じています。加害者本人やその関係者が示談交渉を申し向けても応じてもらえない可能性が高いので、弁護士を介して交渉を進めたほうが安全です。
また、そもそも加害者本人が示談交渉を試みようとしても、被害者が連絡先を加害者本人に教えることを拒否する場合も多く、かかるケースは弁護士が介入しなければ示談交渉を試みることすらできません。 -
(2)捜査機関に対するはたらきかけが期待できる
弁護士に依頼すれば、逮捕を見送るよう捜査機関にはたらきかけることが可能です。
逮捕状が発付されるには、被疑者が逃亡・証拠隠滅を図るおそれがあるという要件を満たさなくてはなりません。弁護士が窓口となって警察と交渉し、要請があればかならず出頭する、証拠品は任意で提出すると誓約すれば、逮捕の要件を否定する方向に作用する可能性があります。
5、まとめ
警察の捜査は秘密裏に進められます。逮捕の予定も被疑者には決して告げられないので、罪を犯した本人にとっては「とつぜん逮捕された」といった状況になるでしょう。
逮捕の方針や予定を知る方法はないので、逮捕を避けたいと望むならできるだけ早い段階で被害者との示談交渉を進めるなどの対策が必要です。個人での対応は難しいので、弁護士への相談を急ぐことをおすすめします。
逮捕を回避したいと望むなら、ベリーベスト法律事務所 錦糸町オフィスにご相談ください。刑事事件の解決実績を豊富にもつ弁護士が、穏便な解決を目指して全力でサポートします。
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