逮捕状が出るまでの流れや、逮捕後の手続きを解説

2023年07月13日
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逮捕状が出るまでの流れや、逮捕後の手続きを解説

令和5年、未成年を雇って客への酒を提供させた容疑で、錦糸町にあるバーの経営者らが逮捕されました。

この種の事案では、警察が内偵捜査を進めて証拠が固められたうえで、裁判所から「逮捕状」の発付を受けて警察に逮捕されるのが通常です。逮捕状とは、具体的にどのような流れで出るのか、逮捕状が出たという通知や逮捕の前兆はあるのか、気になる方も多いでしょう。

本コラムでは「逮捕状」に注目して、逮捕状が出るまでの流れや逮捕後の刑事手続きの流れなどを、ベリーベスト法律事務所 錦糸町オフィスの弁護士が解説します。

1、「逮捕状」とは?

ドラマや映画などフィクションの世界でもたびたび登場する「逮捕状」とは、一体どんな効力をもつものなのでしょうか?

  1. (1)「逮捕」の意味

    逮捕状の意味を知るうえでまず理解しておきたいのが「逮捕」の意味です。

    逮捕という用語には「罪を犯した人が捕まり罰として自由を奪われる」というイメージがつきまといますが、その解釈は誤っています。

    逮捕とは、罪を犯した相当な疑いのある者について、逃亡や証拠隠滅を防ぎ、法律にもとづく正しい刑事手続きを受けさせるために捜査機関のもとで身柄を拘束する手続きです

    ニュースや新聞などの報道では「逮捕=真犯人」と決めつけるような内容が目立ちますが、逮捕の段階では「疑いがある」だけで、罪を犯したと断定されたわけではありません。また、疑いがあるだけなので、有罪と決まったわけでもなければ、刑罰が科せられると決まったわけでもありません。つまり、逮捕は犯罪をしたことに対して課せられる罰である刑罰とは全く異なる性格をもちあわせていることになります。

  2. (2)裁判官が逮捕を許可する令状が「逮捕状」

    日本国憲法第33条には「何人(なんぴと=すべての人)も、現行犯として逮捕される場合を除いては、権限を有する司法官憲が発し、かつ理由となっている犯罪を明示する令状によらなければ、逮捕されない」という規定があります。

    この規定が、日本国憲法の定めによる「令状主義」と呼ばれる原則です。

    逮捕は、裁判官の審査を経て許可を得たことの証明となる「逮捕状」という令状がなければ認められません。逮捕状の発付を受けていない逮捕は、たとえ犯罪の容疑があったとしても例外的な場合を除き違法となります

2、逮捕状が出るまでの流れ

事件が起きて逮捕状が出るまでの基本的な流れを確認していきます。

  1. (1)事件を認知した警察が捜査を進める

    まずは、被害者からの届出や情報提供、警察官による内偵などから事件が認知されます。
    事件を認知した警察は、被害者や参考人から事情を聴いたり、各種の機関へ情報を照会したり、現場に赴いて証拠や資料を集めたりといった捜査を進めて、容疑者の特定や事件が確かに存在したことを疎明していきます。

  2. (2)警察が裁判官に逮捕状の発付を請求する

    捜査の結果、容疑者が罪を犯したと疑うに足りる相当な理由があり、身柄を拘束しなければ逃亡や証拠隠滅を図るおそれがあることが確認されると、逮捕状の発付が請求されます。
    事件の認知から逮捕状の請求までは、事件の内容や疎明すべき事項の多少などによって異なるので「〇日くらいで逮捕される」という予測は立ちません。
    事件当日に逮捕状請求に至るケースがあれば、捜査に数カ月・数年の時間がかかることもあります。

    逮捕状請求を受けた裁判官は、警察が用意した疎明資料をもとに審査し、逮捕の可否を検討します。

    ただし、警察による逮捕状請求は、警察署幹部による事前の精査がおこなわれているので、裁判官の段階で発付が却下されることはほとんどありません。

    裁判所が公開している「逮捕状の請求数と発付数等(地簡裁総数)」によると、令和3年中に全国の地方裁判所・簡易裁判所への逮捕状請求の総数は8万638件で、うち7万9534件が許可されており、却下の件数は57件でした。

