盗撮の時効│刑事と民事で期間が異なる? 逮捕される可能性は?

2022年10月20日
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盗撮の時効│刑事と民事で期間が異なる? 逮捕される可能性は?

「盗撮」は犯罪です。以前は高性能な小型カメラをもっていないと難しい犯罪でしたが、スマートフォンの普及によって「誰にでも簡単にできる犯罪」になってしまいました。

墨田区では「すみだ安全・安心メール」の配信や防犯カメラ設置・維持費用の助成など、防犯対策に力を入れています。また、盗撮犯の人相や服装といった情報が広く拡散されたり、盗撮しようと不審な動きをしている姿を防犯カメラに記録したりしています。

もし、過去に盗撮をしてしまった経験があれば、「いつかバレて逮捕されるかもしれない、時効が成立するまで安心できない」と不安を抱えているかもしれません。

盗撮をしたらいつ時効を迎えるのか、過去の盗撮で逮捕されることはあるのか、被害者から慰謝料などの請求を受けるおそれはあるのか。本コラムでは「盗撮の時効」について、刑事・民事の両面から解説していきます。

1、「盗撮」で問われる罪の種類とそれぞれの時効

どのような行為がどのような犯罪にあたるのかは、立法府の定める法令や地方自治体の定める条例によって定められています(罪刑法定主義)。

ただし、わが国に存在しているどの法令や条例をみても「盗撮罪」という罪名は登場しません。盗撮行為は、以下のいずれかの法令や条例によって処罰されます。

  1. (1)迷惑防止条例違反

    盗撮行為に適用されるもっとも典型的な罪名が「迷惑防止条例違反」です。

    迷惑防止条例とは「ぐれん隊」と呼ばれていた不良集団による違法行為を防ぐために制定されたもので、都道府県ごと、全国でほぼ同じ内容の規制が敷かれています。

    迷惑防止条例が全国で最初に制定された自治体は東京都で、正式名称は「公衆に著しく迷惑をかける暴力的不良行為等の防止に関する条例」といいます。

    東京都の迷惑防止条例では、第5条1項2号によって、人が衣服の全部または一部を着けない状態でいるような場所や、公共の場所・公共の乗り物・不特定または多数の人が利用や出入をする場所における盗撮行為が処罰対象として規定されています。

    住居・トイレ・風呂・更衣室・電車やバスなどの公共交通機関・学校・事務所・タクシーなど、あらゆる場所における盗撮が犯罪となる内容です。

    罰則は1年以下の懲役または100万円以下の罰金です。
    常習して盗撮行為を行っていたと判断される場合には、2年以下の懲役または100万円以下の罰金へと加重されます。常習か否かは、明確な基準が定められているわけではなく、回数、期間、方法、動機などを考慮して判断されることになります。

    東京都の迷惑防止条例によって処罰される場合、常習の有無を問わず、時効は盗撮行為が終了した時から3年です

  2. (2)軽犯罪法違反

    正当な理由なく他人の住居や風呂場、更衣室など、人が衣服を着けないでいるような場所をのぞき見すると軽犯罪法第1条23号に該当し、処罰対象となります。

    盗撮目的は「正当な理由」ではないため、盗撮行為に伴ってこれらの場所をのぞき見すると、軽犯罪法による処罰対象となります。

    軽犯罪法は軽微な秩序違反行為を罰する法律で、34項目の行為に拘留または科料が科せられます。時効は行為が終了した時から時効は1年です。

  3. (3)住居侵入罪・建造物侵入罪

    盗撮行為に伴って他人の住居や塀で囲まれた敷地、店舗や施設等に立ち入ると、刑法第130条の「住居侵入罪」や「建造物侵入罪」等によって処罰されます。

    住居侵入罪や建造物侵入罪等は、いわゆる「不法侵入」と呼ばれる行為に適用される犯罪です。

    本来出入り自由な商業施設や公共機関などでも盗撮目的で立ち入れば本罪の処罰対象となります。

    本罪における「侵入」とは、「管理権者の意思に反する立ち入り」のことを指しますが、盗撮の目的で立ち入ることは管理権者の意思に反した立ち入りだと判断されます。

    つまり、実際に盗撮をしていなくても、盗撮の目的を有している以上、これらの場所に立ち入った時点で犯罪が成立します

    法定刑は3年以下の懲役または10万円以下の罰金で、時効は3年です。

2、「刑事」の時効と「民事」の時効は異なる

ここまでで、盗撮行為に適用される迷惑防止条例違反・軽犯罪法違反・刑法の住居侵入罪等の時効を説明しましたが、これは「刑事事件」としての時効です。
実は、「刑事」と「民事」は時効の考え方や取り扱いが異なります。

