万引きが発覚したあと検察官の呼び出しを受けるのはいつ頃?
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「万引き」は市民生活にもっとも近いところで発生しうる犯罪の1つです。
錦糸町を管内にもつ警視庁本所警察署でも、令和4年1月から9月までの間に166件の万引き事件が認知されています。この数字は警察が認知した件数なので、水面下ではさらに多数の万引きが発生しているとも推測できます。
万引き行為を警察が認知すると、その後、万引き行為を行った者は法令に従った刑事手続きを受けることになります。警察による捜査や検察官による取り調べというのが一連の流れですが、具体的にいつ、どのようなタイミングで検察官から呼び出しを受けるのでしょうか。
本コラムでは、万引き事件を起こして検察官から呼び出しを受けるのはいつ頃なのかという疑問を解消していきます。
1、万引きは窃盗罪! どんな刑罰を受けるのか?
「万引き」という用語はすでに一般社会に広く知られていますが、実は刑法をはじめとしてどの法令をみても「万引き」という犯罪名は明記されていません。
万引きは「窃盗罪」の手口のひとつなので、万引き事件を起こした場合は窃盗罪に当たる行為として捜査がされます。
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(1)窃盗罪とは?
窃盗罪は刑法第235条に定められている犯罪です。「他人の財物を窃取した者」を罰する犯罪で、簡単にいえば「他人の金品などを盗む行為」を処罰の対象にしています。
窃盗罪は、犯行場所や盗んだ物の種類などからさまざまな「手口」に分類されており、「万引き」もその手口のひとつです。万引きとは、スーパーやコンビニなどの店頭に陳列されている商品を盗む手口で、令和3年版の犯罪白書によると、すべての窃盗事件のうち、自転車盗に次いで二番目に多い20.9%を占めています。 -
(2)窃盗罪で科せられる刑罰
窃盗事件を起こして有罪判決を受けると、10年以下の懲役または50万円以下の罰金が科せられます。
万引きは窃盗罪におけるあらゆる手口のなかでも犯行態様など犯罪の悪質性が比較的高くないものとして考えられているため、前科のない初犯にもかかわらず懲役刑の実刑判決を受けて刑務所に収監されてしまう可能性は低いでしょう。
しかしながら、万引きは習癖のように繰り返し犯してしまう危険性の高い犯罪であり、万引き行為を繰り返し、何度も警察に捕まってしまうといったケースも少なくありません。そうなれば、処断される刑罰は罰金刑や懲役刑など段階的に重くなっていくでしょう。
また、窃盗行為がなされる前10年以内に窃盗罪や強盗罪などで6か月以上の懲役刑(その執行を猶予された場合も含む)を3回以上受けていると、当該窃盗行為は通常の窃盗と異なる「常習累犯窃盗」となり、その法定刑は3年以上の懲役刑となります。
万引きという手口自体は悪質性の高くないものであるとはいえ、習癖のように繰り返し行っていると、通常の窃盗罪よりも重い罪になる場合もありますので、軽視するのは禁物です。
2、検察官から呼び出しを受けるのはいつ頃? 刑事手続きの流れ
万引き事件を起こして警察に認知されると、警察による捜査のほかに、検察官から呼び出しを受けます。では、いつ頃に検察官から呼び出しを受けるのでしょうか。刑事事件の処理方法という一般論から順番にみていきましょう。
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(1)在宅事件と身柄事件の違い
まず、刑事事件の処理方法には「在宅事件」と「身柄事件」の二通りがあります。
在宅事件とは、被疑者を逮捕せずに捜査が進められる手法です。もう一方の身柄事件とは、被疑者を逮捕し、厳格な身体拘束時間の制限があるなかで捜査が進められます。
万引きの容疑をかけられて、警察官から「警察署で詳しい事情を聞かせてもらう」と告げられれば、多くの方は「逮捕された」と考えるでしょう。
しかし、警察官から「逮捕する」と告げられていない場合は、逮捕ではなく警察署への「任意同行」にすぎません。警察署にて被疑者の任意で取り調べを受けたあとは、家族などに引き渡されて自宅へと帰されることになるケースが多いでしょう。
令和3年版の犯罪白書によると、令和2年中に全国の検察庁で処理された窃盗事件のうち、逮捕を伴う身柄事件の割合は30.0%でした。つまり、残る70%の窃盗事件は、逮捕されない在宅事件だったことになり、統計的に窃盗罪は在宅事件となることが多いということがわかります。
ここでは、万引き事件についても、在宅事件として事件処理が進んでいくことを前提にみていくことにしましょう。なお、万引き事件であっても、その犯行内容等によっては身柄事件として捜査が進む可能性はあり、その場合は前記のとおり、厳格な身体拘束時間の制限があるなかで、検察官の取り調べが適宜行われることになります。 -
(2)検察官からの呼び出しは警察の捜査が一通り終わったあと
事件が発覚すると、最初に捜査を担当するのはその地域を管轄する警察署です。ここでは、取り調べや実況見分などの捜査がおこなわれますが、それだけで捜査が終わるわけではありません。
警察での捜査が一通り終わると、警察から検察へと事件の書類や証拠品などが引き継がれます。この手続きが、ニュースでも耳なじみのある「送検」と呼ばれる手続きです。正確には「検察官送致」という名称の手続きですが、省略して送検と呼ばれます。
検察官送致には、書類と証拠品のみが送致される場合と、書類・証拠品に加えて逮捕した被疑者の身柄も引き継ぐ場合があり、ニュースでは前者を「書類送検」、後者を「送検」あるいは「身柄送検」と呼ぶのが一般的です。