    警察が取り下げたものを除くと、却下率は0.1%にも達しないというのが現実です。

    なお、逮捕状請求にかかる審査は、ほとんどが当日中に終わります。逮捕状の有効期限は発布されてから1週間であり、これを過ぎるとその令状によって逮捕することが出来なくなるため、発付されると数日中に逮捕されることになると考えておくべきです。

  3. (3)逮捕前に逮捕状の請求や発付が通知されることはない

    事件の認知から逮捕状請求・発付までの流れをみていると、捜査や審査の途中で警察から「あなたへの逮捕状を請求します」と知らされたり、裁判所から「あなたを逮捕する許可を出しました」といった通知があったりするのではないかと考える方がいるかもしれません。

    しかし、残念ながら逮捕状の請求や発付を対象者に知らせる制度はありません。そもそも、逮捕には「逃亡・証拠隠滅を防ぐため」という目的があるので、事前に通知してしまうと逃亡や証拠隠滅に走る危険を高めてしまうからです。

    基本的に逮捕の前兆や予兆は得られないので、事件を起こすと「突然、逮捕される」という危険と隣り合わせになるのだと心得ておいてください

3、逮捕状がなくても逮捕される?

逮捕には3つの種類があります

日本国憲法が定める令状主義にもとづき、事前に裁判官から逮捕状の発付を受けて執行する逮捕を「通常逮捕」といいますが、これから挙げる「現行犯逮捕」と「緊急逮捕」では、事前の逮捕状発付を必要としていません。つまり「逮捕状なしで逮捕される」ことになります。

  1. (1)現行犯逮捕は逮捕状が不要

    現行犯人の身柄を拘束する手続きを「現行犯逮捕」といいます。

    対象者が現に罪を犯している、または罪をおこない終わった状況であることが明白である場合、その対象者は「現行犯」となります。対象者が罪を犯したことが明白であり、誤認逮捕の恐れが低く、逃亡や証拠隠滅を防ぐための緊急性も高いため、逮捕状なしでの逮捕が可能です。

    現行犯逮捕の大きな特徴は、警察などの捜査機関ではない一般の私人にも逮捕が認められているという点にあります

    たとえば、スーパーで万引きをした人を店員が確保した、電車内で痴漢をしている状況をみていた乗客が取り押さえたといった状況は「私人による現行犯逮捕(私人逮捕)」となります。

  2. (2)緊急逮捕は事後的な逮捕状請求でも逮捕可能

    一部の重大犯罪に限り、罪を犯したと疑うことができる十分な理由があり、裁判官に逮捕状を請求する時間がない場合は、その理由を告げて逮捕することが可能です

    これを「緊急逮捕」といいます。緊急逮捕では、事前に逮捕状の発付を受ける必要がありませんが、逮捕後はただちに逮捕状の発付を請求しなくてはなりません。また、もし逮捕状の請求が裁判所に却下された場合は、ただちに釈放する必要があります。

4、逮捕後はどうなる? 刑事手続きの流れ

警察に逮捕されると、その後はどうなるのでしょうか。刑事手続きの流れについて、順を追ってみていきます。

  1. (1)逮捕の効力は最大72時間

    警察に逮捕されると、最長48時間の身柄拘束が開始されます。

    逮捕から取り調べまでの主な流れは、次の通りです。

    • 警察署への連行
    • 弁護人を選任する権利があることの説明
    • 逮捕状に記載されている容疑への弁解が録取
    • 署内の留置場への収容手続き
    • 取り調べ


    取り調べなどの捜査を終えた警察は、逮捕した容疑者の身柄と捜査書類を検察官へと引き継ぎます。これが、ニュースなどでは送検と呼ばれている「送致」という手続きです。

    送致を受理した検察官は、みずからも取り調べをおこない、引き続き身柄を拘束したままで捜査を続ける必要があるのか、それとも釈放すべきなのかを24時間以内に判断します。