  1. (1)刑事事件の時効の考え方

    一般的に「時効」といえば刑事事件としての時効をイメージする方が大半でしょう。刑事事件としての時効は「公訴時効」と呼ばれます。

    公訴時効とは、検察官が刑事事件としての判断を裁判所に求める「起訴」までのタイムリミットです。犯罪行為が終了した瞬間から進行を始めますが、時間ではなく「日」で計算します。

    時効年数は法律が定める刑罰に応じて異なります(刑事訴訟法第250条)。迷惑防止条例違反と住居侵入罪等は「長期5年未満の懲役・禁錮、または罰金にあたる罪」なので3年、軽犯罪法違反は「拘留または科料にあたる罪」なので1年です。

    時効が成立すると検察官が起訴できなくなるので、刑事裁判が開かれません。刑罰を科すことができなくなるので、警察・検察官による捜査は打ち切られます。

  2. (2)民事事件の時効の考え方

    法律の考え方に従えば、盗撮は誰にも許される行為ではなく、誰もが盗撮されない権利をもっているのは当然です。

    盗撮は「不法行為」にあたるため、盗撮された被害者には精神的苦痛等に対する損害賠償を求める権利があります。

    しかし、たとえ盗撮被害に遭ったとしても、遠い将来にわたっていつでも請求可能だとすれば、加害者は永久に「いつか賠償金の請求を受けるかもしれない」という不安にとらわれ続けることになるでしょう。

    そこで、損害賠償の請求にも期限が設けられています。これが「民事事件」としての時効にあたります。請求権が消滅するまでのタイムリミットを「消滅時効」と呼びます。

    民法上の不法行為に基づく損害賠償請求権の消滅時効は、被害者が損害および加害者を知ったときから3年間、または不法行為のときから20年間です(人の生命または身体を害する行為の場合は、知った時から5年、行為時から20年となります。)。この3年または20年のいずれかの時効期間が経過した時点で、損害賠償請求権は消滅します。

    刑事事件の公訴時効は犯罪行為が終了した時点又は犯罪結果が発生した時点から進行が始まります。

    一方、民事事件の不法行為に基づく損害賠償請求権の消滅時効は、当該行為があった時点からの時効の進行(20年)とは別に、被害者が「自分が被害に遭った」と知った時点から3年(生命身体を害した場合は5年)という時効の進行もあります。

    時間がたって盗撮が発覚したり、別の事件を起こして検挙され余罪として盗撮も立件されたりといったケースでは、警察が捜査を進める過程ではじめて被害者が盗撮被害に気づくことも少なくありません。

    公訴時効が成立し、刑事事件としての処罰を免れた後であっても、民事事件としての消滅時効は成立しておらず、損害賠償請求をされてしまうといった事態が起こり得ます

3、時効成立まで逃げることは可能? 過去の盗撮でも逮捕される?

盗撮したのが事実でも、公訴時効が成立すれば刑罰は科せられません。それならば、罪に問われないために時効成立まで逃げ続けるという選択肢を考える方もいるでしょう。

果たして時効成立まで逃亡することは可能なのでしょうか?

  1. (1)時効成立まで逃亡するのは難しい

    テレビ特番などでは「時効成立までに犯人を捕まえられなかった」という重大事件のケースが紹介されているので、自分に容疑が向けられたとしても「逃げ続けられるはずだ」と考えてしまうかもしれません。

    しかし、時効成立まで逃亡を続けるのはきわめて困難です。とくに、被害者が盗撮に気づいてすぐに警察に届け出をした、盗撮に使ったスマホやカメラを現場に残してしまったといったケースでは、捜査によって盗撮犯として特定されるおそれが高いでしょう。

    居所をくらましても、身分を明かせず、携帯電話の契約や銀行口座の開設などもできない状況では、定職に就くことも、安定した収入を得ることも不可能です。
    そんな生活を年単位で続けるのは現実的ではありません。

  2. (2)過去の盗撮でも逮捕の危険がある

    新聞やニュースで報じられる盗撮事件の多くは、被害者や周囲の目撃者が盗撮に気づき、現行犯逮捕されています。こういった傾向があると「盗撮は現行犯でなければ捕まらない」と考えてしまいがちですが、その思考は間違いです。

    過去に起こした盗撮事件でも、被害者や目撃者の供述、現場に遺留された証拠品の解析、防犯カメラに記録された映像などから盗撮犯として特定されれば、時効が成立するまでは逮捕・刑罰を受ける危険があります

    時効成立をねらって逃亡を続けても、社会生活を送る限りはどこかに足跡が残るものなので、逮捕や刑罰を避けるには積極的に解決を図る方が得策です。

4、盗撮に関する不安があるなら弁護士に相談を

警察に逮捕されると、48時間を上限とした身柄拘束を受けます。検察官へと送致されると追加で最長24時間の身柄拘束を受けます。勾留が認められてしまうと、さらに追加で最長20日間にわたる身柄拘束が続きます。加えて、起訴されてしまった場合、刑事裁判が終了されるまで数か月~数年に渡って勾留される場合もあり、社会生活への悪影響は計り知れません。