したがって、万引き事件が在宅事件として進んだ場合、警察から検察に事件が書類送検されることになり、検察官は、警察から引き継がれた書類や証拠品を精査しながら、みずからも被疑者の取り調べなどの捜査をおこなったうえで、起訴・不起訴の処分を判断します。
つまり、刑事事件(在宅事件)の流れのなかで、検察官が登場して被疑者を呼び出すのは、警察の捜査が一通り終わって送検がされたあとになります。 -
(3)検察官に呼び出される時期は具体的には決まっていない
在宅事件として警察の捜査を受けている段階で、担当の警察官から「後日、検察官からの呼び出しがある」と告げられた場合は、そのまま書類送検がされ、おおむね数週間から1か月程度で検察官からの呼び出しがあると考えておきましょう。
もっとも、警察官から「後日、検察官からの呼び出しがある」と告げられたにもかかわらず、数カ月がたっても検察官からの呼び出しの連絡や通知がないケースがあります。
実は、在宅事件には「〇日以内で送検しなければならない」といった時間制限がありません。被疑者の取り調べが終わったあとも警察が捜査を続けていたり、その後の処理方針が決まらなかったりすると、なかなか書類送検されないといった事態も考えられます。
また、検察においても、法令上時間的制約がある身柄事件より、時間的制約のない在宅事件の方が、検察官が捜査や取り調べを行うスピードは緩やかです。
状況次第では、警察の取り調べが終わったのち、かなりの時間がたったあとで検察官から呼び出しを受けることもあると覚えておきましょう。
3、何を尋ねられる? 検察官から呼び出しを受ける理由
すでに警察で厳しい追及を受けたあとなのに、なぜ検察官からも呼び出しを受けるのかという疑問を感じる方も少なくないでしょう。一体、検察官はなぜ警察の捜査が一通り終わったあとでわざわざ呼び出しをかけるのでしょうか。
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(1)起訴・不起訴を判断するための取り調べをするため
刑事手続きのなかで検察官が担う重要な役割のひとつが、被疑者の起訴、不起訴(起訴猶予)の判断です。
起訴・不起訴を判断することは、検察官だけに認められている権限であり、検察官は、国の代表として重い責任を負います。
警察の手によって一時的な捜査は終了していますが、警察が取り調べるのは、万引きを犯したのか否かといった事実関係、その動機や背景、万引きを実行した際の状況などが中心です。
一方で、検察官は「起訴とするべきか、不起訴とするべきか」を判断する立場なので、起訴に値する悪質性があるのか、反省を促すには刑罰を科す必要があるのかなどといった視点で、改めて取り調べをおこないます。 -
(2)事件後の反省や事情を確かめるため
警察が被疑者を取り調べるのは、万引きが発覚した直後、あるいはさほど時間が経っていない段階です。この段階では、被疑者自身が動揺していて自分の行為を省みる余裕がなかったり、被害者への謝罪や弁済が尽くせていなかったりするケースも少なくありません。
しかし、検察官が起訴・不起訴を判断するうえで、被疑者本人がどのくらい犯罪行為を悔い改めているのか、被害者との示談交渉を尽くしているのかといった事情はきわめて重要です。
したがって、警察の捜査が一時的に終わった際に、検察官はみずからも被疑者を取り調べて、本人の反省の度合いや事件後の諸事情を聴取し、起訴・不起訴の判断材料を探します。
万引きを犯した事実を自認して深く反省し、かつ被害者に対して真摯な謝罪を示したうえで商品代金を支払うなどの被害弁償等を尽くしていれば、検察官が、起訴をして刑罰を科す必要性まではないと判断して不起訴処分となる可能性は高まるでしょう。
4、不起訴を得るには弁護士への相談が重要
検察官が不起訴と判断すると、刑事裁判は開かれません。その時点で事件は終了し、刑罰も科せられないまま社会生活を送ることが可能です。
とはいえ、検察官からの呼び出しを漫然と待つだけでは、不起訴を得られる可能性を高めることはできません。不起訴の可能性を高めたいなら、ただちに弁護士に相談してアドバイスを受けるのが賢明です。
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(1)警察・検察の取り調べに際してのアドバイスが得られる
警察・検察の捜査では、いずれも取り調べがおこなわれます。もっとも、警察は犯罪の事実や経緯を明らかにするため、検察は起訴・不起訴を判断するためという異なった目的を持っているので、質問に対してどのような供述をすべきなのかのポイントも異なることを心得ておかなければなりません。
とくに、検察の取り調べでは、その場での対応が起訴・不起訴という重要な判断に大きな影響を与えかねません。誤って不利な状況を招かないために、弁護士に相談して、どのような供述に徹するべきなのかのアドバイスを受けましょう。 -
(2)不起訴を目指したサポートが得られる
万引きを犯しても、かならず刑罰を受けるわけではありません。検察官が不起訴と判断すれば、刑事裁判は開かれないので刑罰を受けることも回避できます。
弁護士にサポートを依頼すれば、被害者との示談交渉や検察官に対する不起訴処分へのはたらきかけが期待できるでしょう。
警察の捜査が終わり、検察官からの呼び出しを待っている期間は、不起訴を目指す準備を進めるための貴重な時間です。呼び出しを待つのではなく、ただちに弁護士に相談してサポートを依頼することをおすすめします。
5、まとめ
万引きを犯してそれが発覚し、刑事手続きが進行すると、検察官から呼び出しを受ける段階へと進みます。検察官の取り調べでは、警察で尋ねられた内容と同じ質問が繰り返されるかもしれませんが、警察と検察は異なった視点で取り調べをおこなっており、検察官の取り調べは起訴・不起訴を左右するので、慎重な対応が必要です。
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