    ここまでが、逮捕の効力による身柄拘束です。警察の持ち時間は48時間以内、検察官の持ち時間は24時間以内なので、合計すると最長72時間となります

  2. (2)勾留されると最大20日間の身柄拘束を受ける

    取り調べの結果、「さらに身柄拘束を続けるべきだ」と判断された場合、検察官が裁判所に対し「勾留」を請求します。

    勾留の請求を受けた裁判官は、勾留質問の場で容疑者と面談したうえでその可否を検討しますが、令和4年版の犯罪白書によると却下率は4.1%と極めて低いので、却下を期待するのは難しいでしょう。
    もっとも、逮捕の段階で弁護士が有効な弁護活動を行うことによって、勾留請求を回避したり、勾留が却下されたり場合もあります。

    勾留が決定すると最長で10日間の身柄拘束を受けます。容疑者の身柄は再び警察へと戻されて、検察官による指揮のもとで警察が捜査を担当します。

    決定で示された勾留期限内に捜査が終わらない場合、一度に限り最長10日間の延長が可能です。つまり、勾留の期間は最長で20日間となります。

    逮捕から数えると最長23日間の身柄拘束となるため、社会生活に影響が出ることは免れないでしょう隔離の時間を短くするには勾留の回避が重要です

    勾留の回避には逮捕直後からの素早い対策が必須ですが、勾留が決定するまではたとえ家族であっても面会が許されません。

    逮捕直後から本人と面会できるのは弁護士だけです。身柄拘束を最短で抑えたいなら弁護士への相談・依頼を急ぎましょう。

  3. (3)検察官が起訴するとさらに勾留される場合が多い

    勾留が満期を迎える日までに、検察官が「起訴」または「不起訴」を決定します。起訴とは刑事裁判を提起すること、不起訴とは刑事裁判の提起を見送るという意味です。

    検察官が起訴すると、容疑者の立場は「被告人」となり、起訴された時点で勾留されている場合は、さらに勾留請求がされるケースが殆どです。被告人勾留の期限は最長1か月ですが、刑事裁判が継続している限り何度でも延長可能なので、実質は無期限です

    反対に、不起訴になると刑事裁判が開かれないので、身柄拘束の必要もなくなります。不起訴が決定した直後に釈放されるうえに、刑罰も受けません。

    身柄拘束の短縮や厳しい刑罰の回避を望むなら不起訴を目指すのが最善なので、弁護士に依頼して被害者との示談交渉を進めるなど、不起訴の確率を高める対策を進めましょう

  4. (4)刑事裁判が開かれる

    初回の公判が開かれるのは、起訴からおよそ1~2か月後です。以後、おおむね1か月に一度のペースで公判が開かれ、数回の公判を経て最終回の日に判決が言い渡されます。

    刑事裁判では、裁判官が証拠を取り調べたうえで有罪・無罪を決定しますが、検察官は十分な証拠が存在し、有罪の確証がある場合に起訴をするため、起訴された場合の有罪率は99%以上です。
    有罪となる場合でも、被害者に謝罪と弁済を尽くしている、事件後は家族による監督強化が約束されているなどの有利な事情があれば、刑罰が軽い方向へと傾く可能性があります。

    どのような事情が被告人にとって有利にはたらくのかを判断するのは事件の内容によって異なり、個人での対応は難しいので、ここでも弁護士によるサポートが欠かせません

5、まとめ

刑事事件を起こしてしまうと「逮捕」の危険と常に隣り合わせになってしまいます。なんとかして逮捕を避けたいと思っていても、逮捕状が出るまでにどのくらいの時間の余裕があるのかは計れないので、素早い行動が必須です。

また、警察に被害届を出される前に示談交渉をまとめれば、事件化されたり逮捕されたりする危険性を大幅に低減することが可能です。

逮捕や厳しい刑罰の回避を望むなら、弁護士への相談を急いでください。ベリーベスト法律事務所 錦糸町オフィスでは、刑事事件の解決実績を豊富にもつ弁護士が、穏便な解決を目指して全力でサポートします

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