盗撮事件をできる限り穏便なかたちで解決したいと望むなら、ただちに弁護士に相談しましょう

  1. (1)警察による取り調べへの対応についてアドバイスを得られる

    盗撮が警察に発覚すると、厳しい取り調べを受けて事実の追及を受けます。密室でのやり取りになるので、身体への暴力や机・壁などへの間接暴力、脅しなどを受ける危険がないとも断言できません。

    さらに、容疑をかけられている本件とあわせて余罪についても厳しく追及される場合もあります。余罪の自白へと誘導されるかもしれないので、どの部分を認め、どの部分を否定するのか、冷静な判断が必要です。

    弁護士に相談すれば、取り調べで供述をする際の注意点や、取調官のどんな言動に注目するべきなのかといったアドバイスが得られます。
    身体拘束をされており、冷静さが失われてしまいやすい特殊な状況の中で、自身の判断で対応していると警察が思い描いているとおりの展開になってしまう場合もあります。刑事事件の流れや盗撮事件のポイントを理解している弁護士の助言によって、そういった危険性を減らすことができます。

  2. (2)早期釈放を目指した弁護活動が期待できる

    盗撮容疑で逮捕されてしまうと、逮捕から起訴までに最長23日間の身柄拘束を受けます。
    余罪によって逮捕されれば、追加で最長で23日間の身柄拘束がなされ、余罪の数によってはそれが繰り返される場合もあります。さらに起訴されれば刑事裁判の判決が下されるまで釈放されない場合も多いです。

    身柄拘束が長引くと、家庭・会社・学校から隔離される時間が続きます。離婚や離縁、解雇や退学といった不利益を避けるためには、早期釈放の実現が大切です。

    弁護士が、捜査機関や裁判所に対して、定まった住居に家族と住んでいる、定職に就いている、すでに重要な証拠は捜査機関が既に収集済みであるなどの状況を客観的に説明し、逃亡・証拠隠滅を図るおそれがないという判断をしてもらうことで、早期釈放を実現できる可能性が高まります。

  3. (3)加害者にとって有利な処分を実現できる可能性が高まる

    盗撮事件で逮捕や厳しい刑罰を避けるためにもっとも効果的な手段が「被害者との示談」です。
    被害者に対して真摯(しんし)に謝罪し、精神的苦痛に対する慰謝料などを含めた示談金を支払うことで、被害届や刑事告訴が取り下げられれば、捜査機関は「すでに被害者には『加害者を罰してほしい』という強い意志はない」と評価します。

    盗撮行為に適用される犯罪・違反はすべて「親告罪」にはなく、特に迷惑防止条例については個人の性的自由の保護ではなく平穏な社会を維持することが目的であるため、被害届や刑事告訴の取り下げがあったからといって、かならず事件が終結するとは限りません。

    しかし、被害者の処罰意思がおさまっていれば捜査や刑事裁判の維持に対する積極的な協力も期待できなくなるので、示談が成立すれば検察官が不起訴処分を下して事件を終結させる場合も多いです。

    また、検察官が起訴に踏み切った場合でも、刑事裁判を開かずに書面だけで罰金刑を科して終結させる判断となる可能性も高まります(略式起訴)。公開の法廷で刑事裁判が開かれたとしても、すでに謝罪・賠償が尽くされているという事情があれば裁判官が「あまり厳しい刑罰を科す必要はない」と判断し、刑罰が軽くなる可能性が高まります

    懲役に執行猶予がついたり、罰金で済まされたりするといった有利な判決を望むなら、被害者との示談はきわめて重要です。

    ただし、盗撮事件の被害者は、加害者に対して強い怒りや嫌悪を感じているケースが多く、加害者本人やその家族による交渉では相手にしてもらえないおそれがあります。しつこく示談を迫っていると、被害者が「脅迫された」と言い出す危険もあるので、示談交渉は弁護士に一任したほうが安全です。

5、まとめ

盗撮事件を起こして「時効まで逃げ続けよう」と考えるのは無謀です。警察の追っ手から逃れるのは容易ではないうえに、定まった住居や安定した収入を得られない状態で逃亡生活を送るのは現実的ではありません。

「時効まで逃げる」といった発想は持たず、被害者との示談交渉を尽くして穏便な解決を図ったり、警察・検察官による取り調べなどの捜査への対策を講じたりといった準備があれば、逮捕や厳しい刑罰を回避できる可能性が高まります。

過酷で不自由な逃亡生活を送るよりも、積極的な解決を目指したほうが社会復帰も早いでしょう。

盗撮事件を穏便に解決したいと望むなら、ベリーベスト法律事務所 錦糸町オフィスにおまかせください。数多くの刑事事件を解決してきた弁護士が、スタッフと一丸になって全力でサポートします。

  • この記事は公開日時点の法律をもとに執筆しています